【趣味カメラの世界 #32】
前回は、Sony(ソニー)「RX1R III」(実勢価格:65万8900円)が捉える風景の表情を中心に、その描写力を見てきました。光や空気の揺らぎをどのように写すのかを確かめるには、まさにうってつけのテーマでした。
では、人物を前にしたとき、このカメラはどんな表情を見せるのか。光の向きや、ふとした表情の変化をどう描き出すのか。最終回は、ポートレートを軸にスナップまで、本機が“日常の中の一瞬”をどう切り取るのかを探ります。
監修・執筆:田中利幸(たなかとしゆき)|ファッション誌などでブツ撮りやポートレートを中心に活動するフォトグラファー。カメラ・ガジェット好きで自身で運営するブログ「Tanaka Blog」において、カメラやガジェットに関するちょっとマニアックなことを書いている。
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■コンパクトだからこそ引き出せる“ありのまま”
▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/1250秒、F2、ISO250、クリエイティブルック:FL2
▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/1250秒、F4、ISO500、クリエイティブルック:FL2
ポートレートを撮るとき、大きなカメラを構えると、良くも悪くも「撮られている」という意識がどうしても出てしまいます。本機の場合はその逆で、コンパクトなボディだからこそ、自然な距離感で被写体と向き合えると感じました。
友人と散歩しているときにふと見せる笑顔や、会話の合間にこぼれる表情。そうしたごく普通の瞬間を、リラックスした空気のまま残せるのは、小さなカメラならではの魅力だと思います。
35mmという画角も絶妙で、周囲の雰囲気を少し取り込みながら人物を自然に捉えてくれる。スナップとポートレートの境界が薄れ、日常の中で出会う“その人らしさ”を、そのままの温度で切り取ることができます。
■小さなボディに詰め込んだ“確かな描写力”
▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/640秒、F2.8、ISO100、クリエイティブルック:FL3
RX1R IIIには、αシリーズと同様に最新の「AI AF」が搭載されています。被写体の瞳を正確に捉え続けるだけでなく、後ろ姿でも人物を認識して追従。歩いていく背中にもピントを合わせ続け、ふり返った瞬間を逃しません。
ちなみに、RAW撮影では連続してシャッターを切ると保存待ちが発生する場面もありましたが、撮影自体は継続できるため、実用上は大きなストレスには感じませんでした。
▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/1250秒、F4、ISO100、クリエイティブルック:FL3
コンパクトカメラとは思えない描写力で、立体感やその場の空気までしっかりと表現してくれます。
光と影のグラデーションやボケの自然なつながりも秀逸で、大型のミラーレス機と比べても遜色のない画質だと感じました。
▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/640秒、F2、ISO250、クリエイティブルック:FL3
開放F値は2.0とやや控えめな数値ではありますが、しっかり寄って撮れば十分にボケを生かせます。前後のボケはどちらも自然で滑らかで、その描写力はさすがの一言。
ピントが合った瞳はシャープに解像しつつも、全体として硬くなりすぎないため、日常のポートレートにちょうどよいトーンだと思います。
▲ソニー RX1R III、シャッタースピード1/2000秒、F4、ISO125、クリエイティブルック:IN
ボディ一体型ならではの最適化が行われているため、レンズの描写力には驚かされます。金属のハイライトの質感や細部のディテールまでしっかりと描き分け、有効約6100万画素センサーの実力を存分に感じられました。
35mmという画角も扱いやすく、アングルによっては広角レンズのようなダイナミックな画作りも可能です。
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