速いぞ!カッコいいぞ!!新型「コルベット」はミッドシップ化で走りとデザインを改革

■宿願だったミッドシップ化を果たした新型コルベット

初代の登場以来、60年を超える伝統を持つコルベット。そんなアメリカを代表する高性能スポーツカーが、2019年7月に第8世代となる“C8”にモデルチェンジした。2020年1月に日本仕様の概要が発表されると同時に予約受付がスタートし、2021年5月からデリバリーが始まって日本の道を走り始めた。

新型コルベットの最大のハイライトは、エンジン搭載位置の変更だ。歴代コルベットは長らく、高出力のV型8気筒OHVエンジンをフロントに搭載し、リアタイヤを駆動していた。前後重量配分を最適化するためにエンジンを前車軸より後方に搭載する、いわゆるフロントミッドシップで、そんな位置にエンジンを搭載したがために長くなったフロントノーズが、コルベットのアイコンにもなっていた。

しかし新型は、エンジンの搭載位置をフロントから乗員の後方へと変更した。すなわち(リア)ミッドシップである。トランスミッションはフロントエンジン時代もリアデフと一体化したトランスアクスル方式を採用していたので(やはり、前後重量配分適正化のため)、単純に、エンジンをキャビンの前から後方へと移したわけである。これにより、ドライバーの着座位置は従来型に対して約40cm前進。前後重量配分は、ある人物が理想としていた40:60になった。

その、ある人物とは、“コルベットの父”とも呼ばれるゾーラ・アーカス-ダントフだ。初代のマイナーチェンジからコルベットの開発に携わることになったダントフは、早くからミッドシップのポテンシャルに気づき、CERV(Chevrolet Engineering Research Vehicle)のコードネームを持つ実験車両を製作して技術研究を繰り返した。ミッドエンジンのCERVは、1959年のIから1993年のIVまで製作されたが、その間ついに、量産コルベットがミッドシップ化されることはなかった。

新型コルベットのカタログには、次の一文が記されている。

「ゾーラ・アーカス-ダントフに捧げる — ミッドエンジンの炎を灯し育てたオリジナル・コルベットのチーフエンジニアへ」

こうした背景を知らないと、「コルベット、急にどうしたの?」と、ロングノーズのアイコンを捨てた判断をいぶかしむ思いが先に立つが、実はコルベットの開発陣にとってミッドシップ化は60年来の宿願だったのである。

ただ、このストーリーの裏には、イメージ一新を図って新たなユーザーを呼び込もうとするシボレーと、同ブランドを展開するGM(ゼネラルモーターズ)の魂胆も透けて見える。ヒットしたクルマの常で、伝統を守ろうとするとその行為が縛りになり、商品が陳腐化していく。モデルチェンジした新型を買うのは旧世代のオーナーばかりになり、代を重ねるごとにユーザー層は高齢化していき、数は先細りになっていく。そんな状況を打破しようとする狙いも、新型コルベットのミッドシップ化には込められているように思う。

シボレーとGMの狙いはともかく、実物がド迫力なのは間違いない。画面や誌面で見るより、実物のインパクトの方がはるかに大きい。コルベットらしいか否かは別にして、「すごいクルマに違いない」ことはパッと見て伝わってくる。夏休みの観光客でにぎわうパーキングエリアでの視線の集まりようといったらなかったし、スマホで撮った写真を家族に見せた時の反応も感嘆詞の連続だった。

■右ハンドル仕様でも最適なドラポジをとれる

そんな新型コルベットだが、日本のユーザーにとってはエンジンの搭載位置変更以外にもハイライトがある。これまでのような左ハンドルではなく、右ハンドルとなったのだ。ただ、右ハンドル化で気になるのは、ペダル配置である。ホイールハウスとの干渉を避けるべく、ペダル全体が左側にオフセットするケースが輸入車では時折見られるが、新型コルベットの場合は自然に右足を伸ばした位置にオルガン式のアクセルペダルが存在する。左足を休ませておくスペースもきちんと確保されており(フットレストがある)、最適なドライビングポジションをとれる。

コクピットは先代の“C7”コルベットと同様、助手席側にスロープ状の壁が立っており、完全にドライバーを優先した環境が整えられている。C7と異なるのは、スロープの部分にエアコンの操作スイッチが一列に並んでいること。操作性はともかく、デザインの奇抜性は高い。

フロントウインドウ越しに見る路面が近く感じられるのは、ミッドシップ化の恩恵だ。急斜面のゲレンデを見下ろすような感覚である。それでいて身がすくむような不安を感じないのは、ボンネットフード左右の端が峰のように盛り上がり、適度な囲まれ感を演出しているからだろう。

新型のメーターパネルはフルデジタル化されている。センターコンソールの一等地にある走行モード切り替えダイヤルの操作と連動し、グラフィックが切り替わる。エンジンのスタート/ストップスイッチはクラスターの左下に配置。シフトセレクターはボタン式だ。

そのほか、コックピット中央の8インチタッチスクリーンにナビゲーションシステムが標準装備されたのも、日本のユーザーにとっては朗報に違いない。マップのグラフィックが1980年代のテレビゲーム風でレトロな感じがするのは、デジタル化が進んだコックピットとミスマッチな気もするが、便利なのは事実である。

【次ページ】古典的ながら低重心化に有利なOHVエンジン

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