【マツダ3海外試乗①】乗り心地&静粛性は世界No.1!弱点はエンジンか?:河口まなぶの眼

■“誰もが羨望するクルマ”を目指した新型マツダ3

2019年の1月下旬、ロサンゼルスで開催された国際試乗会で初めて対面した新型マツダ3は、筆者に強烈な第一印象を与えた。

マツダ3は、ゴルフやメルセデス・ベンツ「Aクラス」、日本車でいうとトヨタ「カローラスポーツ」やスバル「インプレッサ」、ホンダ「シビック」などがしのぎを削る激戦区“Cセグメント”に属するモデルだ。マツダの世界販売台数において約1/3の割合を占め、累計販売台数は600万台超。しかも、約130カ国で販売されるマツダの超重要モデルである。それだけに、マツダ自ら“新世代商品の幕開け”と位置づけるなど、新型の開発には相当気合いが入っていることがうかがえた。もっとも同社は、すでに2016年登場の現行「CX−5」から、新世代商品の技術やデザインを一部先取りし、次世代への移行を徐々に行ってきた。そして新型マツダ3では、文字通り、全面的に新世代化を果たしている。

マツダのいう新世代商品とは、ディーゼルとガソリンの“いいとこ取り”をしたような燃焼方式を採用する、新世代ガソリンエンジン“スカイアクティブ-X(SKYACTIV-X)”や、新しい車両構造技術“スカイアクティブ ビークル アーキテクチャー(SKYACTIV-VEHCLE ARCHITECTURE)”、そして、深化した魂動デザインによる“エレガントで上質なスタイル”の3要素で構成された商品を指す。

これらを導入し「“誰もが羨望するクルマ”を目指して開発した」というのは、開発主査を務める別府耕太さん。別府さんはさらに「あらゆる質感を飛躍的に高めた」とも語っている。その話しぶりからは、相当の自信がうかがえた。

マツダは近年、“人間中心”の設計思想の導入を謳っているが、新型マツダ3もそれに基づき、デザイン、走り、静粛性、環境性能、質感など、すべての領域を飛躍的に高め、未知の価値を創り出すことに挑戦。その成果を、新世代商品の要素として用いている。

そうして世に送り出された新型マツダ3に触れてみて、ほんの数分で驚愕した。別府さんの「あらゆる質感を飛躍的に高めた」という言葉の真意が、さまざまな部分から伝わってきたからだ。

冒頭で触れた通り、新型マツダ3の乗り心地の良さと静粛性の高さは、フリーウェイに合流しても失われない。むしろ、さらにフラットな姿勢がハイレベルで保たれ続ける様子に、再び驚きを覚えたほどだ。この辺りも、これまでの日本車では味わえなかった頼もしい感覚といえるだろう。

こうした乗り心地の良さと静粛性の高さは、まさにスカイアクティブ ビークル アーキテクチャーによる賜物。まず静粛性に関しては、遮音性能を高めるために、ボディパネルとマット間にスペースを設けた“2重壁構造”を、マツダ車として初採用。また、騒音の発生源を抑え、それらを小さくし、さらに、入ってきた音の変化と方向を制御するといった徹底した対策で、単に静かなだけでなく、質の高い静粛性を実現している。そして、良好な乗り心地に関しては、ボディ構造を環状構造とし、走りのための基本骨格作りを徹底追求。その上で、新たに“減衰ボンド”を使い、走行時における路面からの入力をいなす構造を取り入れている。つまり、ボディ骨格の段階から、優れた静粛性や乗り心地を実現するための工夫が施されているというわけだ。

そうして誕生したボディや足回りにおいて、最も驚かされるのはサスペンションだ。フロントはマクファーソンストラット式と、このクラスの標準的な形式だが、リアはこれまでのマルチリンク式から、トーションビーム式へと改められた。旧来的な価値観からすれば、この選択は、ともすればスペックダウンやコストダウンとも受け取れる。しかし、開発陣の意図する通りに足回りが動くよう、このトーションビーム式リアサスペンションを入念に開発・セッティング。その結果、同クラスの頂点だと確信させるほどの快適性を、見事に実現してみせたのである。

その乗り味は、まさに未曾有の感覚。ドイツ車のように、タイヤを押しつけて路面をならすかのように走るのではなく、また、日本車のように、タイヤが路面にあおられてしまって直進性が甘くなるわけでもない。新型マツダ3は、ヒタッと路面にタイヤを接地させつつ、路面からの入力は確実にいなしてくれるため、滑らかなフィーリングが失われない。例えるなら、アスリートが運動をする際の理想的な姿というものが、常時、保たれ続けるといったような印象だ。

■試乗車の心臓部はキラリと光る魅力に乏しい

新型マツダ3に搭載されるパワーユニットは、1.5、2、2.5リッターという3種類のガソリンエンジンと、1.8リッターのディーゼルターボに加え、革新的な燃焼制御技術“SPCCI(スパーク・コントロールド・コンプレッション・イグニッション/火花点火制御圧縮着火)”を実現した、ガソリンとディーゼルとの中間的な特性を持つ大本命、スカイアクティブ-Xが2019年中に加わる。そのうち今回は、北米市場向けの2.5リッターガソリンと、欧州市場向け2リッターガソリンに、“Mハイブリッド”と呼ばれるベルト式の“ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)”を組み合わせたマイルドハイブリッド仕様をドライブした。

最初にハンドルを握ったのは、欧州市場向けの5ドアハッチバック。エンジンは2リッターのMハイブリッドで、トランスミッションは6速MTだ。

走り出した際の乗り心地の良さと静粛性の高さは、先述した通り素晴らしいものがある。だが一方、エンジンはというと、欧州市場の“馬力課税”に対応するため、最高出力が122馬力と低く抑えられていて、ライバルと比べると明らかにローパワー(最大トルクは213Nm=約21.7kgf-mと、2リッターとしては平均的な数値)。

確かに、街中や高速道路の巡行時は、回転の上昇が滑らかで気持ち良く、発進や加速時はモーターアシストならではの、プラスαの力が心地いい。しかし、高速道路などで急な加速を必要とするシーンでは、明確に力不足を感じられるのが残念なところ。実際、5速や6速にギヤを入れたままアクセルペダルを踏んで加速しようとすると、なかなか加速が始まらないという印象だった。

続いて、北米市場向け2.5リッターガソリンエンジンを搭載したセダンをドライブする。

最高出力186馬力、最大トルク252Nm=約25.7kgf-mと、スペックはクラスの平均で、こちらも回転フィールの滑らかさと、吹け上がりの気持ち良さを感じられる。とはいえ、ライバルと比べると、キラリと光る魅力に欠けていたというのが実情だ。

ライバル勢はここへ来て、ガソリンエンジンにモーターを組み合わせた、魅力的なパワーユニットを採用するモデルが増えている。例えば、メルセデス・ベンツ「Cクラス」の1.5リッターターボ+“BSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)”や、ホンダ「インサイト」の1.5リッター“スポーツ・ハイブリッド i-MMD(インテリジェント・マルチ・モード・ドライブ)”に比べると、今回試乗した新型マツダ3のパワーユニットは、魅力に乏しかったというのが本音である。

■運転環境の整備こそが気持ちいい走りの源

とはいえ、そんなエンジンの残念な印象を補って余りある、新型マツダ3の走りの実力には驚かされるばかりだ。

例えば、ワインディングロードを走ってみると、あまりの自然さに一瞬、訳が分からなくなるほど。というのも、通常、クルマというものは、カーブに対してハンドルを切れば、ノーズが動いてロールが生まれ…といった具合に、コーナリング時には一連の動作がある。しかし新型マツダ3は、ハンドルを切ると、ロールを感じさせることなく曲がっていく感じなのだ。操作から反応までの一連の動作が極めて連続的で、クルマの動きを意識させることがない。

さらに驚くのは、操舵に対するクルマの反応が極めて穏やかなこと。もちろん、決して動きが遅いわけではなく、素早い操作に対しては遅れなく反応するが、ボディの動きは常に落ち着きを保ち続ける。雑な操作をしても、車体がグラっとくることがほとんどないのである。これが実に不思議な、新型マツダ3のハンドリングにおける真骨頂だ。走りの開発に携わる虫谷泰典さんは「人は歩く時、体の動きを意識しなくても普通に歩ける。それと同じような感覚で運転できるような環境を作り上げた」と語るが、新型マツダ3では、確かにそれが実現されている印象だ。

また、統合制御システム開発本部の千葉正基さんは、人間を研究し、ドライバーが自然な動作を行える正しい姿勢というものを導き出したという。結果、新型マツダ3では、“骨盤を立てて座る”という、マツダが理想とする着座姿勢をサポートするシートの構造や、ヒザ裏のチルト調整機構を採用している。実際、シートに座ってみると、ベストなドライビングポジションを得られることがすぐに分かる。このように、優れたドライビング環境を構築した上で、極めて自然に動く車両ダイナミクスを構築した結果が、新型マツダ3の異次元の走りにつながっているのである。新型マツダ3の走りの良さには、単なるメカニズムの進化だけでなく、人間を中心に考えた運転環境の整備が大きく貢献しているのだ。

だから、新型マツダ3の走りは、単に楽しいという言葉よりも、どこまでも気持ち良い走り、という表現の方がマッチするように思う。開発陣は新型マツダ3で、同セグメントのライバルをあせらせるだけの、実に気持ちのいい走りを実現したのである。

とはいえ現状のままでは、手放しで絶賛はできない。ウイークポイントはやはりパワーユニットで、今回試乗した2リッターのMハイブリッドと2.5リッターガソリンは、ともに真打ちにはなり得ない。本命のスカイアクティブ-Xや、販売面で主役となるであろう1.8リッターのディーゼルターボ、そして、Mハイブリッド機構のない2リッターガソリンエンジンの印象を、早く確かめたいところだ。驚くべきシャーシの実力に見合うだけの、魅力的なパワーユニットを用意できるか? これが、新型マツダ3の評価の分かれ目となるだろう。

3月10日公開の「Part.2」では、新型マツダ3の内外装の完成度に迫ります

(文/河口まなぶ 写真/マツダ)


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