「西の一澤、東の細野」帆布の鞄について。<その1>京都、一澤帆布。映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【25】

僕は、鞄類に関しては帆布製のものか、革製のものしか持っていない。

今から20年ほど前の1990年代の頃は化繊のものも使っていたが、化繊のものは使い込むと何だか貧乏臭くなって、単に汚くなるだけに見えてしまったからだった。

その頃から、鞄類に限らず自転車でもカメラ類でも、長期に渡って使う事を前提にしていたケチな僕は、普段使う鞄に関しても、いろいろ探すようになっていった。ボロくなったからといって手に馴染んだものを次々と変えていくのはこの頃からあまり好きではなかった。

革製のものは良いんだけど、耐久力のありそうなものは重くなりがちで、水にも弱い。いいなと思っても高額な場合が多く、自分にマッチするものはなかなか見つからなかった。

そんな時、神田にあったツーリング自転車専門店アルプスの近所に、細野商店という老舗の帆布鞄屋さんがあるのを見つけた。

僕の最初の帆布製鞄は細野さんのものだった。細野商店に関しては次回<その2>に記すことにするが、それから長い間、紆余曲折あり、京都の、かの一澤帆布のものも入手するようになっていった。

 

■帆布

帆布という布は、昔は船の帆などに使われたような丈夫な布の事である。化繊などが登場する前は鞄はもちろん、さまざまなものに使われた。

厚さが1号から11号まであり、1号が最も丈夫なようである。

詳しい事はネット上にあるだろうから、ここでは省く。

一般的な鞄に使われる帆布は6号、8号あたりが多いようだ。

帆布の良さは、ジーンズに似てると思う。

最初は厚紙のように硬いが、使ってるうちに徐々に馴染んで柔らかくなり、色落ちなども手伝って、最終的には見た目も含め、手放せなくなるほど馴染んでいく。

そういう意味ではジーンズにも似ているが、他のしっかりとした道具類とも共通している。

修理しながら使えるのも良いと思う。

元が頑丈な布だからこそ可能なことだ。

長年使ってて思うのは、意外と防水性があると言うこと。使えば使うほど、ほこりなどが目に詰まり、水に濡れると締まっていくらしい。あまりの土砂降りで長時間に渡って濡れ続けるとダメだけど、通常の雨程度なら、そう簡単には染み込まない。

だから、僕はリュックなどでも、ちょっとの雨ぐらいならばカバーなどはしないでそのままだ。

 

■西の一澤

僕が住んでいるのは東なので、細野さんの鞄類の出番も多いが、やはり同じ老舗の一澤帆布も大好きなのである。

誰が呼んだか「西の一澤、東の細野」と昔は呼ばれていて、帆布製品を作らせたらこの小さいふたつのメーカーが丈夫さでは有名だったようだ。

一澤帆布は、’90年代頃だっただろうか? エルメスの帆布トートバッグブームの影響がなぜか飛び火して、一澤帆布にまで及び、それまで知る人ぞ知るメーカーだったのが全国的に有名となった。

比較的最近では、お家騒動もありご存知の方も多いと思う。

現在は、一澤帆布でも三つのブランドがあるようだ。

 

■僕の一澤帆布 黒のトートバッグ

▲一澤帆布「17E/波星 トート」 元は一級帆布の証として反物の端に付けられてたマークを鞄のデザインにアレンジした(内ポケット付)サイズ:縦37×横(上55/下46)×マチ10cm ※カタログより

僕のこの黒いトートバッグはまだ去年購入したばかりだ。

自転車以外の移動時に、気軽にいろいろ放り込める鞄が欲しかったのだが、これはサイズ的にも大きいのが素晴らしく、厚手で頑丈、極めてシンプルなので大きさの割には軽量で、ボンボンいろいろ放り込めそうだった。柄やステッチの白も効いていてデザインもモダンで良い。値段も安いのがポイントだ。

昔は生成り色しか無かったはずなのだが、去年、お店に立ち寄ったら黒があったので一発で気に入ってしまった。これからどう変化していくのか、楽しみなのである。

 

■僕の一澤帆布 アタックザック

▲一澤帆布「302 アタックザック」 サイズ:縦72×横(上43/下36)×マチ7cm ※カタログより

これは昔の登山用である。

キスリングタイプに似ているが、キスリングは横に長いのに対し、これは横には広がらず縦が袋状に伸びてロールのように適当に丸められるようになっている。

これまた極めてシンプルで、サイドにひとつジッパーが付いていて荷物の出し入れが可能。

雨蓋が付いていて外ポケットは付いていない。

このザックは随分昔から定番として作られているはずだが、驚くのは、昔のものとまったく変わっていないことだ。

変わったのはオリジナル金具がメッキタイプから渋いシルバーの金具に変わった程度で、驚くほど変わっていない。

大昔から存在するものが、寸分変わらず中古ではなく新品で入手できるのだ。これをしあわせと呼ばずなんと呼ぶ?

今のこの日本で、そんなメーカーはどれだけあるだろうか?

このしあわせはもっともっと噛み締められるべきである。

前記のトートバッグも大昔とまったく変わっていないと思われる。

これは、京都という街の奥深さを表していると思う。

いくら一澤帆布とはいえ、金具類、糸、布、紐などがしっかりしたものでないと存在できないはずだ。

これは、そういったものを作ることができる小さな会社やお店が存在してこそ、可能なはずなのである。

これは、そういった小さなメーカーが生き延びることができる状況であることを差し示している。

僕は京都の一澤帆布に行くたびに、全国の街が京都のように、または一澤帆布のように存在できる状況であったなら、どんなに良い事だろう、と思うのである。

 

僕は、このアタックザックは昔のレンガ色のものを持っていて、だいぶ以前から自転車のパスハンターでの旅行に持ち出していた。

昔のものは、造りは何も変わっていないが、色に関しては、レンガ色ぐらいしか作ってなかったのではないかと思われる。古いものでレンガ色以外を僕は見た事がないのである。

気に入って使っていたのだが、6年ほど前にお店に寄った時、しばらく作られていなかったと思われるこのザックが店頭に復活していて、しかも多色が作られていたのである。

造りが昔のものとまったく同じなのに感動し、たまらなくなって新品が欲しくなった。

そこで、中古で入手したレンガ色のアタックザックを売って、新たに紫色を選択して、晴れて新品購入したのだった。

すでに6年ほど経過しているが、このザックは軽量家出セットの一員として、何度も出撃し、今でももちろん現役である。

荷が少ない時は上部を丸められるので、コンパクトにできる。

荷が増えた時は上部にさらに紐で荷物をイージーにくくり付けることができる。

さらに、この紐が非常に優秀なのである。

使ったことがある人ならわかると思うが、少しの力で簡単にキュッと締まるのだ。これには驚いた。

登山用なのは伊達ではなかった。

紐の先端はなんと、糸を巻いて蝋で固めてある。

こんなディテールも昔と何ひとつ変わっていない。最初に中古で入手してこれを見た時はビックリした。

今時、こんな仕事をわざわざやるメーカーはどのぐらいあるだろう?

もう一度言う。

新品で、こんな素晴らしいものが入手できるしあわせを噛み締めた方がいい。

僕は今日もそんな帆布のバッグを自転車にくくりつけ、時にはこの一澤製のアタックザックを背負いながら、どこかに消える。

自転車、カメラの冷たい金属の手触りと帆布の手触りは不思議と相性が良く、心地よい。

手は口ほどにものを言うのである。

僕は手触りというものを信じている。

 

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(文・写真/平野勝之)

ひらのかつゆき/映画監督、作家

1964年生まれ。16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。18歳から自主映画制作を始める。20歳の時に長編8ミリ映画『狂った触覚』で1985年度ぴあフィルムフェスティバル」初入選以降、3年連続入選。AV監督としても話題作を手掛ける。代表的な映画監督作品として『監督失格』(2011)『青春100キロ』(2016)など。