「いいメガネは、どう作られているのか」。そう聞かれて即答できる人は多くないだろう。
見た目はシンプルでも、フレームの一本には驚くほどの工程と、数え切れないほどの人の手が関わっている。
▲キングスター/〒916-0083 福井県鯖江市石田上町26-1
今回訪れたのは、福井県鯖江市にある眼鏡市場の自社工場「KING STAR(キングスター)」。世界的な“メガネの聖地”で、設計から製造、検品まで一貫して担う現場だ。
本記事では、その様子を収めた工場見学動画のダイジェスト版をお届けする。
■動画本編はこちら
巨大な機械音と、静かに集中する職人たちの姿。その空気を浴びながら歩くと、一本のメガネが形になるまでの長い道のりが浮かび上がってきた。
■鯖江が“メガネの聖地”と呼ばれる理由

鯖江でのメガネづくりは、もともと農家が冬の閑散期の副業として始めたことに端を発する。
雪深い土地で広がった小さな取り組みは、やがて分業制のもとで技術が磨かれ、地域全体に蓄積されていった。

メガネは200以上の工程を要する複雑な製品であり、それぞれを専門の職人が担ってきた。
世代を超えて受け継がれてきた技術が互いを補い合い、まさにひとつの大きな工場のように機能してきたのである。
▲工場長:吉田和弘さん
長く積み重ねられてきた技術を守り、未来へとつなげていくには、人を育てることが欠かせない。
吉田さんは「従業員は家族のような、宝物のような存在なんです」と語る。その思いが、人を大切にし、技術を継承する姿勢となって現場に根づいている。

その精神は、現場の隅々にまで息づいている。従業員を大切にし、技術を磨き続けることは当たり前のように聞こえるかもしれないが、実際には容易ではない。
その難しいことを実直に続けてきたからこそ、キングスターの製品は揺るぎない信頼を得ているのだ。
■一貫生産を支える「キングスター」の役割
キングスターでは、フレームの設計から加工、組み立て、検品までを一貫して担う。その強みは、現場で起きた課題をすぐに設計や品質管理に反映できるフィードバックの速さにある。

多様な頭部データをもとに設計されたフレームは、多くの人に快適なフィット感をもたらす。
さらに修理対応を含めたアフターサービスも一貫体制の中に組み込まれ、安心して長く使える仕組みが整っている。
■現場で体感した、メガネづくりの核心に迫る4つの視点

ここからは、&GPのワカザワが吉田さんの案内で見学したメガネづくりの現場を紹介する。
巨大な機械で部品を成形する迫力から、職人が指先で行う繊細な調整まで、工程の一つひとつに人の技が宿っていることを実感した。
【視点1】鉄より硬いチタンを、巨大プレス機でメガネの部品へと成形する

鉄の約2倍の硬さを持つチタンを思い通りの形に仕上げるには、一度のプレスでは到底足りない。巨大なプレス機で複数回に分けて圧縮し、少しずつ形を近づけていく

成形されたパーツは、その都度ひとつひとつ研磨され、寸法を0.1mm単位で追い込んでいく。力任せではなく、段階を踏みながら精度を積み重ねていくことで、ようやく次の工程へと進むことができるのだ。

ちなみに、プレスに使う金型は、同じ型でおよそ1000枚の部品を成形するごとに磨き直されている。
わずかな摩耗も許されない世界で、見えない部分のメンテナンスが品質を支えている。
【視点2】パーツ同士を接合し、メガネとしての姿をかたちづくる

組み立ての工程は、個々に成形されたパーツをつなぎ合わせ、メガネの姿へと仕上げていく重要な段階である。
部品同士の接合には約900℃の高温で行う鑞(ろう)付けが用いられ、アルゴンガスを充填して酸化を防ぎながら精密に固定する。さらに各パーツは人の手で丁寧に組み込まれ、ズレや緩みを一切許さない。

「組み立てはシンプルに見えるけれど、実は非常に繊細な工程」と吉田さんが語るように、ここで確かな強度と信頼性が備わった一本のメガネが姿を現すのだ。
【視点3】職人の経験と感覚で引き出されるツヤと上質な風合い

切断面などの微細な凹凸は、職人の手によって一点ずつ磨き整えられる。メッキ前には工程によっては5回に及ぶ研磨を重ね、曇りや傷を徹底的に取り除く。
特にフレームに模様が入っている場合は、その模様を活かしつつ艶を引き出すため、力加減や角度のわずかな違いにも熟練の勘が欠かせない。

そうして磨き上げられたフレームには、金属とは思えない柔らかな光沢が宿る。
その質感は見た目の美しさだけでなく、肌に触れる道具としての心地よさにも直結している。
【視点4】職人による厳しい検査と耐久試験で、誰もが安心して使える一本に

完成したフレームは、まず熟練の検査員による目視で確認される。1日1000本以上を見極める経験値によって、不良率は0.11%という驚異的な水準に保たれている。

そこからは、ランダムに選ばれた製品を対象に、テンプルの開閉を2万回以上繰り返す耐久試験や、高温多湿・塩水にさらす環境試験など、日常使用を想定した過酷なチェックが実施される。
見えない部分まで徹底的に検証する姿勢が積み重なり、安心して長く使える一本が世に送り出されている。
■鯖江の文化と人、そして積み重ねが品質を守ってきた

鯖江という土地に根付いた文化と人、キングスターの一貫体制、精緻な加工や磨き、検査と試験の積み重ね、そして出荷後の修理体制まで。すべてが重なり合って、眼鏡市場のメガネは形になる。
一本のメガネを手にしたとき、そこに込められた数百の工程と職人たちの手仕事を思い出すと、その価値の重みが違って見える。いいメガネには、確かな理由があるのだ。
>> 眼鏡市場「キングスター」
<取材・文/若澤 創 撮影/田中利幸>
































