■当初は代表自ら発送していた「マルゲリータ」
ここまでの話はあくまでも筆者個人の話なわけですが、「マルゲリータ」の秀逸ぶりに改めて感激し、「周辺商品も見てみたいし、記事にもしたい」と後日天王洲アイルにある「マルゲリータ」ショールームを訪ねました。すると、「マルゲリータ」代表で一級建築士の倉田裕之さんが、これまた丁寧に応じてくれました。
聞けば、「マルゲリータ」は倉田さんが、かつて建築の設計・プロダクトデザイン双方の仕事を行なっていた頃に開発したものだと言います。
「最初に仕事を始めた頃は、依頼主からのオファーによる建築の設計・プロダクトデザインがメインでした。特にプロダクトデザインは、クライアントに対して『こんな合理的なデザインはどうでしょう?』と提案しても、『確かに良いかもしれないけど、それを作る予算も商流もないから無理だ』と言われることが大半でした。つまりそのプロダクトが良いもの・悪いもの以前に『売っていく手段がない』と言われることが多かったわけです。
その度に残念な気持ちになりましたが、同時にヒントにもなりました。
工業製品でイチから商品を起こす場合、金属や樹脂素材であれば必ず金型が必要で、この金型を作ることにまず莫大な費用がかかります。そのハードルがまず高いのですが、木工製品であれば金型が要らず、仮にその商品にニーズがなかったとしても、リスクを最小限で抑えられわけです。
そんな中で、思いついたのがこの『マルゲリータ』という本棚で、当初は僕にとっては副業で注文があれば、スタッフのうち僕1人で木材を発注をして、納品後すぐに梱包して僕が発送する……』というような感じでした(笑)」(倉田さん)
日本の木造建築の技法の応用で「背板がない」本棚実現へ
しかし、その本棚の構造は、倉田さんが長年培った知見でしか思い浮かばないものでした。特に象徴的なのが、「マルゲリータ」の本棚の四隅に挿さる「斜めの板」。これは日本に多い木造住宅の建築技法を応用したものだと言います。
「火打梁(ひうちばり)というものですね。
そもそも『マルゲリータ』の本棚には、基本的には背板がありません。本来、1コマ30キロ以上という『本』の重量に耐え、さらに縦2メートル以上もある本棚を作る場合は、背板などを使って耐えうる強度を確保する必要があります。しかし、背板があると、発送する際に巨大な板を送ることになるため、どうしてもコストがかかり、また一般の人が使い慣れない工具なども必要になります。
『最小限の資材で、さらに簡単な組み立てで、配送の負担も減らしながら背板を用いずにいかにして強度と維か』という課題を前にしてヒントとなったのが火打梁でした。日本の木造住宅の床組みに多く用いられてきたものです。
木造住宅の床を組む際に、ひしゃげることを防ぐために、四隅に斜めの板を入れるのですが、この技法を本棚にも応用しました。このことで十分な強度を確保し、コストも抑え、特別な工具などがなくても簡単に組み立てられる『マルゲリータ』を実現させました」(倉田さん)
■美しさ・合理性全てを実現させた本棚の名作
倉田さんの話を聞き、筆者は、プロダクトデザインの巨匠・ジョルジェット・ジウアジアーロが、外観デザインだけでなく流通やコストの問題をも解決したフィアット・パンダという小さな名車を思い出しました。
無駄のないデザインの素晴らしさだけでなく実用面でも優れたフィアット・パンダと、倉田さんが開発した「マルゲリータ」が、どこか被って感じられたのです。
「僕はもともと日本の工芸品とか、質素でも洗練された意匠の数寄屋建築が好きなんです。『理にかなっている』『無駄がない』『でも美しい』といったもので、逆に、過度に飾る装飾というものが非常にイヤなんですね。
一番の理想は『躯体(くたい)の段階で美しい』『綺麗だ』といったもの。そこを目指したのが『マルゲリータ』でもあります」(倉田さん)
当初はシンプルなところが「マルゲリータ」の一番の魅力だと思っていましたが、そこに至るまでの開発経緯を倉田さんから聞き、その奥深さと素晴らしさを実感。ひいては筆者が25年以上続ける「文章による伝達」についても再点検する必要があるとも思いました。
本に関わるプロたちはもちろん、プロダクトにこだわる人たちをも魅了し続ける「マルゲリータ」。今回のオーダーの経緯と倉田さんから聞いた話によって、その凄さと魅力を深く実感し、大事に使い続けようと改めて心に誓いました。
<取材・文=松田義人(deco) 、写真:中西ふみえ、松田義人>

松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
【関連記事】
◆パナソニック、無印良品、Rentio… 家電や家具のサブスクで新生活の初期費用をグッと軽減
◆福井・鯖江の小さなメガネ店に全国から客が殺到。その理由は最安「レンズ付き2本5000円」のメガネにあった
◆“趣味を楽しむ、趣味が捗る”グッド収納アイテム7選【趣味と遊びの新生活】









































