■大事にしているのは聞き手の環境

――聞き手側のリアルな環境でチェックしていたんですね。
かせき:そう、そう。みんなスタジオみたいなすごく良い機材でなんて聴けないんだから。ぼくらだってスタジオでしか聴けないくらいだし。良い機材で聴くとそれで満足しちゃうんですよ。最高だって言って。でも実際みんなが聴くときはそうじゃない。だから一般の人が持っていそうな音でぼくも聴き続けたくて、それで手に取りやすいイヤホンをずっと使っているっていうところもあります。
――オーディエンスサイドに寄り添っているんですね。すごくプロフェッショナルな考え方だと思います。
かせき:レコーディングで今でも演奏はしますけど、録音はデジタルじゃないですか。それをマスタリングという作業で昔のオープンリールのテープがあるところに行って、新品とちょっと使っていたモノと何度も使用している古いテープと3種類録音して聴き比べて、それを調整しながら作っているんですよ。デジタルで良い音で録ったモノをちょっと音を悪くさせるというか、マイルドにさせるというか。まあ、もちろん良いスピーカーなどは本当に良い音ですけど、誰もが買えるモノではないですから。

――良い音で作った曲をユーザーには押し付けないスタンスなんですね。
かせき:そうですね、ナムコ時代があったから今もそういうスタンスなんだと思います。制作している最中は尖った姿勢だと思うんですけど、最終的には尖りすぎないように気を付けているというか。それが「みんなに届ける」ということなのかなあ、みたいな。ナムコでやっていたチェックの作業って面倒だし周りはあまりやりたがらなかったんですけど、チェック中はそれ以外の仕事はしなくて済むので忙しいフリをしながら1番やっていましたね(笑)。
――なるほど(笑)。ちなみに、ヘッドホンはどちらのモノでしょう?
かせき:これはソニーです。値段も3000円台だったかな、仕事で台湾に行ったときに見つけて気に入って。しかも、そのすぐ後にプライベートでも行ったんですけど、イヤホンを忘れたのに気付いて羽田空港で買いました(笑)。
▲ソニーのヘッドホン。コンパクトにできるところがお気に入り
――そこまで気に入られた理由は何ですか?
かせき:価格もそうですけど、折り畳むと小さくなるのが良いんですよ。仕事で移動することが多いですし、持ち運びのことを考えたらコンパクトになるのってとても便利で。前に違うヘッドホンも持っていたんですけど、それは変形させるのが難しくて。その点、今使っているのは簡単に折り畳めるんで。
何年も前に買って、壊れたら買い直そうと思っているんですけど、全然壊れないんですよ。イヤーパッドは2回替えましたけどね。安いモノって良くも悪くも構造がシンプルだからか、案外丈夫ですよね。DJもやったりしますが、フロアが暗かったりビールをこぼしたりすることもあって、それが2万円もするヘッドホンとかだったら嫌じゃないですか。

――確かに、高いモノだと扱うときに気を使いますよね。ところで、最初にイヤホンやヘッドホンを買うときはどのような選び方をすれば良いと思いますか?
かせき:ぼくとかは幸運なことに周囲にミュージシャンがいて教えてくれましたけど、確かに普通はあまりいないですもんね。そうですね、個人的にはソニーとかガチなAVメーカーの安いモノをまずは買えば良いんじゃないかなって思います。エントリーとして、まずは試してみる感じ。

――なるほど。確かにメーカー側のクセみたいなものもありますし気に入ったらさらに探す、みたいな感じでも良いかもしれませんね。ほかにこだわりはありますか?
かせき:ぼくは絶対有線ですね。ワイヤレスだと電池が切れることもあるじゃないですか、それが嫌なんですよ。出かけた先で使いたいときにすぐ使いたい。あと、ペアリングがなかなかできないこともあったりしますし、ちょっとしたストレスになりますよね。有線ならそういったことに悩まされないので。
――便利なようで不便さも確かにありますね。普段はどういったシーンで使用されますか?
かせき:DJのときもそうですし、日常生活においても使います。映画を観るときも使うし。使うときは音は小さめ。特に移動中は周りの音も聞こえていないといけませんし、あとはミュージシャンだから耳を壊したくないというのもある。普段小さい音でしか聴いていないので、安価なモノでもそこまで音質こだわらなくていいか、みたいなところもありますね。ミュージシャンは耳が大事なんで。命ですよ、命。大事にしたいから音量は絶対小さめ。

――普段から耳を大事にされているんですね。音楽はやはりHIP-HOPやラップを聴くのでしょうか?
かせき:いえ、ラップはもうほとんど聴きませんね。昔のちょっとソウルっぽい曲やディスコで流れていそうな曲とかが多いかな。あと、チルウェーブって言われているジャンル。最近、海外の人たちがやっているゆるい感じの音楽なんですけど、よく聴いていますよ。ちゃんと買ってね。自分もミュージシャンなんで、サブスクでは聴かないようにしています。この良い曲を作ってくれたミュージシャンに少しでもお金が行くようにね。
――素敵な心掛けですね。
かせき:そういった心掛けというか、こだわりみたいなのって案外楽しい気がするし。買うとなると適当に買ってられないぞって思うし、曲も適当に聴けなくなるし。昔、CDやレコード時代は大体アルバムで売られていましたし、シングルよりも高いからこれを何としてでも聴いていくうちに好きにならねば、みたいに思ったもんですよ。元を取るというか(笑)。
>> かせきさいだぁ
<文/手柴太一(GoodsPress Web) 写真/高橋絵里奈>
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