日本の醤油のルーツは和歌山県にある。“最初の一滴”が生まれた湯浅町の老舗『角長』へ

◾️醸造の町で出合った唯一無二の醤油

 

角長の創業は天保12(1841)年。蔵に一歩足を踏み入れると、例えようもないほど芳醇な醤油の香りが一気に鼻腔をくすぐりました。

出迎えてくれた角長の七代目・加納恒儀さんは、江戸時代からタイムスリップしてきたような男ぶりの良い職人。年季の入った前掛けに、魂が宿っているようです。

 

▲角長の七代目・加納恒儀さん

▲角長の七代目・加納恒儀さん

「うちの醤油は、天保時代からの伝統製法にこだわり、一から十まですべて手造り。もろみの仕込みから熟成、火入れ、最後の瓶詰めに至るまで、全部人の手でやっています」と加納さん。

醤油の原料は、大豆、小麦、塩水、麹菌。角長では大豆と小麦に麹を混ぜて寝かせた後、仕込み桶で1年半〜3年ほどかけて醸し、もろみを造ります。

 

▲仕込み桶で熟成されるもろみ

▲仕込み桶で熟成されるもろみ

醸造蔵の中に34あるという仕込み桶は最大で深さ2mほど。もろみは年代別に管理されており、静かに熟成の時を待っています。

 

▲仕込み桶で醸されるもろみは、発酵の度合いに合わせて人の手で底から撹拌する。重労働だ

▲仕込み桶で醸されるもろみは、発酵の度合いに合わせて人の手で底から撹拌する。重労働だ

「醸造蔵は天保時代の創業当時のもの。だから柱や梁、天井など至るところに“蔵つき酵母”が付着してるでしょ。これがもろみの酵母菌に宿ることで、初めておいしい醤油ができるんです」

こうして人の手で造られる角長のもろみは、一方で天候や気温、湿度に左右されやすいため、細心の注意を払って管理する必要があります。
「もろみも蔵つき酵母のバランスもその時々で微妙に変わる。つまり、同じ醤油は二度とできんということです」と加納さん。

 

▲麻袋にもろみを詰めて圧搾

▲麻袋にもろみを詰めて圧搾

こうしてじっくり時間をかけて醸し、もろみの味・香り・色合いが整ったタイミングで“圧搾”の作業に移行。麻袋にもろみを詰め、圧力をかけてじわじわと生醤油を搾り出していきます。

 

▲搾り出された生醤油

▲搾り出された生醤油

生醤油をほんの少しなめさせてもらったところ、非常に香り高く、奥深い余韻と旨みに満ちた、実に力強い味わいでした。

この生醤油は、半日間かけてじっくり和釜で炊き上げていきます。えぐみが出ないよう、沸騰させないギリギリの温度を保つ必要があります。もちろん、角長ではこの作業も人の手で行っています。

 

▲アカマツの木で生醤油を炊いて仕上げていく

▲アカマツの木で生醤油を炊いて仕上げていく

火入れに使う燃料はアカマツの木。加納さんいわく「火力が強く、一定の温度が維持しやすくて醤油の旨味をしっかり引き出してくれる」とのこと。

2025年現在、昔ながらの製法で造られる醤油のラインナップは次の通り。スタンダードな火入れを施した「湯浅手づくり醤油」、鎌倉・室町時代の醤油を再現したという圧搾も加熱もしない生醤油「濁り醤(にごりびしお)」、もろみ3年熟成の「匠」。

いずれも保存料などの添加物は一切なし。開封後は冷蔵保存が必須です。

 

▲左から「湯浅手づくり醤油」(300ml/750円)、3年熟成の「匠」(300ml/1850円)、圧搾も加熱もしない真の生醤油「濁り醤(にごりびしお)」(180ml/850円)

▲左から「湯浅手づくり醤油」(300ml/750円)、3年熟成の「匠」(300ml/1850円)、圧搾も加熱もしない真の生醤油「濁り醤(にごりびしお)」(180ml/850円)

東京に帰って、角長の醤油といつも使っている醤油を白身魚の刺身につけて食べ比べてみましたが、雲泥の差で角長の圧勝。試しにご飯にほんの少し垂らして食べてみたら、もうそれだけで大満足でした。

◾️まとめ

 

▲蔵の販売所では「生醤油ジェラート」(350円)も販売中

▲蔵の販売所では「生醤油ジェラート」(350円)も販売中

今や醤油は世界中で愛されるポピュラーな存在になっていますが、その原型が生まれた和歌山の湯浅町には、まさに世界最高峰の逸品がありました。

ちなみに、角長本店の醸造蔵の隣には資料館もあり、湯浅の醤油づくりの歴史が学べるようになっています。和歌山を訪れることがあれば、ぜひ湯浅町に立ち寄って、江戸から変わらぬ本物の醤油を味わってみてください。

角長 本店

住所:和歌山県有田郡湯浅町湯浅7
TEL:0737-62-2035
営業時間:9:00〜17:00
定休日:無休

 

<取材・文/田代智久 撮影/草地麻巳>

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