【ヒットの予感】バルミューダ 寺尾 玄(3)価値ある“感動”の体験を


“これがあるとスゴいね”というモノをつくる

 

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ーー「BALMUDA The Toaster」のコンセプトは、なんでしょうか?

寺尾:17歳の時、スペインのロンドにたどり着いた初日に食べたパンの感動。あれをどうにか伝えられないかと思ったのがきっかけです。世界一のトーストができるトースター、焼きたてのパンが再現できるトースターが最初のコンセプトです。それを実現するためにスチームや温度制御といったテクノロジーを開発したんですよ。

ーースペインで食べたパンの話は、トースターを開発する際、技術陣にどのように伝えるのですか?

寺尾:プレス発表会で話したのと同じ内容で、「食べ物はエネルギーの移動であり、パンの持つ“おいしさ”が食べた人に移り、美味しいと感じ、ありがたいと感激するんだ」って話をしただけです。

ーー寺尾さんはスタッフに指示を出す時、具体的に「こうしてほしい」と言うより、その世界観を抽象的に語ることが多いのでしょうか?

寺尾:そうですね。技術的なことや、機能について細かく話すよりは、食べ物というのはすっごくありがたいものだ、と言いました。1個のパンで生きる死ぬが、決まっちゃうくらいインパクトがあり、そのポテンシャルを少しでも引き出す道具をつくりたいって話をしたんです。そのポテンシャルは、美味しさで感じられるものだから、できる限り、最高のおいしさを届けられるトースターをつくろうって話しました。

ーーそれをスタッフたちが咀嚼し、判断して動く。

寺尾:だいたいそんな感じですね。以前は技術の開発も全部自分でやっていたんですが、今は優秀なスタッフがたくさんいるので、コンセプト、目標、目的をちゃんと伝えることが大事なんですよね。

ーー伝われば、スタッフがその通りやってくれると?

寺尾:最近は本当にやってくれるようになりましたね。「スゴいな、うちのスタッフ」と思いますよ。実は、来年出る商品もスゴいですよ。「何コレ、いいじゃん!」っていうものを、1週間くらいでつくったりするから。こいつらヤバいなって思っちゃう。

ーースタート時点から、最終的にはこういうものになるだろうっていうのは見
えているんですか? それともこういうものをつくって欲しいとスタッフに伝え、その結果でき上がったものを見て判断していくのですか?

寺尾:技術が見えているかという意味では、だいたい見えていることが多いです。でも、わざと言わなかったりする。自分の意見が変なフィルターになっても困るので。自由に考えてもらうためにも、あえて言わないで、最後に辿り着くべき地点を伝えることが多いですね。「こんなのあったらスゴくない?」という話からするようにします。そうすると彼らが、達成するためにこんな技術が必要になるかもしれないって自分たちで調べて、試作でパッとつくっていく流れです。

ーートースターやグリーンファンは、人の体験、つまり、扇風機だったら風がとても気持ちが良いなとか、トースターだったら、美味しいなと体験できるものを、寺尾さんはつくりたい、売りたいと考えていますよね? それはいつからですか?

寺尾:“体験”というキーワードがすごく大事だなって気付き始めたのは、実はここ1〜2年なんですよ。これもグリーンファンが成功したからかもしれません。その後発売した商品で、もちろん売れないものもあるわけですよ。その時にどうしてだろうと思ったんです。当時は、暑い寒いを解決したいと考えていて、そのために加湿器やヒーター、空気清浄機といった「空調家電」を面で揃えたつもりだったんです。けど、グリーンファンほどインパクトのある製品が生まれたかいえば、そうとは限らないと。

ーー何が足りなかったのでしょう?

寺尾:結局、気持ちいいと感じる、その感じるって瞬間がユーザーにベネフィットを届ける瞬間なんですよね。その後でも前でもなくて、その“瞬間”の質が高ければ高いほど、価値あるものになる。結局は体感とか体験の瞬間に向かって、つくりこんでいく。素晴らしい体験を提供できたときに、おそらく“良い製品”になるだろうし、ビジネスとして成功するんだろうなっていうのが、今の私の考え方なんですよ。グリーンファンは、たまたまそれがうまく行ったただけで、他の製品は分かりにくかったんですよね、きっと。

 

加湿器「レイン」

加湿器「レイン」

 

ーーでも、空気清浄機「エア エンジン(旧ジェットクリーン)」や加湿器「レイン」、ヒーターの「スマートヒーター」など、バルミューダの製品はどれもコンセプトが明快だという印象があります。

寺尾:ただ、自分の中では納得していない点があるんです。“クリエイティブ”な点で言えば、扇風機で当たったから、今度はサーキュレーターをやりましょう、サーキュレーターをやったから、空気清浄機やりましょう。空気清浄機までやったら加湿器だよねって。これって、大手メーカーと同じ考え方。全然クリエイティブじゃないですよね。

ーー勝手な想像ですが、寺尾玄という人間のプロダクトに対する愛情のかけ方は変わってきてるんですか?

寺尾:変わってきていますね。

ーー好きなものじゃなくて、必要なものをつくるという話がありましたが、自分のプロダクトだからやっぱり愛情はありますよね。意識的にセーブするのですか?

寺尾:セーブします。愛し過ぎちゃうとダメですね。これはコミュニケーションに大きく影響してきますね。製品の企画はしますが、デザインや設計は担当者がやり、自分はディレクションしかしない。モノを愛し過ぎていると絶対ダメです。目が曇りますね。だって、お客様はそこまで製品を愛していないから。

グリーンファンをつくっている頃って、扇風機のことばかり考えていたんですよ。それこそ真冬にスキーをやっている時も、扇風機のことを考えていた。そんな人いないですよね。これだけ考え抜いていると、自分にとって、ものすごく重要なものになっちゃうわけですよ。

ーー周囲が見えなくなってくる?
寺尾:愛情はビジネス上、もちろん重要なんですけどね。でも、それは自分の都合であり、そんなお客様はどこにもいない。お客様は暑いから困っているから、そこで涼しくなれる道具はないかな? というだけなんですよ。だから、「グリーンファンってものすごくイイ!」って思い込んでる人と、お客様が話すと、会話が通じない。

だから、コミュニケーターは商品のこと絶対に愛しちゃだめだと思う。むしろ突き放すくらいで、「これ、何なの?」くらいから話を始めないとダメ。どこがお客様とのコミュニケーションで重要なのか、そのポイントを見誤っちゃうんですよ。

ーー先ほど「体験」のお話がありました。体験を共有することではない?

寺尾:エンジニアにありがちなんですが、「この機能すごいでしょ」という話になっちゃう。必要なのはそこじゃない。消費者としての私もそうですが、簡単になるべくラクに良い体験をしたいだけなんですよ。その体験の質が良かったら嬉しいじゃないですか、それだけの話なんですよ。労力をかけていると、この製品は人を感動させるはずだって思っちゃうけど、そんなこと考えちゃだめ。

ーートースターに関しても同じですか?

寺尾:感動するくらい美味しいのは確かですが、全員に感動してもらおうと考えちゃダメだと私は思っています。いつものパンがもっと美味しかったら嬉しいよね、くらいの話。今回も単純に「すっごいトースターができたんですよ!」と伝えたら、多分売れなかったと思います。

おかげさまで、トースターは予想以上に売れていますが、それはトースターではなく、パンの美味しさを前面に訴求したからだと思います。お客様にとって、トースターの技術のスゴさなんかよりも、パンの美味しさの方が重要なんですよ。

ーー美味しいパンが食べられるなら、欲しいと思うわけで。

寺尾:そういう感覚を持たずに、社長が開発ばかりに没頭しているとバカになっちゃうから。お客様との感覚と乖離しちゃうんですよ。そう思って、一昨年くらいから、またギターを買って、歌ったり作曲しているんですよ。すごく大事な楽しみであり、新たなクリエイティブな活動ですね。単に遊んでいるわけじゃなく……いや遊んでいるんですけど(笑)。

曲を書いているときに仕事のことは考えませんから。歌詞を真剣に考えている時に扇風機やトースターのことはどうでもいいですよね。扇風機なんて涼しけりゃいいじゃんくらいに。これって、一般のお客様目線になれる瞬間なんですよ。だからいろいろなクリエイティブを並行させるというのは、結構良いなって思います。気分転換にも繋がりますし。以前は「クリエイティブは並行させてはいけないんだ」って信じていましたね。

今は小説も書いているし、音楽も作っているし、歌っています。その瞬間瞬間は、「バルミューダなんて、別にどうでもいいかな」っていう距離感。歌とか小説、アートは大好きだから、この輝きの前では“事業”と言っているのはダサいと思えてくるんですよね。別のクリエイティブな活動をしている時に見えるバルミューダや、バルミューダの製品に対する感覚が、自分にとってはすごく重要なんです。

(取材・文/滝田勝行)


 

【第4部:“自由な発想”を忘れない】(2015年8月6日21時更新予定)に続く

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【第2部:必要なモノが売れるんだ】

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