1906年創業の老舗スポーツメーカーが“後発”で挑んだ!意外と知らない人工芝の進化と未来の話

■スポーツメーカーとしての人工芝のメリットとは?

─ ミズノとして、人工芝の開発をはじめた経緯を教えてください。

太田さん 弊社で人工芝を開発しはじめたのはごく最近のことでして、他メーカーさんに比べるとだいぶ後追いなんですよ。もともとのスタートとしては、他社さんの人工芝を仕入れて販売する代理店としての経緯があります。

─ 自社で開発しはじめた理由は、やはりスポーツメーカーとして“場所をつくる"“ベースをつくる"みたいな部分ですか。

太田さん おっしゃるとおりで、用具やシューズ、アパレルだけではなく、「スポーツする場も提供します」という感じですね。事業部でいうとスポーツファシリティという部署なのですが、体育館やグランドなどの施設管理なども行なっていて、その中のひとつの事業としての人工芝開発なんです。

─ カタログには、スポーツの競技種類などの用途によって思った以上に種類がたくさんあるんですね。ミズノの人工芝の特徴を教えてください。

太田さん 野球用、サッカー用、ラグビー用など、もちろん他メーカーさんにも用途に分けた人工芝があります。人工芝業界の話で言うと、弊社は用具などもつくっているスポーツ用品メーカーですので、社内に各スポーツの経験者が多いんですね。だから、そこでヒアリングも行えますし、各スポーツに特化した評価ができる点が強みだと考えています。

製品でいうと、パイルと呼ばれる芝葉の素材にパーマが掛かっている(スパイラルしている)アイテムがあります。

▲ミズノが開発した捲縮加工(パーマ)を施した野球専用の人工芝

 

─ どんなメリットがあるんですか。

太田さん これは捲縮加工(けんしゅくかこう)というものなのですが、例えば、野球ボールがバウンドしたときにハネにくいという特性があります。直毛の人工芝だとめちゃくちゃハネてしまうんですよね。

─ なるほど。

太田さん あとは、美観の部分でいうと、直毛パイルだと選手の動きによって、いろんな方向に倒れてしまって、これをけっこう引いて見てみると、芝葉のカラーがまだらになってしまうんですよ。しかし、捲縮加工をかけることによってムラがなく一様に見えるようになります。

─ サッカーだったらサッカー専用があったり、競技によってさまざまな人工芝の種類があるようですが、それぞれどのように開発されているのですか。

太田さん 例えば、サッカーならボールの転がりを重視したり、ラグビーならスクラムを組んだりするとけっこう地面に横向きの方向の荷重が掛かったりするからそれに耐えられる仕様とか。それにラグビーはよく人が倒れますから、倒れても安全なものにしたり。スポーツごとによった特性をカバーできるように開発しているんです。

─ 例えば、野球とサッカーでは芝葉(パイル)において、どのような違いを出しているのでしょう。

太田さん 開発においてですが、スポーツの特性から商品開発に向けているんですよね。つまり、野球では「選手がどういう動きするのか?」とか、「ボールがどうバウンドするのか?」というのが一番最初の部分。ちなみに、野球においてはプロ野球選手の方に商品を使っていただいたりしているのですが、そこでヒアリングを行ったりもしています。

各スポーツにおいては、他のスポーツとの違いをよく見るようにしていますね。例えばラグビーなら、「倒れて脳しんとう起こしている選手が多いよね」とか。

─ ケガとか、そういう部分が中心になっているということでしょうか。

太田さん 特性の違いを出すには、充填材といって砂や弾性材の厚みの比率を変えたり、パイルの密度や長さを変えて、そのスポーツに特化したものにしています。

▲一番下が砂で、黒い部分がゴムチップ。基本、人工芝にはこのふたつを敷いて、クッションの役割を果たす

 

─ 昔の人工芝って、転んだときやスライディングしたときに"擦れる"というイメージがありますが、現状はどんな状況なのでしょう。

太田さん 実はそれって、年代によってイメージがかなり違うみたいなんですよ。年齢が上の方ですと、擦過傷や服が溶けるなどのお話をされる方が多い。時代的にちょうど変換期だったようでして、いわゆる火傷しやすい人工芝を使用していた時代なんです。

もちろん場所にもよりますし、どのメーカーの人工芝かどうかにも大きな違いはあると思いますが。現在の人工芝が「絶対に火傷はしません!」と一概には言えませんが、現状は20年前よりは抑制する動きになっていますので、かなり緩和していると思います。ちなみに、サッカーのFIFA(国際サッカー連盟)においては、公認を出す際、試験のなかに火傷の試験が入っていたりしますよ。

─ やはりそこはメーカー側も危惧されていた点なんですね。ちなみに、人工芝というのはざっくり何でできているのですか?

太田さん パイルの部分は熱可塑性樹脂で、充填材にはゴムや砂等が入っています。

▲捲縮加工(パーマ)のかかった野球専用人工芝も構造は一緒で、砂、ゴムチップの上にパイルが敷かれている

■開発から評価まで

─ 一般的なお話として、開発においてはどのくらいの時間を要するのでしょう。

太田さん 人工芝の「新商品を発売しました!」と発表してから現場に入るまでに、2年から3年くらいの時間がかかります。さらに、それが評価されるのが、だいたい10年経って張り替えになったときなんですね。

発売してからのスパンがかなり長いから発売には慎重になっています。例えば、現状使用されているプロ野球用「MS CRAFT BASEBALL TURF」という人工芝は、完成したのが2012年くらいで、評価がされはじめているのが2020年くらいから。開発期間でいうと、2〜3年は掛かってるかと思います。開発期間ももちろん長いし、発売してから評価されるまでもとても長いんですよね。

─ 現状、カタログには野球専用の人工芝が2種類、「MS CRAFT BASEBALL TURF」と「MS CRAFT BASEBALL TURF-V」がありますが、これはどう違うのでしょうか?

太田さん 「V」の方は強度を上げているので、より長く使っていただけるというイメージを持っていただければと思います。

─ パイルの太さが400マイクロメートルとなっていますが、硬いということでしょうか?

太田さん おっしゃるとおり多少硬くなります。通常の「MS CRAFT BASEBALL TURF」が280マイクロメートルですが、それを400マイクロメートルまで上げています。

─ つまりボールのハネ具合だったりが変わってくる?

太田さん 基本的には、手触りが硬い感じがしますが、カールの大きさや充填材の仕様を変えたりして、なるべく現状と変わらない特性にはなっています。ちなみに、400マイクロメートルにしたという経緯に関しては、やはり昨今言われている環境問題が大きいんですね。使用によってはパイルがちぎれてしまうということが、どうしても起こってしまう。

そこで環境問題に対応するためにはやはりパイルを厚くする、厚みを上げることによってちぎれを抑制するという動きが、当時の各社さんの流れだったんですよ。ただ、厚くする代わりに硬くなるので、「それをどうするか?」という点に弊社は注力していました。

【次ページ】これからどうなる人工芝

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