京都 愛宕裏参道 ウジウジ谷の怪 ー映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【番外編・前編】

2017年11月末、京都の愛宕山、愛宕裏参道であるウジウジ谷から、ウジウジ峠、ダルマ峠、サカサマ峠を目指し、いつものように自転車旅を決行していた僕だったが、突如、キツネに化かされたような事態が発生、撤退するハメになってしまった。

この連載(>> 「暮らしのアナログ物語」)にも登場する多くの道具を今回も使い、20年もツーリングをしているのに、こんな不可解な出来事は初めてだった。

一年間、ずーっと気にしていたが、ピッタリ1年後の2018年11月末、この謎の解明のために、どうにか再び同地を訪れる事ができた。

果たしてこの怪談めいた話は一体何だったのか?

 

■事の顛末。

2017年11月28日(火曜日)

この日は、京都市街の知人の拠点から自転車で岩屋不動の志明院に寄り、京北の山方面をツーリング(ツイードラン)していた。天気も快晴でツイードで走るにはちょうど良い気候だった。

いつものように、レンジファインダーカメラとフィルムで写真も撮影した。

そして、たまたま予約が取れた京北の細野町にある宿、ペンション愛宕道に向かった。

地図を確認すると、この宿はウジウジ峠に通じる愛宕裏参道(ウジウジ谷)の入口にある。

ウジウジ峠の周辺には、サカサマ峠、首無地蔵、などがあり、怖い名前だが好奇心を煽られるような地名だった。

面白そうだと思った僕は、この宿に一泊し、翌日、この林道を抜けてウジウジ峠に立ち寄り、高雄を経由して京都市内に戻ろうと思った。

山岳地図まで用意してあったが、念のため宿のおばーちゃんや娘さんにも確認を取った。

峠までの道は一本しかない。

途中、Y字の分かれ道が一箇所、右に行けばウジウジ峠、左に行けば松尾峠の、ごくシンプルな道、迷いようがない。

「うちは、夏にはバイクや車や自転車の人たちも、よくいらっしゃいますよ~、道はひとつしかないです」との事。

これなら安心、何も問題はない…はずだった。

 

■11月29日(水曜日)

翌日、朝、霧が出ていて良いコンディションではなかった。

しかし、ひどくはなかったので娘さんに見送られ出発した。

霧の中、慎重に林道を進む。

左右の道も注意深く確認しながらゆっくりと走行した。

しばらく林道を進むとY字路に遭遇した。

ボロい看板があり、右に「ウジウジ峠」と道しるべ。

ここだとすぐに確認できた。

迷わず進路を右に取り、進んでいく。

京都特有の背の高い杉が乱立していて、霧の効果もあり、さながら水墨画のようだった。

ところが、しばらく行くと道はどんどん狭くなっていき、倒木はバンバン現れ、ダートのガレ道になっていった。

「……?」

「おかしいな?ここ…ホントにみんな車で行くのかな?」

宿のおばーちゃんによると、ジャリ道だが車で行ける道だという話だった。

通行止めの看板もない。

人は誰もいなかった。

霧も相変わらずである。

道がどんどん険しくなり、ついに道が無くなった。

「……」

道は寸断され小川の跡のようなものがあり、水道の土管?らしきものがある。しかし、その先は山の傾斜しか無い。

「???」

しばらく道を探すがどこにも見当たらない。

しばし考えた後、仕方なくY字まで戻る事にした。どこかで道を間違えたか? 見落としたのか? しかし、他に道は無かった。

戻る時も目を皿のようにして道を探したが、やはり無い。

時間もかかるので戻りたくはなかったがY字路まで戻った。

周囲に道はないか?見渡すが無い。

山岳地図(自分はGPSやスマホは持ってない)も見るが、やはり道はそこしかなく、行き止まりの表示もなく、看板はウジウジ峠を指している。

納得できなかったが、道が無いので行きようがない。

仕方ないので、左の松尾峠の方へ行ってみる事にした。

 

しかし、こちらもさらに短い距離で同じように行き止まりになってしまった。

右の道より激しく荒れ果てている。

倒木の嵐で小川が流れており、車どころではなく、登山者だって相当難儀するような道だった(いや、これは道ではない)。

「ここをどう行けと?」

しばし考え込み、ガラケーで画像も撮り、写真で撮影もしたが、どのみち戻るしか方法がなかった。

やはりY字路に出て道を探すが、さっきと同様、無い。

もうその段階で昼過ぎになっている。時間もなく道が無いので行きようがない。計画を変更して、戻って元の国道に出て帰るしかなさそうだった。

「これの、どこが車で行けるんだよ?」

首を傾げながら、戻る途中も注意深く道を探したが、やはり無かった。

ほどなく宿の脇に出た。

ちょうど先の娘さんが外に出ていた。

「あら、もう行って戻ってきたの?」

「いやいや、行き止まりですよ、道はなかったんですが。」

「??そんなはずはないでしょ、みんな行ってますよ」

「いや、だから道がないんです」

「でも、戻ってきた人はいませんけど…」

「はぁ? あの道を? だって車どころじゃないですよ」

この会話の連続である。

宿に再び入って休憩させてもらい全部事情を話した。しかし、話が通じない。

そんなはずはない、道はひとつしかない、戻ってきた人はいない、行けるはず。この一点張り。

ガラケーの画像も見せて、地図も見せるが、ピンときてないようだ。

「キツネに化かされたんじゃないの?」

ビックリしてゾッとしたのは、自分が行ったすぐあとに、同じ道からジョキングをした人が5、6人通過したという。

「会ったでしょ? 自転車でツイード着てらしてお洒落だから、ジョキングの人も驚いただろうなぁ、と思って」

「ジョキング? 出てから人は一人も会ってないですよ」

「え? そんなはずはないですよ、会ってるはず、道は一つしかないんだから」

「いやいや、だから会ってないですよ」

「……」

「えー……???」(汗)

全てがこの調子である。

だいたいこの霧の平日にジョキング? 山の上から? その人たちは一体どこから来たのか?

よく考えたら、かなり妙な話なのである。

この日は、宿の人に後日電話するから調べておいてくれと頼み、普通に国道を経由して帰った。

 

京都市街の拠点に戻って、パソコンで検索して調べまくった。

ウジウジ峠にオフロードバイクで行っている画像やブログはすぐに見つかり読んでみたが、どうも見覚えのない道がいろいろ出てくる…。

一人だけ、自分と同じ目に合っているオフロードバイクのブログが見つかった。まだ一年ほど前の初夏のものだ。…という事は、あの道は今でもちゃんと実在していることになる。この人はバイクなので大回りして表の方から峠に行っている。従ってこの裏参道の正確な道はわからずじまい。

ただ、一つ鍵になりそうな画像が他のブログから出てきた。

それは三叉路にも見える二股で、どうやらここが問題のY字路のように見えるが、今回の道中ではこの道の記憶はない。

「この二股はどこにあるのか? こんな道は無かったけどなぁ…」

結局、ネット上でも謎は解けないまま、不可解さだけが残った。

数日後、東京から電話してみた。

すると娘さんは、「あの同じ日に、近所のおじさんが、峠まで行ってますよ~」

「……」

京都の人間は、みんな魔法使いか?

やはり話にならなかった

 

確信を持てる情報がない。

全ての情報が一致しない。

キツネに化かされたとしか思えない。

 

そして、さらに後日、現像の上がったポジフィルムに、1カットだけ妙なものが写っていた。

ただの露光ミスかと思ったが、よく見ると自転車が浮き、セルフタイマーで撮ったはずが、自分の姿が消えていて白い何かが写りこんでいた。

その白い「何か」は、大きなキツネが横切っているように見えた。

後編に続く。

 

後編はこちら

>> [連載]暮らしのアナログ物語

 


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(文・写真/平野勝之)

ひらのかつゆき/映画監督、作家

1964年生まれ。16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。18歳から自主映画制作を始める。20歳の時に長編8ミリ映画『狂った触覚』で1985年度ぴあフィルムフェスティバル」初入選以降、3年連続入選。AV監督としても話題作を手掛ける。代表的な映画監督作品として『監督失格』(2011)『青春100キロ』(2016)など。