推しボールペン総選挙「OKB48」総合Pに聞く。“文具離れ”の実情と注目のボールペン5本

■ジェットストリームはなぜこんなに支持されるのか

以前起こった文房具ブームとは明らかに違うカタチで盛り上がりを見せている文房具。そんななかでもボールペン総選挙「OKB48」では、三菱鉛筆の「ジェットストリーム」が1位の座に君臨し続けてきました。

ーー「OKB48」では「ジェットストリーム」が15連覇となっています。強さの秘密はどこにあるのでしょうか。

古川 今やジェットストリームは、カップラーメンにおける日清のカップヌードルとか、スポーツ飲料におけるポカリスエットとか、清涼飲料水におけるコカ・コーラとか、ジャンル自体を象徴するアイコニックな存在になっています。ジェットストリームはその登場以後、日本のボールペン界に「低粘度油性ボールペン」というジャンルをつくったのですが、先ほど例に挙げた製品たちも、そのジャンルの出発点のような存在でありながら、のちに形成されたそのジャンルの中では特異な存在に位置付けられてますよね。そして誕生時からほぼデザインが変わってない、という共通点もあります。

ーーたしかに、他のボールペンの名前は知らなくてもジェットストリームだけは知っているという人が多い気がします。

古川 誰もが一度は食べたことがある、飲んだことがある、というのと一緒で、誰もが一度は使ったことがあるボールペンとして認識されている感じはありますよね。でも実は、15回目で初めてジェットストリームが1位から落ちたんですよ。

ーーそうなんですか?

古川 ええ。最新の第15回で1位になったのは「ジェットストリーム ライトタッチインク」なんですよ。

ーーそれ、ジェットストリームなんじゃ…。

古川 リニューアル版みたいなものです。それが兄弟争いを制した。

ーーほぼジェットストリームですね(笑)。

古川 「ジェットストリーム スタンダード」という連覇してきたものが落ちたというのは大ニュースだし、でも結局ジェットストリームの牙城は揺るがなかったという意味では、やはり強しとも言えるんですが(笑)。

ーーですよね。

古川 結果発表をしたラジオ「アフター6ジャンクション2」(2026年2月10日放送。radikoやYouTubeにアーカイブあり)で代打MCをしてくれたTBSの篠原梨菜アナウンサーが「自分はジェットストリームネイティブだと思います」と言っていたんです。物心ついた時に初めて触ったのがジェットストリームだった、と。我々のようにジェットストリームが途中からやってきた感覚とはおそらく根本的に違うわけです。要はスマホがもともとあった世代とそうじゃない世代といったものに近いぐらい解像度が違う。

ーー当初、海外向けに発売されていたジェットストリームを、日本で売れるようにノック式にして国内販売を開始したのが2006年。もう20年も経つんですね。

古川 やっぱり歴史が積み重なっていて、“マイ・ファーストボールペン”に選ばれるような時代にもなり、どこに行っても必ず売っていて、売り切れることはない。いろいろな場面で差し出されるボールペンもジェットストリーム。そういった環境的なものも含めて、盤石の強さになってきているんだと思います。

ーー要するに書き心地うんぬんを超えた存在になっている、と。

古川 そうですね。もう1位の舞台ができあがっているわけです。でも僕は、ボールペンの性能という意味でも、まだミステリアスな部分が残っていると思ってて。

ーーどういうことですか。

古川 2006年に国内発売され、2007年から2008年にかけてブレイクしていったんですが、当時のメディアではよく「低粘度油性インク」がすごい、という言い方をされていたんですね。それで他社も「じゃあうちも低粘度油性インクでボールペンを出そう」というので、「低粘度油性戦争」みたいなのが起こったんです。本来の油性インクが持つ“ねとっ”とした書き心地ではなく、サラサラした書き心地を売りにするという。

ーーたくさん出ましたよね。

古川 でも結局、どれもジェットストリーム以上の評価を得られませんでした。もちろん個人個人で好みはあり、他社の低粘度油性ボールペンが好きだという人もいると思いますが、事実としてジェットストリームを上回れなかった。

ーー強すぎる。

古川 ひとつ示唆的な話があります。ジェットストリームインクを開発された三菱鉛筆の市川秀寿さんは油性ボールペンが嫌いだったんです。水性インクのボールペンを好んで使っていて、水性ボールペンのような油性ボールペンを作りたいと思って開発したという話をされていました。なので、おそらく最初から明確に「油性ボールペンらしからぬ軽いボールペンをつくりたい」というゴールが明確にあったのだと思います。ただ当時、ライバル他社は分かりやすい指標として、インクの粘度を下げればジェットストリームに近づくだろう、となり、低粘度油性競争になっていった。ですが、ジェットストリームはインクの性能だけではなく、例えばグリップのデザインとかボディのバランスとか、そういったものも含めた総体として「軽い書き心地のボールペン」を目指した。それがジェットストリームらしさみたいなものを生み出しているのかもしれません。

▲にこやかに深い考察を話す古川さん。ガチ文具オタク感あります

ーーなんだか深い話ですね(マニアックだわ…)。

古川 正直、「ジェットストリームの良さ」というものに関しては、我々はたぶんまだ正体をつかみきれていません。ですが、ここ数年のボールペン界は、“軽さ”という方向に各社向かっているんです。低粘度ではなく、とにかく軽い書き心地のボールペンを作り出そうとしている。油性だけではなく、水性やゲルインクも含めて。つまりこれは、各社がようやくジェットストリームの出発点に辿り着いたと言えるのかもしれません。

ーー軽さという面で注目のボールペンってどんなものがありますか。

古川 2024年に発売されたぺんてるの「フローチューン」ですね。開発期間7年、総勢100人が関わったというボールペンで、油性なのに軽さをさらに押し進めたものです。すごく軽くて濃く書ける。あとは三菱鉛筆の「ユニボール ゼント」。2025年に発売された水性ボールペンですね。水性はもともと軽い書き心地なんですが、水っぽいしゃばしゃばしたインクが入っているので、紙に染み込んだりにじんたり裏抜けしたりする。最近はあまり人気がなかったんですが、それを油性インクのように使える新しい水性インクを開発したと打ち出しています。もちろん水性だから書き心地は軽い。どれも“軽さ”という方向に行っていますよ。

 

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