「欧米で販売台数シェアNo.1」というオーディオテクニカのレコードプレーヤーに、透明すぎる新モデル誕生&カートリッジ刷新で示すアナログ本気度!

■カートリッジ刷新の大胆不敵

この日はオーディオテクニカ独自のVM方式カートリッジの刷新も発表された。新シリーズ名は「AT-VMx」。

「いまから46年前に生まれたAT100系初代モデル「AT120E/G」に連なるVM型カートリッジの最新モデルとなります。新作「AT-VMx」シリーズのコンセプトは現代のトレンドに最適化し、多種多様なラインナップを用意することで選択肢の幅とカスタマイズの自由度を提供することにあります。ターゲットユーザーはレコードこだわり層、往年のAT100シリーズユーザー、さらにコスパ重視ユーザーも視野に入っています」とは同社カートリッジ開発担当の森田彩さん(下写真)。オーディオテクニカ入社後20代より現職に就き、現在、而立(じりつ)の30代にして豊富な経験を誇るカートリッジテクニシャンである。

今回刷新されたVM型カートリッジはオーディオテクニカのど真ん中であり、リスナーにとってはお馴染みと言える存在だ。そのど真ん中の刷新だというのだから、レコードらしく駄洒落するなら「溝(未曾有)の大事件」である(苦笑)

今回の刷新で新たに登場するのは全9製品。上位ラインの700xシリーズと普及ラインの500xシリーズがステレオで、600xシリーズがモノラル。税込価格で1万5400円から9万6800円と幅広く展開することからも、多くのユーザーへ響く面展開だと知れる。

▲カートリッジ9製品に加え、ヘッドシェルと組み合わせたモデルが3種類、ほか交換針8種類を展開するため、品番としては全20種類展開となる。右下のでっかいカートリッジはオーディオテクニカ伝統の説明用モックだ

■気になるサウンドの変化とは?

森田さんは言う。

「先代にあたる「VMシリーズ」、これは20代の私が担当した思い入れある製品ですが、解像度追及を第一義にしていたと思います。もちろんそれもカートリッジのサウンドキャラクターとしてはいいのですが、いま30代の私が聴くと「もう少し深みや音楽の愉しさがほしいな」と感じてしまう。そういう意味で新作「AT-VMxシリーズ」では解像度や分解能を追いすぎることなく、温度感、湿度感、空間表現など、音楽を奏でる時間そのものを再生するようなサウンドキャラクターをもたせたいと考えました」。

▲森田さんが「おそらく一番の売れ筋」と予想するのがこのヘッドシェル付きモデル「AT-VM520xEB/H」」税込価格2万6400円

シャープペンシルと万年筆との、筆跡や書き心地の違いにたとえられるだろうか。筆記用具としての目的は同じでも、どう読ませ、どう印象付けられるかが大きく違う。だから読み手に対する意味・内容の伝わり方も違ってくるのだ。

むろんステレオカートリッジだけでも2シリーズ、7ラインナップあるので、そのすべてが同じサウンドなわけではない。概してリーズナブルなものになるほどパワフルでガッツがあり、若々しいサウンドになる。ハイグレードに向かえばより繊細に音楽を奏でるすべを身につけてゆく。

▲今回のフルモデルチェンジに伴い、本体にネジを切ることでナットなしのヘッドシェル装着を実現した。地味ながらユーザーフレンドリーな改良と言える

これは今回の発表会における森田さんの試聴レコード選びでも明らかだ。500xシリーズではシティポップやロックを中心に、700xシリーズではジャズやクラシック、アカペラといった生音系を選び、それぞれの商品特性を判りやすく解説してくれたからだ。

■なぜ、いまレコードなのか?

冒頭登場いただいた小泉さんは、

「いまなぜレコードなのか、とはよく尋ねられる質問です。80年代のMTV世代の両親が持っていたレコードに子供世代が関心をもつ、あるいはミュージシャンが新たなビジネス商材としてレコードに注目した等の背景が考えられますが、正直なところわかりません。ただその時期を前後して弊社のレコードプレーヤー売上げは伸びており、欧米でトップシェアを記録するまでになりました。今後は入門モデルで獲得したユーザーへのネクストステップとして、マニュアルプレーヤーやハイクラスプレーヤーの展開に挑みます!」

新製品「AT-LPA2」と「AT-VMxシリーズ」はレコードブームで名を成したオーディオテクニカの「超攻めの一手」なのだ。

2万円以下で買えるフルオートがある。持ち運んでアウトドアでレコードが聴ける「サウンドバーガー」(下写真)がある。BTワイヤレスで楽しめるプレーヤーから、フルマニュアルモデル、「AT-LPA2」のようなデザインコンシャスなモデルもまたある。カートリッジに至っては「どんなお悩みもパウっと解決!」というくらいラインナップが豊富だ。

レコードはオーディオというより楽器なのかも知れない。小さな溝に刻まれた凹凸を、これまた細い細い針がトレースして音楽を奏でるマイクロメカトロニクス。だからこそこだわり甲斐がある。小さな相違が相違としてきちんと出る。プレーヤーを、カートリッジを吟味することは、音楽家がその愛器を探すことに似ている。

結論。君の求めるレコードサウンドは、オーディオテクニカにきっとある。

>> オーディオテクニカ

<取材・文/前田賢紀>

前田賢紀|モノ情報誌『モノ・マガジン』元編集長の経験を活かし、知られざる傑作品を紹介すべく、フリー編集者として活動。好きな乗り物はオートバイ。好きなバンドはYMO。好きな飲み物はビール

 

 

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