オーディオ通が本音で語る。フラッグシップイヤホン&ヘッドホン10機種徹底聴き比べ

【ようこそ、オーディオの“沼”へ】

音楽や映像を楽しむ道具として、ワイヤレスイヤホンはすっかり当たり前のアイテムになりました。軽くて扱いやすく、移動中でも家でもすぐに使える気軽さが魅力です。一方で、最近では街を見るとヘッドホンの姿も。イヤホンほど軽快ではないものの、存在感のあるスタイルとして注目されてきています。

ただ、どちらを選ぶにしても難しいのが、フラッグシップと呼ばれるクラス。ほとんどのモデルが高い完成度でまとまっていて、機能も似てくる。音の良し悪しは“良さそう”までは分かっても、その違いがつかみにくく、多くの人がここで迷うはずです。

▲左:GoodsPress編集部 円道秀和 担当ジャンルはITデジタル、オーディオビジュアル、ホビー他 中:AV評論家 折原一也さん/1979年生まれ。オーディオ・ビジュアルライター/AV評論家として専門誌、Web、雑誌などで取材・執筆。2009年によりオーディオビジュアルアワード「VGP」審査員/ライフスタイル分科会副座長。YouTube 右:e☆イヤホン PRスタッフ ゆーでぃさん/イヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」のPRスタッフとして、YouTubeでも活躍中。約10年前にSHURE SE215に感動し、大好きなUVERworldを良い音で聴きたいという思いからイヤホンの世界へ。現在では、何十万円もするハイエンドイヤホンを複数所持するオーディオマニア。

そこで今回は、オーディオ有識者3人に集まってもらい、人気のフラッグシップ完全ワイヤレスイヤホン5モデルを同じ曲で聴き比べながら、それぞれの個性を細かく確認しました。

さらに、いま存在感を増しているワイヤレスヘッドホンも併せて試し、イヤホンとの違いや、いまの選び方の基準まで整理していきます。

今回使用した楽曲はマイケル・ジャクソン『Beat it』。再生端末は円道「Google Pixel 10 Pro」 折原さん「iPhone 16」
 ゆーでぃさん「エクスペリア 10」

■群雄割拠のワイヤレスイヤホンは“尖り”で選ぶ

▲左:Bose(ボーズ)「QuietComfort Ultra Earbuds (第2世代)」(実勢価格:3万9600円前後) 中:SENNHEISER (ゼンハイザー)「MOMENTUM True Wireless 4」(実勢価格:4万9940円前後) 右:Sony (ソニー)「WF-1000XM5」(実勢価格:3万6300円前後) 左下:Apple(アップル)「AirPods Pro 3」(実勢価格:3万9800円前後) 右下:Technics (テクニクス)「EAH-AZ100」(実勢価格:3万9600円前後)※順不同

円道:まずはイヤホンからいきましょう。フラッグシップ帯の5モデルを同じ曲で聴き比べていただきましたが、全体の印象はいかがでしたか。私は、各社の個性がより明確になったと感じました。

中でも、ソニーを久しぶりに聴いて驚きましたね。これまでのモデルだとそれほど個性的なイメージではなかったんですが、「WF-1000XM5」は分離がとても良くて、1音ずつがはっきり立ち上がる。ここまでクリアだったかとびっくり。

ゆーでぃ:前の世代よりも本体は小型なのに、ドライバーの口径はむしろ大きくなっているんですよ。前モデルが6mmだったのが、いまは8.4mmになっていたはずです。それでいて前作よりひと回り以上小さくなってしかも軽い。空間の広がりも自然で、最近の音源と相性が良い印象があります。

折原:そうそう。というのも、制作現場でも空間表現を重視する流れが続いていますので、その流れをイヤホンにもしっかり組み込んできているからこその仕上がりな気がしますね。音が遠くまでフワッと自然に聴こえる、音に囲まれる感じは、ソニーの特徴と言っていいと思います。

ゆーでぃ:個性を感じたモデルという話だと、テクニクスの「EAH-AZ100」はそもそも音の鳴り方自体が他のモデルと全く違いましたね。磁性流体ドライバー特有の、帯域全体が手前に出てくる“平面的な鳴り方”をするというか。

円道:磁性流体ドライバーね! やっぱりちょっと他とは違う印象ありますよね。原理はイマイチよくわからなかったんですが(笑)。

ゆーでぃ:イメージとしては、特定の帯域だけ強調するのではなく、すべての帯域をあますことなく押し出してくるという感じです。この情報量の多さは圧倒的ですね。

折原:よく分かります! 『Beat It』を聴いたときに強く感じました。1980年代の古い録音だから情報は少ないと思い込んでいたのですが、「EAH-AZ100」だと“こんなに入っていたのか”と驚くほど細部まで見えました。特に低音。かなりほぐれて聴こえて、情報量の多さにびっくりしましたね。

円道:でも、どうなんですか? 先程のソニーのような空間系の聴き方と、いわゆるピュアオーディオ系聴き方ってあるじゃないですか? イヤホンって空間系にいったほうがいいのかな?

折原:その話であればぜひゼンハイザーの話をしていきましょうか。

ゆーでぃ:ゼンハイザーはやっぱり高域がポイントのブランドだと思うんですよ。凄い特殊で、繊細で耳に残るような細やかさのあるサウンドで、ゼンハイザーじゃないと出せない音なんですよね。

円道:うんうん。分かります。

ゆーでぃ:だからワイヤレスも有線もイヤホンもヘッドホンも全部ゼンハイザー、というお客様がけっこういらっしゃって、リピーターが多い。これが、ゼンハイザーが選ばれる理由なんじゃないかと思っています。

円道:確かにゼンハイザーで揃える人の気持ちは分かります。そうか、空間系やピュアオーディオ系というのではなく、特徴的な音を出せるかどうかということですね。似たような話でいうと、最近は高音よりも低音重視の流れがあるけど、それは高音域が強いゼンハイザーはどうなんでしょうか。

折原:それが、今日の話で言うと、この「MOMENTUM True Wireless 4」は『Beat it』を聴いたら意外と良かったんですよね。高音がうまくまとまっているというか。

円道:分かる。

ゆーでぃ:最近の打ち込み主体のK-POPみたいな曲とも相性が良いと思います。K-POPは生音が少なくて、クラップやスネアみたいなかなり加工された音はむしろゼンハイザーのようにタイトに鳴らす方が良いと思っています。だからこそ、今改めて試してほしいブランドですね。

折原:打ち込み音ってどれだけでもシャープに仕上げられるので下手するとパキパキした音になりがち。そこを繊細に表現してくれるので逆説的に好相性という。だから、特定の音に特化しているから、他のモデルに比べて劣っているかといわれると全くそんなことはないんですよね。

ゆーでぃ:ソニーもテクニクスもゼンハイザーもかなり個性的じゃないですか。そう考えると、今のフラッグシップの選び方って、何に特化しているかというのが重要だと思うんですよ。というのも、この5モデルは、どれも高音質で機能も高水準じゃないですか。

円道:そうですね。基本的にはどれも良い音で聴けます。だから、例えば6個の評価軸があったときにキレイな六角形じゃなくて、どこかが突き抜けているほうが、印象に残りますよね。

ゆーでぃ:フラッグシップは全部いいのが当たり前なので、音の方向性や機能性などで特化していると選びやすいですよね。あくまで使用者のライフスタイルが重要なので、どちらが良いではなく。例えば「ノイキャンが絶対に欲しいです」という人には…。

折原:ボーズですよね。圧倒的な没入感というか、つけた瞬間にひとりの時間になるくらいの静けさはボーズだからこそ。じゃあ、ノイキャン以外はダメかというと、全くそんなことはなく、低音が特徴的ながらも最近は高音域にかけてもかなり上質な音質にまとめあげてきていますし。

円道:逆に「強いノイキャンが苦手」という人にとっては、もっとマイルドなモデルが選択肢に入る、みたいな。

折原:機能重視で言えば「AirPods Pro 3」。他のイヤホンに比べて異次元の方向性に進化している印象はありますが、外音取り込み機能のクリアさや翻訳機能など、音も高水準ではありますけど、音以外の部分が非常に強いですよね。

円道:iPhoneとの連携を考えるとイヤホンよりも、ウェアラブルデバイスに近い。

ゆーでぃ:ライフスタイルガジェットのような感じですよね。あと、実は大事なのが装着感ですね。意外と見落とされがちなところではありますが、快適さもそうですが、音の聴こえ方も変わってくるので、自分の耳に合うかどうかってかなり重要です。『e☆イヤホン』では、アーティストのイヤーモニターの制作をすることも多いのですが、その際に耳の型を取るんですね。びっくりするほど人それぞれで形が違うんです。

円道:それで言うと、テクニクスの「EAH-AZ100」の“コンチャ”は特徴的ですか?

ゆーでぃ:そうですね。CONCHA FITと言って、耳のくぼみの部分(耳介=コンチャ)をうまく使う形状にしていて、そこにすっと収まるように作られています。サイズだけを小さくしているのではなく、耳の形そのものに沿わせる設計なので、はまる人には非常にはまる。多くの耳型を採って検証したうえで作られているので、装着の安定感も大きな特徴です。

折原:あとは、「AirPods Pro 3」。他のモデルに比べて、緩めの装着感になっているので、「今日は本気で音楽を聴く」という場面よりは、日常のちょっとした移動や作業のときに気軽に使いたくなるイヤホンですね。“ながら聴き”するのに快適で、ついつい使っちゃいますね。

円道:なるほど。全モデルを通して高音質なことは共通しているけど、個性がそれぞれ明確に出ているといったところですね。テクニクスなら情報量の多さですし、ゼンハイザーは高域の細やかさ。ソニーの空間表現。ボーズの強力なノイズキャンセリングや、AirPodsのiPhone連携など、それぞれの“尖り”が選ぶ理由になってきそうです。

【次ページ】ヘッドホンは装着感とデザインに注目

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