2021-2022日本カーオブザイヤー候補車のホントの実力【3:インポートカー編】☆岡崎五朗の眼

■アメ車が1台、ドイツ勢3台が最終選考に

BMW「4シリーズ クーペ/カブリオレ/グラン クーペ/M4クーペ」

「4シリーズの顔、どう思いますか?」という質問をあちこちで受ける。そりゃそうだ。縦方向に巨大化したキドニーグリルは異様であり、言葉を選ばず表現すれば、ある種の押しつけがましさすら感じる。僕自身、最初に写真を見た時は違和感どころか「ああ、やっちゃったな」と拒絶感すら感じたほどである。

しかしBMWジャパンの担当者は「それこそが狙いなんです」という。すべての人が初見から「カッコいいね!」と思うようなデザインはすぐに飽きられてしまう。炎上商法ではないけれど、とにかく話題を呼ぶようなデザインを提供して存在感を示す。その上で、時間を掛けて拒否感を消していければ大成功、というわけだ。

そこでポイントになるのが、このエグさに目が慣れるかどうかという点。当初は慣れることなんてないだろうと思っていた。が、試乗&ロケ開始から数時間で当初の拒否感は徐々に薄まっていき、丸1日経つ頃には「悪くないかも」と思い始めていた。それから数カ月経ち、街で4シリーズを見かけるたびに「カッコいいな」と感じている自分がいる。これはお世辞でもフォローでもない。そういう意味で、僕はBMWの術中にまんまとはまったというわけだ。

4シリーズにはエレガントなクーペ、ゴージャスなカブリオレ、実用性にも配慮した4ドアのグラン クーペ、走りに特化したM4クーペと多くのバリエーションがあるが、走り味の磨き込みレベルはいずれも高い。中でも、M4クーペは別格として「やっぱりBMWはいいな」と思わせてくれるのが3リッターの直6ターボ搭載モデル。しかし、約1000万円オーバーというプライスタグを考えると、おいそれとは買えないしオススメもできないなと感じてしまうのも事実だ。

<Goro’s EYES>
〇 6気筒モデルの得もいわれぬドライブフィール
× 廉価版の6気筒モデルが欲しい

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シボレー「コルベット」

アメリカを代表するスポーツカー、コルベットが8世代目にしてついにミッドシップになった。レース部門からの「FR(フロントエンジン/リアドライブ)レイアウトではレースで勝てないからミッドシップにしてくれ」という強い要望に応えた結果だという。

フロントに巨大なV8エンジンを積むFRでは駆動輪であるリアタイヤに十分な荷重が乗らず、コーナーからの脱出で十分なトラクションを得られない。コンマ1秒を競うモータースポーツの世界ではトラクション性能が勝敗を分けるのだ。ミッドシップというと、最も重いエンジンを車体中央に積むため回頭性に優れる、という解説を目にする。もちろんそういったメリットもあるが、現場からの要求はむしろトラクション性能の向上だったという。

もちろん、フロントにエンジンを搭載したままでも4WDにすればトラクション性能は劇的に向上する。しかし4WD化は重量増につながる。モータースポーツでの劇的な戦闘力向上と、アフォーダブルな高性能スポーツカーというコルベットのキャラクターを同時に満たすのが、新型のミッドシップ化だったというわけだ。

FRからミッドシップへの転換は、当然ながらデザイン面でも大きな変化を生み出した。コルベットの伝統だったロングノーズ/ショートデッキのプロポーションは失われ、キャビンがグンと前進した“スーパーカールック”になった。「こんなのコルベットじゃない!」といいたい人もいるかもしれないが、本国アメリカでは大好評。日本でも用意した初年度分300台をあっという間に売り切ったという。変更のための変更ではなく、機能に裏打ちされた必然の変更であることが、スポーツカーファン、コルベットファンの気持ちをつかんだ結果だろう。

また、切れ味鋭いハンドリングに加え、伝統の6.2リッターV型8気筒OHVエンジンが生み出す圧倒的なエンターテインメント性には抗しがたい魅力がある。これだけの魅力を備えながら価格を1180万円〜と抑えているのもコルベットのよき伝統である。

<Goro’s EYES>
〇 機能に裏打ちされた必然のミッドシップ化
× やや無機質なインテリアデザイン

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メルセデス・ベンツ「Cクラス」

メルセデス・ベンツは世界で最も知られた高級車ブランドだ。その一方、保守的とか、オジサンが乗るクルマといったイメージもあり、だからこそスポーティなBMWや若々しいアウディに流れる人も多かった。そんななか登場した新型Cクラスは、ひと足先に登場したフラッグシップモデル「Sクラス」の“相似形縮小版”ともいうべきデザインを身にまとってきた。空気抵抗係数はなんと0.24! Sクラスの0.22には及ばないが、このサイズでこれほどの空力性能を達成してきたのは驚異的といっていい。

乗り込むと、ドライバー正面には12.3インチの液晶メーター、センター部には11.9インチの大型タッチディスプレイが並ぶ。ほとんどの操作はタッチディスプレイとステアリングスイッチで行う仕組みで、ボタン類は極点に減らされている。最初から直感的に扱えるとはいえないものの、いったん慣れてしまえばとても便利に使いこなせる。

特筆したいのは、タッチディスプレイの反応の速さや解像度の高さ、そして、ひとつひとつのアイコンまできれいにデザインされている点だ。このあたりの仕上がりは、まだまだ2DINサイズの汎用ナビの延長線上から抜け出せていない日本車のインフォテインメントシステムとは雲泥の差がある。そして、こうした部分の先進性は、30〜40歳代といった比較的若い世代に刺さるだろうなと思った。保守的で年齢層の高い人々から好まれるブランドという立ち位置から、メルセデスは確実に脱却しつつあるということだ。

パワートレーンは、全モデルに48ボルトのマイルドハイブリッドを搭載する。印象的だったのはしなやかに動く足回りで、先代の弱点だった乗り心地は劇的に改善された。ガソリンエンジン版はブレーキのタッチにクセを感じたものの、ディーゼル版はブレーキのコントロール性も上々。いわれなければディーゼルだと気づかないほどの静粛性にも驚かされた。特に長距離走行が多い人にはディーゼルがオススメだ。

<Goro’s EYES>
〇 進化した乗り味、先進のインフォテインメント
× ガソリン車のブレーキタッチ

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フォルクスワーゲン「ゴルフ/ゴルフ ヴァリアント」

先代ゴルフは、輸入車として初めて日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した記念すべきモデルだ。当時の日本車はリーマンショックの影響でコスト削減に次ぐコスト削減を繰り返し、見た目品質もドライブフィールも世界水準に達していないモデルが多かった。そんな中、“Cセグメント”といういわば大衆車クラスでありながら、高級車のような質感と乗り心地、静粛性を実現したゴルフがイヤーカーになったのは当然の結果だった。

あれから8年。フルモデルチェンジで8世代目となった新型ゴルフは、先代の持ち味を維持しつつ、特にインフォテインメント系を大きく進化させてきた。10.25インチのデジタルメーターに加え、センターには10インチのタッチ式センターディスプレイを設置。各種操作をディスプレイ経由に集約するとともに、オートエアコンやオーディオのボリューム調整もスイッチのタップ&スライドで操作するといった具合だ。確かに先進性は高まった。しかし、先代までの物理スイッチと比べてボリューム調整や温度調整がしやすくなったかといえば、そこは疑問が残る。また、せっかくフル液晶化したのに、アイコンなどのグラフィックが無機質というか事務的なのも惜しい。

走りでは、パワートレーンの48ボルトマイルドハイブリッド化が大きなニュースとなる。モーターアシストによるスムーズな発進や小気味良い加速、最大10%程度の燃費低減など、確かに進化はしているが、一方で先代の魅力だった乗り心地のしなやかさは後退。静粛性も同レベル並みにとどまった。絶対的には悪くはないものの、先代オーナーであれば、内張りが省かれたグローブボックスや内装の細かい部分にコストダウンの爪痕を発見するだろう。

デジタル化やマイルドハイブリッド化による進歩はあるものの、トータルとして先代に対し大幅に魅力を引き上げて来たかと問われると、残念ながら答えはノーだ。その間、日本車が長いトンネルを抜けグングン実力を向上させてきたのはご存じの通り。例えば、今年度の10ベストカーには選ばれなかったが、ホンダの新型「シビック」(僕は10ベストカーに推薦)ですら、走行性能でも内外装の質感でもゴルフに勝るとも劣らない実力を身に着けてきた。そんなわけで、実は僕は新型ゴルフを10ベストカーには推薦しなかった。しかしそれは、誰よりも先代ゴルフを高く評価していたからこその辛口評価かもしれない。意見は人によって様々だろう。他の選考委員が新型ゴルフをどう評価したのか、結果を見るのが楽しみだ。

<Goro’s EYES>
〇 マイルドハイブリッドと1リッター3気筒エンジンの仕上がり
× ゴルフ史上で最も進化幅の少ないモデルチェンジ

>>日本カー・オブ・ザ・イヤー公式サイト

文/岡崎五朗 

岡崎五朗|多くの雑誌やWebサイトで活躍中のモータージャーナリスト。YouTubeチャンネル「未来ネット」で元内閣官房参与の加藤康子氏、自動車経済評論家の池田直渡氏と鼎談した内容を書籍化した『EV推進の罠』(ワニブックス)が発売中。EV推進の問題だけでなく脱炭素、SDGs、ESG投資、雇用、政治などイマドキの話題を掘り下げた注目作だ。

 

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