【キャデラック エスカレード試乗】世界のVIPを魅了する巨大アメリカンSUVの本当の実力

■内外装の仕上げはまさに“自己主張の塊”

エスカレードでまず印象的なのは、運転席周りのきらびやかさ。いい換えれば、ラグジュアリーな感覚、といったところだろうか。

例えば、メルセデス・ベンツを始め、レンジローバー、BMW、アウディ、そしてポルシェといったヨーロッパブランドのプレミアムSUVは、インテリアの仕立てのレベルがとても高い。クルマによっては、とても先進的なデザイン&操作系を採用していることもあるが、総じて欧州プレミアム勢のそれは、あくまで“上質”であり“品の良さ”を重視する傾向にある。

一方、エスカレードはどうか? もちろん、仕立てのレベルは高いが、その方向性は“自己主張の塊”。最も分かりやすいのが、インテリアの革や木目のあしらい方で、そこには、さり気なく、とか、調和なんて言葉はないといっても過言ではない。これでもか! というくらい、ふんだんに革を使い、テカテカの光沢仕上げを施した木目パネルを、遠慮なく広い範囲に貼り込んでいる。その上、インパネ中央のパネルも、グロスブロック仕上げでテカテカ。とにかく、室内のパーツ類ひとつひとつの存在感が強く、それが徹底されている。

そうしたクルマ作りは、エクステリアにも通じる。ボディが大きい上に、巨大なメッキグリルを装着。ヘッドライトやバンパーの装飾も含めて、圧倒的なまでの光を放っている。一歩間違えれば、下品に見えてしまう寸前の、まさに紙一重のところでバランスされたこの雰囲気は、ヨーロッパのハイエンドブランドでは絶対に見られないもの。だからこそ、独特の存在感があって強い押し出しを感じるのだ。

もちろんエスカレードは、セカンドシートとサードシートが広くて実用的だし、ピックアップトラックのシャーシをベースしたクルマなのに望外に乗り心地がよく、アメリカ車のV8エンジンならではの、ドロドロとした音が魅力的で、アクセルを踏み込んだ時の吹け上がりも気持ちいい…といったいくつもの美点を備えている。

でもそれらは、このクルマを語る上では、どうでもいいことなのかもしれない。調和や洗練さを追求した欧州プレミアム勢とは異なる、ギラギラとしたラグジュアリーな雰囲気と、強烈な存在感こそが、エスカレードを選ぶ最大の理由ではないか。高い実用性や走行性能は、あくまでオマケとさえ思うのだ。

■社会の常識さえも変えたアメリカンSUVの旗艦

そんなエスカレードが、2018年にデビュー20周年を迎えた。ピックアップトラックのメカニズムを活用し、成立させた大型のラグジュアリーSUVというのは、キャデラックにとって画期的な商品だったが、デビューと同時に絶大な人気を集め、低迷していたキャデラックのイメージと存在感を復活させるきっかけにもなった。

デビューのタイミングこそ、ライバルであるリンカーンの「ナビゲーター」より若干遅いが、時間の経過ともに人気はますます高まって、2010年代はライバルを超えるセールスを記録。これまでの累計では、米国内で75万台、世界全体では83万6000台のエスカレードが、オーナーの手へと渡っている。

実は、そうしたエスカレード人気の高まりによって、世界のラグジュアリーカーの定義は大きく変わった。それまでは、高級車といえば大きな高級セダンのことを指し、VIPたちが最高級ホテルのロビーに乗りつけたり、そこでバレーパーキングを使ったりする際のヒエラルキーの頂点に立つのは、大きなセダンと決まっていた。それが今では、プレミアムSUVがその代表格となっている。エスカレードを始めとするアメリカの高級SUVが、社会の常識さえも変えてしまったのだ。

その証拠に、アメリカのセレブリティたちは、エスカレードを愛用している人が多い。中でも、クリスティーナ・アギレラやジャスティン・ビーバーといった若いセレブは、エスカレードを好んで、愛車としているようだ。

もちろん、車体が大きく強靭で、万一の事故の際の安全性が高い点や、乗車位置が高いため車内をのぞかれにくく、プライバシーを保ちやすいというのが理由なのかもしれないが、それは何も、エスカレードに限った話ではない。

セレブたちがあえてエスカレードを選ぶ理由。それは、ギラギラとした押し出しの強さが、彼ら自身の自己主張につながること。そして、高級車はセダンでなければ、という古い価値観にとらわれない、自由な表現のひとつとしてこのクルマを位置づけているのではないだろうか。

アメリカンSUVの枠にとどまらず、アメリカンラグジュアリーカーの頂点に立つエスカレードは、まさに、存在するだけで意味のある孤高の存在。今回、久しぶりにドライブしてみて、このクルマを手にすることの喜びがなんなのか、なんとなく理解できた気がする。

<SPECIFICATIONS>
☆プラチナム
ボディサイズ:L5195×W2065×H1910mm
車両重量:2670kg
駆動方式:4WD
エンジン:6153cc V型8気筒 OHV
トランスミッション:8速AT
最高出力:426馬力/5600回転
最大トルク:63.5kgf-m/4100回転
価格:1360万8000円

(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部、ゼネラルモーターズ・ジャパン)


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