【DS 7クロスバック試乗】モダンアートのように斬新なルックスに驚きのギミックを満載!

■名車の個性を現代に甦らせる新生ブランド

「DSなんて自動車ブランド、あったっけ?」という人もいるかもしれないので、まずはDSブランドについて説明しよう。

かつては、それぞれ別のメーカーだったプジョーとシトロエンが、合流して誕生したのが“グループPSA”で、現在、プジョー、シトロエン、独・オペル、英・ボクソールなどを展開している。DSは、そんなPSAでシトロエンの高級車向けサブブランドとして使われていた一種のシリーズ名だったが、2015年、グループ内で最も上級のポジションを担う新たなブランドとして独立。新生DSブランド誕生後、ゼロから開発された初のモデルが、満を持して登場したこのDS 7クロスバックなのだ。

ちなみにDSというブランド名は、1955年に登場したシトロエン「DS」がルーツ。DSというクルマは、どことなくカエルやカタツムリをイメージさせる強烈なエクステリアを有し、油圧式サスペンションを採用するなど、技術面でも独自性が強かった。そんな、歴代フランス車の中でも特別な存在で、今なお人気の高いシトロエンDSの個性を現代に甦らせようというのが、新しいDSブランドというわけだ。

■ヘッドライトのギミックはまるでミラーボールのよう

さて、話をDS 7クロスバックに戻そう。その第一印象は「こんなにキラキラしたクルマは見たことがない!」というもの。そして率直にいって「今の時代、こんなクルマがアリかも!」と思った。

DS 7クロスバックは、とにかく“飾り”がすごい。インテリアは、スイッチひとつひとつの表面を、宝石のカットを想起させるデザインに仕上げるなど、細部のデザインまで徹底的に凝っているし、上級グレードの「グランシック」では、エンジンを始動させるとインパネ上部のB.R.M社製アナログ時計が、180度反転して出てくるという仕掛けで乗る人を驚かせる。

そうした驚きの仕掛けは、実は車内に乗り込む前から始まっている。ドアロックを解除すると、左右に3灯ずつ内蔵されたLEDヘッドライトユニットが、1灯ずつ180度回転し、四方八方にパープルの光を放つ。ミラーボールのような演出があまりに斬新過ぎて、思わず言葉を失ってしまったほどだ。

DS 7クロスバックは、まさに、キラキラと宝石のように輝くクルマ。こんなにも強烈な個性を放つクルマは、昨今、なかなかお目にかかれない。まるで「見よ! これがDSの世界だ」と訴えかけてくるようであり、乗り降りの際、そうした仕掛けを目にするだけでも、DS 7クロスバックのある暮らしが楽しく感じられることだろう。

そもそも、クルマを買うという行為は、例えそれが軽自動車であろうと、スーパーカーであろうと「そのブランドの世界観を買う」ということにほかならない。そしてその傾向は、プレミアムブランドのクルマになればなるほど強まっていく。だからこそ、浮かれた言葉でいえばキラキラな、品位ある言葉で表現するならばモダンアートのようなDS 7クロスバックの世界観は、好き嫌いがはっきりするだろうが、好きな人にとっては唯一無二の存在として魅力的に映るはず。「嫌いなら嫌いで結構、だけど、好きならとことん愛して」。DS 7クロスバックは八方美人ではなく、まさに濃密な個性を備えた独創のクルマなのである。

■意外にも真面目に作り込まれた基本性能

DS 7クロスバックは、内外装のキラキラぶりからすると少々意外に思えるが、走りを始めとするクルマとしての基本性能は、とても真面目に作り込まれている。

着座位置は、低すぎず高過ぎずの適度なポジションで乗り降りしやすいし、開放感の高いシートに腰を下ろせば、視界は良好で周囲がよく見え、とても運転しやすい。フロントシートは、フランス車らしく座り心地が良くて、長時間ドライブでも疲れにくいし、リアシートも広く居心地がいい。特に、グランシックのリアシートには電動リクライニング機構が備わるから、表面がジワリと沈み込む独特のクッションの柔らかさと相まって、まさに快適のひと言だ。

そしてラゲッジスペースも、十分な広さが確保されている上に、床面の高さ調整機構を使って、後席を格納した際に床面をフラットにできるなど、とても気が利いている。派手な見た目とは裏腹に、長く接していくほどに堅実な魅力が見えてくるだろう。

こうした実用性の高さは、DS 7クロスバックが同じPSAのプジョー「3008」と基本メカニズムを共用していることが大きな要因になっていると思う。一見、デザイン重視のクルマにしか見えないDS 7クロスバックだが、使い勝手の面では3008に負けず劣らず。

プジョー 3008

プジョー 3008

とはいえ、この2台はエクステリアも内装のデザインも全く異なる。両車の世界観をこれほど巧みに作り分けたPSAの手腕は、まさに見事というほかない。

■ディーゼルかと勘違いするトルクフルなガソリン車

日本仕様のDS 7クロスバックは、エントリーモデルの「ソーシック」と、上級のグランシックという2グレードを展開。ともに2リッターのターボディーゼルを設定するほか、グランシックでは1.6リッターのガソリンターボも選べる。

端的にいうと、ディーゼルエンジンは経済性に優れていて、トルクフルな走りを味わえる一方、ガソリンエンジンは軽快な走りが魅力的だ。ディーゼルエンジンは、ヨーロッパの最新規制であるユーロ6.2に対応するなど、環境性能の高さがウリだが、マツダなどの“静かなディーゼルエンジン”を知ってしまうと、エンジンノイズがやや大きめに感じられた。対してガソリンエンジンは「これはディーゼルエンジンなのでは?」と騙されそうになったほど、低回転域のトルクが太くて乗りやすい。どちらを選ぶか? と聞かれたら、個人的には後者を選ぶだろう。

一方、フットワークの印象は、タイヤ&ホイールのサイズで左右される。グランシックは20インチ、ソーシックは18インチのタイヤ&ホイールを履くが、デザイン性を無視し、走りだけに特化して評価するなら、サスペンションがよりしなやかに感じられるソーシックの方が好印象。ただし、ソーシックはディーゼルエンジンしか選べない上に、B.R.M社製のアナログ時計が備わらないなど、DS 7クロスバックならではの世界観が薄まってしまうのが悩ましい。

昨今のニューカーは、かつてあったような“独自の味わい”を失いつつある。それでいて、存在感をより高めるために、自動車メーカー各社は、自社製品の個性を強めようと必死になっているのもまた事実だ。特にプレミアムブランドにおいては、この先の生き残りを掛けて、個性が欠かせない時代になっている。そんな昨今の事情の中、DSはDS 7 クロスバックを生み出すことにより、独自の世界観を明確に打ち出してきた。オーナーの“クルマのある人生”をどのように楽しくするか? そんな課題と真摯に向き合ったクルマが、DS 7 クロスバックだと思う。

PSAは、今やフォルクスワーゲンに続く欧州ナンバー2の規模となり、決してマイノリティな存在ではなくなった。だからこそ彼らは、数の理論だけでクルマを作らず、個性で勝負できるDSブランドと、そのラインナップの重要性を重々認識しているのだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆グランシック(ガソリン/イエロー)
ボディサイズ:L4590×W1895×H1635mm
車重:1570kg
駆動方式:FF
エンジン:1598cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:225馬力/5500回転
最大トルク:30.6kgf-m/1900回転
価格:542万円

<SPECIFICATIONS>
☆ソーシック(パッケージオプション装着モデル/レッド)
ボディサイズ:L4590×W1895×H1635mm
車重:1670kg
駆動方式:FF
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:177馬力/3750回転
最大トルク:40.8kgf-m/2000回転
価格:499万円

(文/工藤貴宏 写真/ダン・アオキ、工藤貴宏)


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