本当にお得なのか。格安航空会社「LCC」の現状と賢い使い方

【LCC大攻略2025】

LCCって知ってますか? ローコストキャリアの略で、サービスなどを簡素化することで、格安運賃を実現した航空会社を指します。1990年代後半にヨーロッパやアメリカで現在のカタチのLCCが登場し、今や数多くの会社が世界中を飛び回っています。

日本にも海外LCCが2007年頃から就航を開始し、2012年には日本初のLCCであるANA系列のPeach Aviation(以下ピーチ)が国内線就航を始めました。その後、新規参入や合併など紆余曲折を経て、現在、国内線があるLCCはピーチ、ジェットスター・ジャパン、スプリング・ジャパンの3社(ZIPAIRは国際線のみ)。一方、国際線に目を向けると、韓国や台湾を始め、アジアのLCCが数多く飛来しています。

ちょっとでもお得に移動しようとすると、今や必ず選択肢に上がるLCC。利用したことがない人にとっては、もしかすると「座席が狭い」だったり、「荷物の制限がある」だったり、「遅延が多い」だったりと、ネガティブなイメージを持っている人も多いかもしれません。

とはいえ、物価高騰やインバウンド増加で宿泊料金が高騰する国内旅行や、円安の影響で以前ほどお得感がなくなった海外旅行も、LCCで交通費を少しでも浮かすことで実現するかもしれません。

ではそもそも、LCCとはどういうものなのか。そして世界の航空業界の状況やお得なチケットの見つけ方などを、世界を飛び回る日々を送る航空アナリストの鳥海高太朗さんとノマド系テクニカルライターの中山智さんに解説してもらいました。

航空・旅行アナリスト/鳥海 高太朗さん
帝京大学理工学部航空宇宙工学科、千葉商科大学サービス創造学部、共栄大学国際経営学部非常勤講師。航空会社のマーケティング戦略を主研究に、自らも国内外を巡り体験談を中心に雑誌やテレビで情報を発信している。YouTube

 

テクニカルライター/中山智
海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けている。YouTube

 

 

■世界的にはフルサービスとLCCの違いがなくなってきている

ーーそもそもLCCってどういう航空会社のことを言うんでしょうか。

鳥海高太朗 実はこれといった定義はないんです。航空会社が「我々はLCCです」と言えばLCCだし、サービスはLCCでも「LCCではありません」と言うこともある。最近はヨーロッパのFSC(フルサービスキャリア)の中には、機内食が有料になっているとかLCCと似たような料金体系を取るところも出てきています。ANAやJALのような日本のFSCはこれまでと変わらず、荷物もたくさん預けられたりしますが。またアメリカなんかは逆に、LCCの代表格であるサウスウエスト航空が手荷物の料金と取らなかったりとかもしています。そういう意味では、いわゆるLCCと言われるものとFSCの境目が曖昧になってきているのかもしれません。

中山智 ヨーロッパのFSCでEU圏内を飛ぶような路線は、一番安いチケットを買うと荷物預け入れできなかったりするんですよね。

ーー海外でのLCCの人気はどうなんですか?

鳥海 東南アジアなんかはLCCがスタンダードで、FSCは便数も減っています。国内線や近距離国際線といったエリア内移動に関していえばメインの手段がLCCがになっていますね。

ーーたしかにエアアジアやベトジェットエアなど、東南アジアのLCCは路線数を増やしてきている印象があります。

鳥海 一方、ヨーロッパは2極化しています。ヨーロッパの場合、LCCは空港が異なりますが(※1)、アジアは基本的にそういうことはほぼない。またヨーロッパの場合は飛行機を使うユーザーが、レジャー客とビジネスや長距離国際線利用客に分かれていて、国際線乗り継ぎの場合はFSCを使うけど、短距離区間ならLCCでいいよねとなりやすい。

※1 メインの空港ではなく空港着陸料が安く発着枠に余裕があるが多少不便な場所にある空港を利用するLCCが多い。例えばロンドンの場合、メインとなる空港は市街から近いヒースローやガトウィックになるが、LCCはスタンステッドやルートンといった市街から50km以上離れた空港を主に利用している

ーーLCCを使ったことがない人からすれば、安いぐらいしかイメージがないと思うんですが。

鳥海 LCCとは、という定義がどんどんなくなってきていると思います。スカイスキャナーやGoogleフライトといった航空券検索サービスでチケットの比較をしたときに、LCCもFSCも同じ土俵になる。ただし、飛ばなかったときの振替や、遅延の保証関係が違ってくるんです。ここが一番大きいかもしれません。LCCの場合、遅延や欠航が自社理由であった場合でもホテル代が出なかったりします。FSCではそんなことはありません。とはいえ、一区間だけで乗るんであれば、基本的にはLCCもFSCも変わらないかなと。

ーーそういえばLCCは遅延が多いというイメージがあるんですが、実際はどうでしょう。

鳥海 多いといえば多い。夕方以降はとくに。朝便は大丈夫なんですよ、その日のスタートだから。

中山 とくに日本の場合は、真夜中に開いている空港がほぼないので、国内線は深夜は飛ばずに朝がスタート。そこから高頻度で飛び回る。そして午後には玉突きで遅くなることがあるんです。

鳥海 だからLCCを利用する場合は、遅れることを前提に自分のスケジュールを組むといいかもしれません。

ーー他にFSCとの違いはありますか。

鳥海 やはりマイレージサービスがあるかないかでしょうね。

中山 多頻度で利用する人にとって、マイレージサービスはメリットが大きいですから。特典航空券とかね。

鳥海 あとは、機内持ち込み荷物の制限があること。チェックイン時にしっかり重さをはかります。FSCも機内持ち込みは10kgと言いつつ、多少超えても何も言われないこともありますが、LCCの場合は不平等感が出ちゃうんです。預け入れが有料の場合、機内持ち込み荷物の重量オーバーを見逃してしまうと、お金を払って預け入れした人の立場がないですよね。だからこそ厳格にやらなきゃいけない。

中山 ヨーロッパ系のLCCだと、最近は荷物の種類が3種類あるんです。ひとつは預け入れ荷物。次が機内持ち込み荷物ですが、これが2種類あって、前席の下に入るサイズと上の荷棚に入れるサイズに分けられている。当然ですが、座席の下に入れるサイズが一番安い。だから機内への案内は、荷棚に荷物を入れられる人を先にする。で、その人たちがすべて荷物を入れたら、荷棚の扉を閉めちゃう。後から入ってきた人は座席の下に入れるしかなくなるわけです。

▲CABIN(荷棚)を買っているかどうかで搭乗列が違う(画像提供:中山さん)

ーーそんなに細分化されてるんですね。荷物で言うと、LCCは重さ7kgまでという制限が一番気になるところです。FSCと違い、預け入れにすると追加料金がかかるので、少しでも安くしたいとなると、機内持ち込み荷物だけにしたいところではあるんですが…。

▲鳥海さんは仕事柄ガジェット類もたくさん持ち歩くため荷物は重くなってしまうとか

鳥海 預け入れ荷物の場合、ヨーロッパだと1個6000~7000円、アメリカでも35~40ドルかかります。つまり1個荷物を預けるだけで5000~8000円の負担になるわけです。ちなみにこの追加料金、ヨーロッパの場合はFSCもなんですよね。

中山 ただ、ルールさえわかっていれば、荷物の料金を入れてもFSCよりもLCCのほうが安かったりしますよ。

【次ページ】LCCのメリットとお得な使い方とは

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