ハノイを歩いてベトナムの人気サンダルと歴史的サンダルを知る

■ホーおじさんの愛用品

翌朝は、ハノイ行きを決めた時から寄る予定だった場所へ。宿からは2kmほど。Grabタクシーを使うことも考えたが、せっかくだから歩くことに。

宿近くの道沿いでブンリューで腹ごしらえ。その後、途中のカフェでベトナムコーヒー(ブラック)でひと息つきつつ、目的地に到着。

そこはベトナム国民から今も愛されるホーおじさん(Bác Hồ/バックホー)ことホー・チ・ミンが眠るホーチミン廟だ。永久保存処置を施されたご本人の遺体が安置されている。午前の早い時間しか見学できないのだが、とにかく行列がすごい。小学生とおぼしき団体さんも数多くいたので、もしかするとベトナム全土から来ているのかもしれない。

通り過ぎながら見るといった感じで、見学料は無料。存命中のホー・チ・ミンを知る世代ではないが、死後もこれだけ国民から愛されている国家指導者は珍しいかもしれない。

ホーチミン廟見学後は、近くにあるホーチミン博物館へ。ここはホーおじさんの足跡を辿る資料が展示されている。

ホーチミン廟にあれだけ人が並んでいたのに、こっちは不思議なほど人が少ない。東側の雰囲気を感じる建物ではあるが、それがまたいい。

展示は、1890年生まれのホーおじさんの生家から始まり、留学や国家主席時代、そして晩年のベトナム戦争時と、さまざまな資料をもとに時代を追って説明されている。

解説文がベトナム語と英語なので、すべてをしっかり読んだわけではないが、ちょくちょく日本語の資料があったりして、個人的にはかなり興味深い内容だった。のだが…。

そう、そいつは唐突に現れた。晩年のホーおじさんコーナーに、ホーおじさんの執務室を再現した展示があり、「いい雰囲気の執務室だな」なんて思いつつ、左に目をやると、当時のホーおじさんの愛用品(本物)が飾られていたのだ。そしてその中にはサンダルが!

▲ホー・チ・ミンの愛用品

説明には英語で「ホー・チ・ミンのラバーサンダル」とだけ書かれている。シンプル。履いていた雰囲気があることから、おそらくご本人が履いていたものではないかと思われる。

国家主席がゴムサンダルって、なんだかとてもベトナムっぽく、そしてホー・チ・ミンっぽい気がした。

国家主席時代の写真も数多く展示されていたのだが、それらをよく見ると「農作業するホーおじさん」の足元がサンダルだったり、小学生の表敬訪問時の記念写真の足元がサンダルだったり、高校生らしき集団と一緒に写った写真の足元がサンダルだったりと、とにかくホーおじさんのサンダル姿が数多く見つかる。

前日の、納得しつつもちょっと残念感があるサンダル探しがあったため、ホーおじさんのサンダルにひとり興奮状態。資料をめくりサンダルおじさんを見つけるたびにニヤニヤしていた。

暑い国のサンダル事情を見に来たところ、国民に愛される偉人のサンダル姿を発見する。なんだか不思議な縁を感じて、思わずホーおじさんの肖像画に「カムオン(ありがとう)」と言ってしまった。

そんな興奮も冷めやらぬままに博物館見学は終了。個人的な満足感はかなり高く、ほくほく顔で出口に向うべく歩いていると、最後に現れたのがグッズ売り場だ。

その正面にはなんとゴムサンダルが置かれているではないか! これだよ、これ! 先ほど撮った写真で確認しつつ、限りなくホーおじさん愛用品に近いモデルを購入。20万ドン(約1200円)也。

いやー、本当にありがとう、ホーおじさん。

そして博物館の建物から出たところ、なんとここにもゴムサンダルの売店が。グッズ売り場のゴムサンダルコーナーと同じ看板が掲げられているから、おそらくグッズ売り場で買ったものも、この店のものなのだろう。その名は「VUA DÉP LỐP」。

店番の女の子に英語で「ホー・チ・ミンと同じサンダルはある?」と聞いたところ、たぶんこれかな、といった様子で足首のストラップが付いているモデルを見せてくれた。

すると店主らしき男性が来て「完全に同じものではないんですよ。ほとんど同じだけどね」と英語で教えてくれた。お値段なんと105万ドン(約6300円)! すいません、さっき買ったひとつで十分です…。

後日、お店のサイトで確認したところ、ホー・チ・ミン レプリカモデルは「1947-Bác Hồ Hậu」と名付けられているだけあり、フットベッドの溝などは博物館で飾られていたものとそっくり。ホーおじさん好きは要チェックだ。

ホーおじさんも愛用していたこのゴムサンダル、インドシナ戦争(ベトナムのフランスからの独立戦争)当時の1947年に軍用廃タイヤから作られたもので、ベトナム全軍に支給されたという。その後、時代を経て多くの工場が閉鎖していく中、ひとり作り続けた職人がいた。その職人の義理の息子が2013年に立ち上げたのが、このタイヤサンダルブランド「VUA DÉP LỐP」とのこと。

>> VUA DÉP LỐP

ベトナム戦争時、ベトコン(ベトナムコンサン/越南共産)の兵士たちもこのタイヤサンダルを履いていたようで、アメリカ軍からは「ホーチミンサンダル」もしくは「ホーチ」と呼ばれていたという話もある。ちなみにベトナム語でDÉPはサンダル、LỐPはタイヤという意味だ。

さすがに街なかでタイヤサンダルを履いている人は見かけなかったが、帰国後、買ったサンダルを履いてみたところ、予想外に履き心地がいいのだ。

ストラップが当たる甲も痛くなく、とても歩きやすい。厚底ふかふかめちゃ軽のEVAサンダルやリカバリーサンダルに慣れた足でも違和感なく履けた。いやむしろ、この絶妙な硬さがイイ感じですらある。

やるな、タイヤサンダル。

*  *  *

暑い国だからこそ、みんなサンダルを履いているだろう、という安易な気持ちで向かったベトナム・ハノイ(そもそもハノイの冬はそこそこ寒い)だったが、世界はEVAサンダル時代に突入していることを思い知らされた。

それもこれも行ってみなければわからないことなわけだが、そうやって現地でサンダルを探してみた結果として、タイヤサンダルにたどり着いたというのは、やはり行ってみなければわからないことだった気がする。

もちろんどの国でも、都会と地方でも事情が異なるだろうし、サンダルなんて安くて履ければいい、ダメになれば別のものを買えばいい、なんて人もいるだろう。だが、歴史や生活習慣、そして経済状況などでも変わってくるのが服飾事情だ。もちろん流行り廃りもある。今後も世界の工場であり続けることで、5年後には現在日本でも流行中のリカバリーサンダルがハンザウ通りのサンダル店にずらりと並ぶ日がくるかもしれない。

>> アジア サンダル紀行

<取材・文/円道秀和(&GP)

円道秀和|&GP編集部所属。担当ジャンルはITデジタル、オーディオビジュアル、ホビー他。好きなものはコーヒー、旅行、キャンプ、乗り物全般、カレー、ラーメン、アジア料理、小さいギア。好きが高じてSCAJコーヒーマイスターの資格を取得。

 

 

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