混戦必至!2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の気になる実力③:岡崎五朗の眼

■走りの質の高さでライバルを凌駕するBMW「3シリーズセダン」

BMW「3シリーズセダン」

新しいBMW「3シリーズ」は、本当に出来のいいクルマだ。先進安全装備が充実し、高速道路での渋滞時に手放し運転を可能にする“ハンズ・オフ・アシスト”機能が導入され、環境問題にもしっかり対応。その上で、ボディを骨格から軽く作ることで重量増を抑え、BMWらしいドライビングプレジャーもしっかり残している。そういう意味で、本当にパーフェクトなモデルチェンジだったと思う。

しかし、昨今のマーケット状況を踏まえると、「だからどうした?」と見る人も多いのではないだろうか。高級車として王道の進化を遂げた新型3シリーズも、ストレートにいえばセダンの最進化型に過ぎない。かつて定番だったセダンやハッチバックは、今やニーズがシュリンク。新しモノ好きの人たちは、テスラを始めとするEV(電気自動車)やSUVなど、ほかとは違うスパイスの効いたクルマへと食指が動いている。そうした状況下、果たして新型3シリーズは、歴代モデルと同様の成功を収めることができるのか? ちょっと気がかりだ。

一方、天邪鬼の視点から見ると、SUVがこれほどまでにヒットしている昨今、逆張りでセダンに乗るのもカッコいいと思う。逆張りで乗るためには、セダンを選ぶ意義、なぜセダンに乗るかの理由が求められるが、セダンには、あらゆる点でバランスがとれている、という最大の武器がある。静粛性が高くて乗り心地に優れるという快適性の高さはもちろん、低い重心を生かし、サスペンションセッティングをスポーティに仕立てられるのもセダンならではの美点だ。

実際、新型3シリーズをドライブすると、ロードノイズがしっかり抑えられていて、雨の日のドライブでも、路面の雨水をタイヤが跳ね上げて生じるスプラッシュノイズが驚くほど小さいなど、抜群の静粛性を実感できる。乗り心地も快適で、路面の凹凸を乗り越えた際、ゴツゴツと不快な振動を伝えてくることもない。

ハンドリングフィールはナチュラルで、いい塩梅のセッティングに仕立てられている。かつて3シリーズは、ハンドルを切った時の車体の反応がクイック過ぎるなど、過剰にスポーティ感を演出していた時期があった。しかし、そこからの反動なのだろう、最新モデルではとても自然な乗り味で、まさにセダンの王道をいく味つけになっている。

中でも、世界に先駆けて日本市場に先行導入された「320i」は、穏やかでまろやかな乗り味の持ち主。程良いエンジンパワーや充実の装備内容、手の届きやすい価格設定など、非常にコストパフォーマンスに優れたグレードだと思う。

320iの4気筒エンジンは、アクセルペダルを深く踏み込んだ際、いきなりトルクがドカンと立ち上がるような性格でこそないが、バランスに優れ、高回転域まで回した際の音も、ザラついた印象がなくて気持ちがいい。このエンジンは今、世界で最も上質なユニットのひとつだと断言できる。

昨今の4気筒エンジン、特に日本車のエンジンは、燃費を意識するあまり効率重視の設計となり、回転フィールが味気ないものが増えている。しかも、軽く仕上げるためにエンジンブロックの軽量化を図った結果、設計上の強度の問題こそないものの、高回転域まで回していくと音が濁ったり、微振動が出たりする。その点、BMWの4気筒エンジンは、そうした回転フィールまでしっかり考慮して作られている印象だ。これなら、6気筒エンジンからのダウンサイザーも、満足できることだろう。

それでいて、6気筒エンジンを搭載する「M340i xDrive」に乗ると、「やっぱりBMWの6気筒はいいな」と実感させられるのが、3シリーズというクルマの面白さ。1台でこれほど多彩な顔を持つ上質なセダンは、ほかではちょっと見当たらない。

メルセデス・ベンツ「Cクラス」にアウディ「A4」、ボルボ「S60」やレクサス「ES」、そしてトヨタ「クラウン」など、新型3シリーズと同価格帯で買えるライバルにも、強力なモデルがそろっている。その中で、エンジンのスムーズな回転フィールや、滑らかな上質感の中にスポーティ感を封じ込めたかのような乗り味など、走りの質の高さにおいては、新型3シリーズはライバルを凌駕していると思う。

ジャガー「I-PACE」

テスラ以外の自動車メーカーでは初めて、EV専用のプラットフォームを採用したモデルがジャガー「I-PACE」。

メカや居住スペースの配置をEV用に最適化した上で、短いフロントノーズや長いホイールベースなど、EVならではの個性をエクステリアデザインに落とし込んだ点が新しい。デザイン面でのEVアピールに乏しいテスラに対し、I-PACEは加速の良さや優れた静粛性だけじゃなく、カタチの面からも従来のエンジン車との違いをアピールする。

ちなみにジャガーのデザインといえば、ロングノーズ/ショートデッキというのが、これまである種のお作法だったが、I-PACEではあえてそれを踏襲しなかった。EVでなければ成立しないI-PACEのフォルムは、ジャガーとして見れば異質だが、逆に新しさを感じさせる大きなポイントとなっている。

そんなI-PACEを初めてドライブしたのは、ポルトガルで行われた国際試乗会だった。現地の道路は舗装の状態が最悪で、路面はでこぼこ。そんな過酷な道を2日間、計500kmほどの距離を走り回ったのだが、I-PACEは乗るほどに、走りの良さを感じられるクルマだった。試乗会のプログラムには、一般路での試乗のほかに、途中、サーキットやオフロードコースもあったが、I-PACEはどんな路面でも、難なく走破してくれた。そうしたコース設定からは「自動車メーカーが作るクルマは、どんな道でもしっかり走れなければいけない」という、テスラに対する強いライバル心とともに、I-PACEの走りに対するジャガーの自信が感じられた。

今回、久しぶりにI-PACEをドライブしたが、その乗り味はまさしく、ジャガーのそれ。I-PACEの乗り味がジャガーらしく感じられる要因は、驚異的なボディ剛性の高さで、2シータースポーツカーの「Fタイプ クーペ」に匹敵する剛性を確保しているという。Fタイプに比べてホイールベースが長いのに、ボディのねじれ剛性が同等というのは、ボディを相当強固に作り込んできたことの証でもある。

そうした強固なボディが走りのベースにあるI-PACEは、日本の荒れた路面を走っても、乗り味に荒さは感じられない。普通のクルマで荒れた路面を走ると、当然、ガタガタという振動が伝わってきて、「路面が荒れているからしょうがないな」と思いがち。しかしI-PACEで同じ道を走ると、「実は路面が荒れていても、乗り心地というのはこんなに良くできるんだ」と驚かされる。

これぞまさに、昔から“猫足”と称されるジャガーならではのフットワークだ。サスペンションが突っ張ったり、硬かったりという印象はなく、しなやかだけどスポーティという独特の乗り味。スポーツには、力と力でぶつかりあう格闘技から優雅なアイススケートまで、多彩な競技があるが、ジャガーにとってのスポーティとは後者である。汗くさくなく、しなやかな動きやカラダのバランスの良さで勝負するかのような感覚が、I-PACEの走りからは伝わってくる。

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