大胆マスクも案外カッコいい!BMW「4シリーズ」にはクーペの醍醐味が満載です

■フロントマスクが大論争を巻き起こした

ドイツのBMWは日本でもメジャーなブランドで、定番モデルはミドルセダンの「3シリーズ」である。一方、4シリーズ クーペと聞いても、すぐにどんなクルマかイメージできる人は多くないかもしれない。

4シリーズ クーペは、いうなれば3シリーズのクーペ版だ。車体の基本構造を始めとするメカニズムの多くを3シリーズと共用しつつ、4ドアではなく2ドアとし、エレガントなスタイルを身にまとっている。かつて「3シリーズ クーペ」と呼ばれていたモデルが独立し、車名が変わったと考えれば変わりやすい。

そんな4シリーズ クーペの最新モデルが、2020年秋に日本へ上陸した。4シリーズとして独立してから2代目となる新型は、今、世界中で賛否両論入り乱れた大論争を引き起こしている。その火ダネはなんといってもフロントマスクだ。

BMW車のフロントマスク中央には“キドニーグリル”と呼ばれるふたつの楕円を組み合わせたグリルが鎮座している。これは80年以上も前からのBMW車の象徴ともいうべきものだか、近年、そのサイズがどんどん拡大。ついに新しい4シリーズ クーペでは下側が路面近くまで伸び、フロントバンパーへ大きく食い込んだ形状となった。

コレが大論争を巻き起こしているわけだが、筆者も写真で見た時にはあまりの大胆さに「さすがにこれはやりすぎでは?」と感じた。そのため実車と初めて対面する際は、期待半分、不安半分といった心境だった。ちょっとだけ恐いもの見たさのようなドキドキ感があったのだ。しかし実車を前にすると、意外や意外、すんなりと受け入れることができた。いやむしろ、個性的でカッコ良く思えたほどだ。

よくよく考えてみると、アウディの“シングルフレームグリル”やアルファロメオの“盾形グリル”、そしてレクサスの“スピンドルグリル”など、今や街には個性的なフロントマスクを持つクルマがあふれていて、我々の目もそれにすっかり慣れてしまっている。そのため4シリーズ クーペの大胆なフロントマスクも「BMWもここまでやったか」というニュースにはなったものの、実車が「やりすぎか?」といわれれば、そこまでではないという印象だ。10年前だったら個性的過ぎたかもしれないが、令和の今なら違和感すら抱かないレベル。大胆ではあるものの、実車を前にすると奇想天外な感じは全くない。

顔つきさえ見慣れてしまえば、あとは美しいフォルムに見とれるだけで幸せな気分にさせてくれるのが4シリーズ クーペである。3シリーズとの大きな違いは2ドアクーペになっていることだが、両車の違いは顔つきと真横から見た時のシルエットだけではない。4シリーズ クーペはルーフの位置が低くなるとともに全幅が広がり、よりワイド&ローのプロポーションになっている。

車幅はわずか25mmしか拡大されていないが、45mm低くなった全高(この45mmという数値はアンテナを含めた日本仕様の数値で、欧州向け資料によるとルーフの高さは57mmも低くなっている)と相まって、3シリーズに比べるとかなり平べったいクルマに見える。控えめにいって、かなり美しいクルマだ。

ちなみにフロントマスクは、個性的なグリルやバンパーだけでなく、ヘッドライトも3シリーズとは異なる独自のデザインが採用されている。

クーペは贅沢で特別なクルマという位置づけだけに、セダンとはしっかりと差別化が図られているのだ。

■イマドキのBMW車だけに先進装備が満載

フロントシートに座った際の感覚は、3シリーズと変わらない。ドライビングポジションはBMWらしく低い姿勢を選択でき、その姿勢に最適な位置にハンドルをアジャストできるのも、BMW車の伝統的な美点として受け継がれている。

ダッシュボード自体は見慣れた3シリーズと同じもので、全面液晶のメーターが先進的。反時計回りに動くエンジン回転計は、現行3シリーズが上陸してすぐの頃は違和感が拭えなかったが、いつの間にかすっかり慣れ、自然に接することができるようになった。

一方、意外だったのはリアシート。デザインコンシャスなクーペだけに、なんとか座れるレベルだろうと想定していたら、けっこう広くて驚いた。これならオトナも無理なく座れる。2ドアセダンといった空間構成で「クーペだからリアシートの居住性なんてどうでもいい」といった割り切りを感じさせない。この辺りの仕立ては、昔から実用性の高さに定評があった3シリーズ クーペからの伝統ともいえる。

各種装備類も、基本的に3シリーズ譲りだ。「OK、BMW」という呼びかけをきっかけに、クルマと会話しながらナビの目的地設定などが行える進化した音声入力機能を始め、“ハンズ・オフ・アシスト”や“リバース・アシスト”など、他の先を行く先進運転サポート機能が標準装備されている。

ハンズ・オフ・アシストは、高速道路における60km/h未満の渋滞時に、アクセルやブレーキといった車速調整に加えてハンドル操作まで自動で行い、手放し運転を可能にしてくれる機能(その際、ドライバーは前方をしっかり見て、すぐにハンドル操作ができるように構えておく必要がある)。

対するリバース・アシストは、直前に前進してきた50mまでの道のりをクルマが記憶していて、その軌跡を自動的にバックでたどれるというものだ。狭い道における対向車とのすれ違い時にバックしなければならなくなった場合などに役に立つ。「そんなことまでクルマがカバーするの?」と思わなくもないが、いずれも一度使うと手放せなくなるはずだ。

加えて4シリーズ クーペには、iPhoneをキーの代わりとして使える機能も搭載。BMWが“デジタル・キー”と呼ぶこの機能は、クルマに乗り込む際に登録しておいたiPhoneをドアノブにかざすとロックを解除でき、エンジンの始動も行える。手持ちのiPhoneさえあればキーを持ち歩く必要がなく、複数の端末でデジタルキーを共有することも可能と、従来の常識をすっかり過去のものとしている。

ちなみに、Android端末を使った同様の機能は、電気自動車の「ホンダe」などにすでに組み込まれているが、iPhoneを使ったものはBMWが世界初。先頃マイナーチェンジした「5シリーズ」に続き、4シリーズ クーペが2車種目の採用となる。まさにイマドキのBMWには、我々の想像の先を行く先進装備が満載されているのだ。

■M440i xDriveはスポーツカーと呼ぶにふさわしい走り

それでは4シリーズ クーペで走り出そう。残念ながら3シリーズ比で“21mm低い重心高”の効果まで感じ取ることはできなかったが、街をフツーに転がしているだけでも、運動能力の高さとクルマを操る楽しさがビンビン伝わってくる。

“駆け抜ける歓び”をスローガンに、ドライバビリティに優れるとされる後輪駆動(とそれをベースとする4WD)や、秀逸なハンドリング性能を実現するとされる50:50の前後重量バランスにこだわるBMWの上位モデルは、交差点を普通に曲がるだけでスッと向きを変え、その感覚が心地いい。

おまけに今回の試乗車「M440i xDrive クーペ」には、サーキット走行まで視野に入れたサスペンションが組み込まれており、路面に吸いついているかのようなコーナリングフィールにはアドレナリンが出まくり。加えて、3リッターの直列6気筒ターボエンジンは、単にパンチがあるだけでなく高回転域でのドラマチックなパワーの盛り上がりが真骨頂。クルマが「もっと踏め」と呼びかけてくるようで、あまりの気持ち良さについついアクセルペダルを踏みたくなる衝動を抑えるのに苦労する。

その上、M440i xDriveはブレーキのフィーリングも素晴らしい。ブレーキペダルを強めに踏んだ際、クルマがグッと地面に押しつけられるかのような車体の安定感は、さすがはアウトバーン育ちといった印象だ。(アウトバーンではかなりの速度域から急激に減速せざるを得ない状況に陥ることがままある)。

味わい深いハンドリングに官能的なエンジン、そして信頼できるブレーキ。4シリーズ クーペ、特にM440i xDriveの走りは、スポーツカーと呼ぶにふさわしいハイレベルな仕上がりだ。ドライビングプレジャーを心ゆくまで楽しみたいならM440i xDrive一択だろう。

一方、そこまでの走りを求めないものの、エレガントで美しいクーペが欲しいならベーシックな「420i」を選べばいい。もちろん420iでも各種先進装備は充実している。

■4シリーズのファミリーはますます増殖

ところで4シリーズは、今回のクーペで完結ではない。本国ではオープン仕様の「4シリーズ カブリオレ」が用意されていて、日本へも導入されるとみられる。先代はハードトップを採用した“クーペカブリオレ”だったが、新型はソフトトップへと回帰し、ルーフを閉じた時でもオープンカーらしいスタイルとなっている。

また4シリーズの頂点として、480馬力の標準タイプと510馬力の「コンペティション」から選べる超高性能モデル「M4」も控えている。これも近いうちに日本へ導入されることだろう。

このほかボディバリエーションとして、4ドアクーペの「4シリーズ グランクーペ」も用意されるだろう。こちらは本国でもまだ発表されていないが、先代モデルは4シリーズの中で高い販売比率を誇っていただけに、日本でも人気を獲得しそうだ。

クーペは本来、人生を楽しむための優雅なクルマだ。その点、美しいフォルムをまとった新しい4シリーズ クーペも、決して期待を裏切らない。クーペや走りのいいスポーツカーが欲しいと思った時は、検討しない手はないだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆M440i xDrive クーペ
ボディサイズ:L4775×W1850×1395mm
車重:1740kg
駆動方式:4WD
エンジン:2997cc 直列6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:387馬力/5800回転
最大トルク:51.0kgf-m/1800~5000回転
価格:1025万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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