【アメリカンウォッチ最前線】
極限環境に耐えるタフネス、プロユースに応える信頼性、そして細部に宿る美意識。唯一無二の時計哲学を貫いてきたボール・ウォッチに新たな注目モデルが誕生した。本記事では日本限定という特別感と現代的な意匠をまとった腕時計を開発の舞台裏とともに紹介。
* * *
新宿駅が世界一の乗車率を誇るように日本が“鉄道の国”であることに対して異論はないだろう。列車のダイヤは秒単位で管理されるこの国において「時間の正確さ」は社会インフラと密接に結びついている。その概念が、実はボール・ウォッチと深く関わっていることはあまり知られていない。
1891年、米オハイオ州で起きた鉄道事故を機に創業者ウェブスター・クレイ・ボールは「鉄道公式時計制度」を築いた。これは時計の精度と信頼性を標準化し、事故を未然に防ぐための画期的な仕組みだった。言い換えれば人命と時間を結び付ける安全の哲学である。
「機能がオーバースペックすぎると言われることもあるんですが、むしろそれがボールらしさなんです」と語るのはボール・ウォッチ・ジャパン代表の中嶋 茂社長。信頼性への徹底したこだわり。それがブランドの真価である。
その思想を受け継ぎながら限定感と素材美を融合させた新作が「エンジニア ハイドロカーボン NEDU G5JAPAN LIMITED」だ。米海軍の潜水特殊部隊「NEDU」との共同開発に基づくプロ仕様モデルに、マザー・オブ・パール(MOP)文字盤というエレガントな意匠を落とし込んでいる。
「実は以前にもMOPを使った試作はあったんですが、どうもしっくりこなかったんです。今回はようやく納得のいく仕上がりになりました」と中嶋社長は語る。光の角度によって表情を変えるダイヤルがグレード5チタン独自の艶感と相まって絶妙なコントラストを生み出している。
ケースバックには“JAPAN LIMITED”と限定本数の刻印が入り、このモデルだけの希少性をさりげなく主張する。プロフェッショナル仕様の堅牢な設計に工芸的な美しさを宿した本物志向の1本だ。
鉄道事故の教訓から生まれた“時間の信頼性”という理念。それを現代的に再構築し、技術と美意識を融合させたこの限定モデルはまさにボール・ウォッチが体現する哲学の結晶であり、誇るべき傑作だ。
▲ポスターに記された「RR」はRail Road、つまり“鉄道”を意味する略称であり、創業者ウェブスター・クレイ・ボールが築いた“鉄道公式時計制度”の理念を今に伝えている
▲「このバックルピン、実はステンレスの削り出しなんです」。通常は別パーツを接合する構造が一般的だが、それでは破損リスクが高まるためあえて削り出しで強度と一体感を高めているという
▲今回のようなダイバーズをはじめ、フィールドやドレスなど多彩なカテゴリーを展開。その幅の広さもまたブランドの奥行きを物語っている
- 1
- 2














