「道に迷い、放浪の末に一杯のご飯に救われた」。作家・林芙美子のそんな言葉が、現代の私たちの忙しさや目まぐるしい変化と重なる瞬間があります。
新生活や環境の変化が訪れるこの季節。ふと「自分の歩いている道はこれでいいのか」と迷いそうになる瞬間、私たちの心と体を繋ぎ止めるのは、理屈ではなく、「確かなエネルギーを宿した食」かもしれません。
神奈川県・横須賀市に、鶏たちがのびのびと駆け回り、自由に砂浴びをする場所があります。その名も『チキチータファーム』。ここで養鶏を営む鈴木章子さんは、かつて病院でリハビリの仕事をしていましたが「もっと自然に近い仕事がしたい——」。その想いで辿り着いたのは、地域のお豆腐屋さんのおからや、お蕎麦屋さんの出し殻、ビール工房の粕などを食べて育つ、逞しくも美しい鶏たちとの暮らしでした。
▲チキチータファームのオーナー・鈴木章子さん
今回は、そんな“地域の循環”から生まれる、心と体が整う究極の「平飼い卵」のストーリーと、養鶏場オーナーが普段食べているおすすめの「卵の楽しみ方」を紐解きます。
◾️リハビリのプロが、養鶏家に転身した理由
▲人懐こい鶏たちは鈴木さんのところに自然と集まってきます。筆者にも何の疑いもなく、足元に寄ってきてとっても可愛い!
園主の鈴木さんは、かつて病院や養成校でリハビリ(作業療法士)の仕事に携わっていました。専門職として充実した日々を送る一方で、心のどこかに「もっと自然に近い場所で、手触りのある仕事をしたい」という想いが膨らんでいったといいます。
その一歩としてこの地域では有名な実家の養鶏業を手伝い始めた鈴木さん。そこで直面したのは、効率を最優先にした「ケージ飼い」の現実でした。狭いカゴの中で一生を終える鶏たちの姿。
「見ていられなかった。それが本当に辛くて……」
その痛みから目を逸らさず、鈴木さんは自らの手で「平飼い」の道を切り拓くことを決意します。実家の余った土地を活用し、自ら小屋を建て、鶏たちの心地いい環境を整えていきました。
▲のびのびと庭のような広場で歩き回る鶏たち
▲敷地には放し飼いの鶏小屋が点在。思い思いに鶏たちが暮らしている
現在、ファームで暮らす170羽の鶏たちは、鈴木さんにとっての家族のようなもの。名古屋コーチン(桜色の卵)、アローカナ(薄水色の卵)、ゴトウさくら(桜色)、ゴトウもみじ(濃い茶色)など種類も様々。1羽1羽が太陽を浴び、風を感じて生きる、その当たり前の風景の中でのびのびと暮らしています。
▲砂のくぼみに座り、羽根で砂を散りばめるように全身で砂浴びする鶏。これで体の汚れや余分な脂を落とし、寄生虫を落とす役割があるそう


















