■背負い心地の良さの理由
─ ショルダーパッドに関してですが、背負った時に他のバックパックよりもかなり軽く感じたんですよね。それはどのような機能なのでしょう。
佐野 ショルダーパッドには、中に入れてあるフォーム材の材質に、硬い高密度高反発タイプのものと柔らかい低反発タイプのもの、硬さと厚みが違うものを2種類重ねて入れています。さらに体に接地する面を低反発タイプにすることで背負ったときに適度に沈むし、それが衝撃や負荷分散みたいな効果もある。あと、形状記憶的な役割もあるから、使うヒトのクセがついていくのも特徴のひとつですね。
▲高反発タイプと低反発タイプのフォーム材2種類を重ねているショルダーパッド。さらにパッドの取り付け部には肩に沿った角度がついている
佐野 そもそもバックパックの背負い心地って、背面長(首の付け根から腰骨上端までの背中の長さ)とそれに対してのショルダーパッドの長さとのバランスが関係してくるんですよ。だから、背面長に合わせてショルダーパッドがついていて、それプラスで最適なフィットが得られるようなパッドの形状だったり、あとは取り付け部のアングルですね。「URBAN EXPLORER PRO」は、ショルダーパッドの取り付け部に角度をつけているから、より自然にヒトの肩の傾斜に沿うようになっています。
─ フィット感の調整部分にもかなりこだわりを感じます。
佐野 アジャストテープの先端はマグネットパーツで固定できるようになっていながらも受けのパーツ自体も動かせるので、背負った後でも調整可能になっています。リングでロックを掛けているので、それを引けばゆるむようになっていますし、マグネットパーツをリリースした状態でリングを強く引くと完全にゆるみきる。そういった感じで、フィットの操作がしやすくしたのもこだわりの部分ですね。
■こだわりの収納部
─ パック本体の部分に関してのこだわりは?
佐野 「URBAN EXPLORER 20」の方は180度開くのですが、ただ普段使いを考えた時に、立てた状態で上からの出し入れに限定してもいい。だから、プロの方はストッパーをつけて開ききらないようにしました。メインルーム部にはある程度小物用の仕切りをつけているから、インナーバッグやインナーポーチがなくても仕分けが可能にしています。書類用ポケットもあって、より本体自体で仕分けしやすい収納スペースになっているんですね。
─ バック部分ですが、PCを2台収納できるスペースがありますよね。
佐野 コレは「モニターも持ち歩きたい」というお客さんからのフィードバックがあったんです。だから、PC本体とモニター、もしくはPC本体とタブレットなどのデバイスを2台収納可能にしました。そして、ガジェット関係を収納できるバッグ・イン・バッグですね。
これだけの単体の取り出しも可能にしていて、マグネットで常にカバンの上部に固定されるようになっているから、バッグの奥に紛れ込んだりしていちいち探さなくてもいいようになっています。ちなみにこういうガジェット用バッグに入れるモノって小さくても重いものが多いから、それがカバンの下にたまると荷物の重さが下に向くために重く感じる。背負っていてもなるべく軽く感じられるようにこの上部固定仕様にしました。
▲ガジェット用の着脱可能なバッグ・イン・バッグ、コレが普段からPCを持ち歩くワタクシにとってもかなり使い勝手がいいんです
─ 上部にケースが固定されるという考えは新しいと思いました。
佐野 バッグ・イン・バッグは、このバッグの企画を考えたときに一番最初に考えた部分です。それで下に専用の空間を作って、バッグの左右からアクセスできる小物用ポケットを配置しました。
▲バッグ左右の外部からアクセス可能な小物用ポケット
─生地のX-PACに関してですが、この生地を選択した理由は?
佐野 やはり機能の部分が大きいですね。X-PACは20Lモデルのリリース当時の約8年前は素材としてもまだ新しい素材で、とにかく軽くて水に強く、耐久性もしっかり備わっているという話題の素材だったんです。そして、圧倒的にアウトドア向けの製品での使用が多かった。その機能性を生かして、デザイン含めて都市部向きのものとして使用したんです。
■デザインと機能
▲上部を落としたデザインと、斜めに配置されたメインファスナーはバッグを視覚的に小さく見せるためとのコト
─デザイン的なお話になりますが、バッグの形状で上部に丸みを持たせて、カドを落とした理由を教えてください。
佐野 コレは視覚的に大きく見えないようにするためです。直角垂直で作ると単純に大きく見えてしまう。実は、大きいカバンを持ちたくないというお客さんが多いんですよ。だから少し落とすコトで高さはフルで使えるのに見え方だけが変わる。上から下までの奥行きは1cmも変わっていない。ちなみにメインファスナーを斜めにデザインしたのも視覚的な工夫です。
─視覚的に小さくみえるというのはナルホド!という感じです。
■beruf baggageはどのように生まれた?
─ さて、話は変わって2026年でブランド設立20周年ということですが、ブランド立ち上げのそもそもの経緯を教えてください。
佐野 実は僕自身、もともとカバン屋の息子なんですよ。だから、ものづくりの背景は身近にあってですね、なりゆきに身を任せていたら、ブランドをやっていたという経緯です(笑)。いざ「自分でやってみよう!」となった時に、当時は自転車通勤していたこともあり、だから自分自身が普段の街乗りで使用できるメッセンジャーバッグを作りたくて。それでとあるメッセンジャー会社に「メッセンジャーの人たちに話を聞かせて欲しい!」と連絡をとったんですよ。そこでプロの道具としてのバッグを見させてもらい、自分自身が普段の街乗りで「使いたい!」と思えるメッセンジャーバッグを作ったコトがこのブランドの最初のきっかけです。それはいまもずっと根幹のコンセプトというか、フィロソフィになっていますね。
─ブランド名の『beruf baggage(ベルーフ・バゲージ)』の由来は?
佐野 beruf(ベルーフ)という言葉はドイツ語で、英語にすると"JOB(ジョブ)"、"仕事"とか"職業"の意味合いと、"Calling(コーリング)"という"神様が与えた運命"とか"天命"みたいなニュアンスの両方が含まれているんです。僕自身、学生のころはカバンを作るなんて思ってもいなかったのにいまはカバン屋になっているから「そういう運命だったのかな?」って。それと最初に作ったのがメッセンジャーバッグで、いわゆる職業用カバンだったこともあります。それもふくめてダブルミーニングで、”beruf”という言葉を選びました。
■ブランド設立20周年を迎えて
▲コチラが「URBAN EXPLORER PRO」の20周年モデル、表生地は機能性レザー仕様
─さて、2026年でブランド設立20周年を迎え、「URBAN EXPLORER PRO」の20周年モデルをリリースされるとか。20周年モデルの詳細についてお話をお聞かせください。
佐野 20周年モデルは見た目や構造は基本的には一緒ですが、表部分の素材をレザーに変更して、X-PACではなくバリスティックナイロンとレザーのコンビネーションにしました。ただ、見た目を変えないためにボトムの幅を変えたりとか、実は型紙を変更していたりで、細かい部分を変えているんですよ。
▲「URBAN EXPLORER PRO」とほぼ形が一緒の20周年モデル
─どのようなレザーを使用しているのですか?
佐野 山陽という国内のタンナーの中では一番歴史が古い会社のものを使用しています。もともと革靴用のゴアテックスレザーやスコッチガードレザーを作っている会社で、それとおなじテクノロジーを使用しながら厚みの調整と表面の仕上げなどをリクエストしました。
▲表生地とともにハンドル部分にもレザーを使用
─レザー仕様はブランドとして初めてだと思うのですが、なぜレザーという素材を選んだのでしょう。
佐野 20年間ずっと日本国内でのものづくりをつづけてきた中で、カバンとしてのデザインや機能の部分でいうと、同じコンセプトのカバンで「URBAN EXPLORER PRO」の次はないと思ったんですよ。もうほぼ完結という感覚もあって、ここから次に挑戦するとしたら革しかなかったというところですね。ブランドとしてもレザーはやったことがなかったですし。
▲「URBAN EXPLORER PRO」の20周年モデルも内部構造はほぼ一緒
佐野 僕らのカバンは兵庫県の豊岡という町で縫製をしているのですが、もともとは関東圏の職人さんと取り組んできたんです。でも、引退や廃業があまりにも増えてしまい、このままだと継続が難しいという感じになってしまった。そんな時期に、豊岡にある、今の工場さんと縁があってつながることができたんです。カバンの縫製でいうとやはり国内では豊岡が圧倒的にシェアが高い。だったらレザーも一番のところに話をしに行ってみようということで山陽さんにお話に行った、という感じですね。
─コチラは外側のメインルームのストッパー部分にファスナーがついていて、ガバッと開くようになってるんですね!
佐野 コレ、実は縫製のために開くようにしたんです。カバンって中から縫って、最後にひっくりかえして表が出るという作り方なのですが、レザーの場合、ひっくりかえす時に負荷を掛けられないんですよ。それでファスナーで開くようにしました。こういう細かい部分をしっかり工場側と話ができるというのは僕らの強みだと思っていますね。
▲コチラのファスナーは縫製時のためだが、ガバッと180度開口することで収納物の整理がし易いという利点も
─ちなみに、内部が部分的に蛍光イエローのカラーになっているのはナニか理由がある?
佐野 もともと最初に20Lを作った時に、飛行機の機内でパネルケースだけ外して手の届く場所に置けるようにしたい、という考えからなんですね。例えば、機内でレッドアイ・フライト(深夜出発のフライト)や長時間フライトで、機内が暗い時でもある程度ポケットのレイアウトがわかるようにその色を使っています。もちろん、お客さんによってはその部分も「ブラックが欲しい」とご希望されたり、オール蛍光カラーのお話もいただくのですが、それだとレイアウトがわかりづらかったり、色によっては汚れが目立ったりするんですよ。
─なるほど、よく分かりました!
■これからの『beruf baggage』とは
─最後にブランド設立20周年を迎えて、これからの『beruf baggage』をどのように考えていますか?
佐野 20周年モデルでレザーを使用したものをリリースできて、やりたかったことは一応やり切れたのかな。これより上のステージのモノとなるとあとはオールレザー素材でって。でも、それでは日常的に使う道具からはかけ離れていく感じもあるワケです。僕らはあくまでも日常的に使ってもらう道具としてのバッグを作り続ける。というのが、まずひとつ。
20年前に立ち上げた時のバッグって、ロゴもドーンとプリントされていたり、もっと色味が派手だったりで、同じブランドの製品と思えないくらいのギャップがあるんですよ。でも、それが20年経つと今度は自分の子供の世代が「いいじゃん!」って、新しいモノという感覚で見てくれるんですね。だから、若い世代に向けた昔のモデルの復刻ではありませんが、そういうアプローチもしてみたいと思っています。それで世代が一周するくらいまでもっていけたら、ものづくりをしていて冥利につきる。そういう感じですね。
▲発売から9年、順を追ってアップデートされてきた「URBAN EXPLORER」シリーズ
─ありがとうございました!
■一度は試してほしいその機能美
そんなこんなで『beruf baggage』の「URBAN EXPLORER PRO」。20周年モデルのレザー仕様も気になりますが、やはりそのパーツひとつひとつ、そのカタチのひとつひとつにデザイナーの佐野さんのこだわりを感じる逸品となっています。
バッグを視覚的に小さく見せるためのデザインや、重心を上部にすることで軽く感じさせる工夫など、とにかくよく考えられて丁寧に作られている超こだわりのバッグなんですよ。逆に言えば、それだけよく考えられたこだわりがあるからこその使い勝手の良さなのではないかと、今回の取材でナットクしました。
新生活がはじまるこの季節。ビジネスに、学校生活に、そして旅やデイリーユースにピッタリ。
バッグでお悩みの方にはかなり朗報的な、ミミより的な情報ではないかと。
『beruf baggage』
2006年、東京で設立された日本発のバッグブランド。自転車のある生活を実践しながら、機能的で快適な”都市型のモビリティツール”としてのバッグ製品を展開しています。
佐野賢太
『beruf baggage』 バッグデザイナー:
鞄の製造に携わる家系に育ち、2006年にberuf baggageを立ち上げる。自らのライフスタイルと経験値を反映し、実用途に則した機能美を追求。生産者との緊密な連携を武器に、”道具として美しい”バッグを提案し続けている。
<写真&文/カネコヒデシ(BonVoyage)>
カネコヒデシ|メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine / トーキョーマガジン」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。 バーチャルとリアル、楽しいモノゴトを提案する仕掛人。http://tyo-m.jp/
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