3シリーズは不要?「2シリーズグランクーペ」はBMWらしい走りと高い実用性が魅力

■2シリーズグランクーペはBMWで最小のセダン

クルマはモデルチェンジのたびに、どんどん大きくなっている。これは疑いようのない事実だ。

日本を代表するセダン・トヨタ「カローラ」を例に挙げると、1966年にデビューした初代モデルの全長は、わずか3845mmだった。それが、爆発的に売れていた1990年前後のモデル(6代目)では350mm長い4195mmとなり、2019年デビューした現行の12代目では、そこからさらに300mm伸びて4495mmとなっている。50年ちょっとの間に、650mmも拡大されたことになる。

この状況はカローラに限らず、世界的な傾向にある。新型車はごく一部の例外を除き、従来モデルよりも大きくなるものなのだ。もちろん、ボディサイズの拡大を受け止め、同じ車種を代々乗り継いでいる人も少なくない。だが一方で「大きなクルマには乗り換えたくない」という人も少なからず存在する。

大きなクルマに乗り換えたくない人はどうしているのか? 多くの場合、ひとクラス小さなクルマに乗り換えれば、課題は解決する。例えば、トヨタのSUVの場合、先代モデルから大幅に拡大された現行「RAV4」では大きすぎるというのなら、ひと回り小さな「C-HR」を選べるし、初代RAV4に近いサイズ感でありながら、実用性も十分の「ヤリスクロス」の登場も控えている。

しかし世の中には、長年、そうした代替案が存在しないモデルが存在する。その中の1台が、BMWの3シリーズだ。とはいえ、同社の商品ラインナップ拡充により、そうした流れに変化が見え始めた。

3シリーズはつい先日まで“BMWで最も小さいセダン”だった。それでも、20年前に販売されていたモデルは全長4470mmだったのに対し、現行モデルのそれは4715mmと、わずか20年の間に245mmも拡大されている。当然、全幅も拡大されているから、現行モデルでは自宅の駐車場に収まらないという人も多いことだろう。

ボディの大型化を受け入れられないなら、ひとクラス小さなモデルへ乗り換えればいいだけの話だが、3シリーズの場合、そう簡単な話ではなかった。BMWのラインナップには、3シリーズより小さなセダンが存在しなかったのである(中国など一部地域には「1シリーズセダン」という例外もあったが)。

「ならば、小さなセダンをラインナップに加えればいいのでは?」。BMWの経営陣がそう判断するのは、当然のことだろう。モデルチェンジのたびに、小さなボディサイズを求めて3シリーズから他ブランドの車種へと乗り換えるユーザーは一定数いるわけで、彼らを失ってしまうことはBMWにとっても得策ではない。

そう考えると、今回、2シリーズグランクーペというBMW最小のセダンが誕生したのは当然の成り行きだし、そのポジショニングもセールスポイントも分かりやすい。まさに2シリーズグランクーペは、小さめのセダンを求める人にとってのBMWなのだ。

■大人が座っても不満のない後席の居住性

2シリーズグランクーペのボディサイズは、全長4535〜4540mm(グレードにより異なる)、全幅1800mmで、3シリーズと比べると180mmほど短く、25mm幅が狭い。それでも、20年前の3シリーズより大きくなっている。

そのためスタイリングには、いかにもコンパクトカー然とした質実剛健な雰囲気がない。それどころか、車名に“クーペ”と掲げるくらいだから、プロポーションはエレガントだしフェンダーの張り出し方なども躍動的。「小さいからこそ締まって見える」という表現が当てはまる。

ドライビングポジションは、いかにもBMWらしい、着座位置の低いスポーティな姿勢だ。昨今、SUVを始めとする着座位置の高いクルマが増えた、それに慣れてしまった身には逆に新鮮に感じられる。着座位置が低いというだけで乗り込んだ瞬間からワクワクできるのは、筆者がきっとスポーツカー好きだからだろう。

一方、気になるのはリアシートの居住性だが、結論からいえば心配は不要だ。足下も頭上も、大人が座っても何ら不満のないスペースが確保されている。よくよく考えれば、それも当然のこと。2シリーズグランクーペは20年前の3シリーズよりも大きな車体に、パッケージング効率に優れるFF(前輪駆動)車ベースのプラットフォームを組み合わせているのだから。こうした居住性の高さを見ても、8年前まで販売されていた2世代前の3シリーズより大きいサイズ感は絶妙といっていい。

ちなみに、ラゲッジスペースの容量は430Lと、現行3シリーズに比べると50L小さいが、とはいえトランクリッドを開けると、その広さにちょっと驚かされる。小型セダンとしては十分といえるだろう。

より広さを求めるのであれば、リアシートの背もたれを倒し、奥行きを拡大することも可能だ。

■6気筒かと錯覚する官能的な4気筒ターボ

そんな2シリーズグランクーペだが、3シリーズとはまるで異なる部分がある。それが駆動方式だ。3シリーズのFR(後輪駆動)に対し、FF(とそれをベースとした4WD)を採用している。

FRの美点は、ハンドルを切る時のフィーリングや旋回中の姿勢が心地いいこと。そのためBMWは少し前まで、同社のスローガンである“駆け抜ける歓び”を提供すべく、一貫してFRレイアウトにこだわってきた。しかし昨今、「2シリーズ」のツアラー系や最新の「1シリーズ」、そして、SUVの「X1」や「X2」といったコンパクトモデルなどに、FFレイアウトを積極的に採用。2シリーズグランクーペもFF(試乗車であるM235i xDriveグランクーペはFF車ベースの4WD)で、FRの3シリーズとはシャーシのレイアウトがガラリと異なる。

口の悪い人は、FF系のモデルに対し「そんなのBMWじゃない」というかもしれない。実際、筆者もそんな先入観を持って2シリーズグランクーペに乗り込んだのだが…そうした不安はひとつ目の交差点を曲がっただけで吹き飛んだ。ハンドルを切るとスッと内側に切り込んでいくBMWらしい鋭さは、このクルマがFF車ベースに仕立てられたとは思えないほど。「本当はFR車なのでは?」と錯覚しそうなほど気持ちがいい。

もちろん、試乗車はスポーティな仕立てのM235i xDriveグランクーペということもあり、キビキビ感が強調されていた部分もあるけれど、素性の良さはしっかりと伝わってきた。極論をいえば、タイヤが滑るか滑らないかの限界領域でドライビングを楽しみたいという人や、ドリフトして遊ぼうというドライバーでなければ、きっと不満を覚えないはずだ。

もうひとつ驚いたのは、エンジンの官能性だ。M235i xDriveグランクーペに搭載されるエンジンは4気筒ターボだと頭には入れていたが、試乗中「これって6気筒じゃないよね?」と同乗者に確認したのはここだけの話。アクセル操作に対する滑らかさと繊細さ、アクセルペダルを踏み込んだ時の湧き出るようなパワー、そして、高回転域での盛り上がりなどは、まるで6気筒エンジンのように心地いい。“B48A20E”型と呼ばれる2リッターの4気筒ターボエンジンは、それくらい良くできている。306馬力というスペックも立派だが、それ以上にフィーリングの良さに心を奪われた。

扱いやすいボディサイズの中に優れた居住性や実用性を備え、スポーツドライブも余すところなく楽しめる2シリーズグランクーペ。「もはや3シリーズなんかいらない!」とまではいわないが、FFのBMWも十分アリだと思う。価格もベーシックグレードの「スタンダード」なら369万円と、3シリーズの同グレードより167万円も安いのだから魅力的(ただし、3シリーズ「スタンダード」とは違って、ナビゲーションはオプション扱いとなる)。ひと昔前の3シリーズの現代版と考えればしっくりくる。

実は今、ドイツのプレミアムブランドでは、2シリーズグランクーペのようにかつての定番セダンより少し小さなモデルが登場し、マーケットをにぎわせている。アウディは「A3セダン」をデビューさせ、メルセデス・ベンツは先代から用意していた「CLAクーペ」に現行世代で「Aクラスセダン」を加えるなど、2台体制となっている。それくらいこのマーケットは拡大しているのだ。手頃なサイズのプレミアムセダンを探しているのなら、これらを検討する価値は十分あるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆M235i xDriveグランクーペ
ボディサイズ:L4540×W1800×H1430mm
車重:1590kg
駆動方式:4WD
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:306馬力/5000回転
最大トルク:45.9kgf-m/1750〜4500回転
価格:665万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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