走り味は想像以上!VW「ゴルフGTI」はリアルスポーツカーのように速くて刺激的

■ゴルフGTIはファミリーカーのカタチをしたスポーツカー

ゴルフGTIというクルマをひと言で説明するなら“ファミリーカーのカタチをしたスポーツカー”という表現がふさわしいだろう。

歴代のGTIは、実用性の高いハッチバックボディを持ちながら、まるで高性能スポーツカーのように速くてエキサイティング。その成り立ちはホットハッチのお手本そのものだった。比較的コンパクトなボディにひとクラス上のハイパワーエンジンを搭載して動力性能を高めつつ、サスペンションを硬めてコーナリング性能もレベルアップ。スポーツカーのような速さとドライビングの楽しさを併せ持つキャラクターに仕上げてきた。

そんなゴルフGTIの初代モデルが公開されたのは、1975年9月のフランクフルトモーターショーだった。初代ゴルフをベースに、エンジニアたちが遊び心から手がけたそのモデルは、当初、発売予定のない試作車に過ぎなかったものの、モーターショーでの反応が良好だったことから翌1976年に5000台の計画で市販化。しかしフタを開けてみたら想像以上の大人気モデルとなり、初代だけで46万1690台が世に送り出された。

初代GTIが搭載していたエンジンの最高出力は、わずか110馬力。現代の基準に照らし合わせれば“普通以下”だが、ノーマルの初代ゴルフがデビュー時に積んでいたエンジンは50馬力/70馬力だったといえば、初代GTIがいかにパワフルなクルマだったかをイメージできるだろう。しかも車両重量は、わずか800kgほどと軽量。コンパクトカーながらポルシェと並んでアウトバーンの追い越し車線を走れるGTIは、人々に大きなインパクトを与えた。

■古き良きイメージをモダナイズしたルックス

そんな初代のデビューから45年の時を経て、最新のゴルフGTIが日本に上陸した。エンジンの最高出力は245馬力と初代の倍以上となり、標準仕様でも先代GTIの上位モデルである「GTIパフォーマンス」と同レベルの力強さを手に入れている。

エクステリアは、片側5つのLEDをバンパーの両サイドへ“X状”に配したフロントフォグランプが印象的。またフロントバンパーだけでなく、ヘッドライト、フロントグリル、サイドシルもGTI専用品となっている。

インテリアは、ハンドルやシートの形状こそノーマルゴルフのスポーティ仕様「Rライン」に似ているが、ハンドルには赤いアクセントとGTIバッジを、シートには独自のシート表皮を組み合わせた専用品をおごる。

全面液晶のメーターパネルも、大径のタコメーターを中央に配置したGTI専用デザインのものへと切り替えられるなど、ノーマルゴルフと差別化している。

そんな内外装のコーディネートから感じられるのが、歴代GTIへのリスペクトだ。例えば、エクステリアではフロントマスクの赤いストライプやバンパーのハニカムグリル、インテリアではタータンチェック柄のシート生地といった具合に、GTIの伝統を受け継ぐノスタルジックな仕立てとなっている。

昨今、日本だけでなく欧州でも、スポーツモデルを好むユーザーの年齢層は上がっているが、そんな人たちの心をつかむために内外装に“懐かしさ”を盛り込むというのが、趣味性の高いスポーツモデルづくりのセオリーとなっている。アメリカ車でいえばフォード「マスタング」が代表例だし、日本車でいえば過去のデザインを巧みに取り入れた日産の次期型「フェアレディZ」もそうした考えの下に開発されている。古き良きイメージをモダナイズするというトレンドに対し、新しいゴルフGTIは王道のアプローチをとってきたといえるだろう。

■想定の範囲を超える刺激に満ちた走り味

新しいゴルフGTIは、先代に比べて走りの次元が大幅に引き上げられているのが一番のトピックだ。

走り味はスポーツカーそのもの。エンジンは低回転域からトルクが厚くて扱いやすく、ドライバーのアクセル操作に対して俊敏に反応し、回転上昇のレスポンスにも優れている。その上、高回転域での盛り上がりも感じられるなど、スポーツエンジンらしい美点をしっかり味わえる特性に仕立てられている。

一方のハンドリングは、当然のごとく限界性能が高く、ハンドルをガンガン切り込んでいくとシャープかつクイックに向きを変える“攻め”の味つけ。それでいてコーナリング中の安定感は素晴らしいものがある。また、サスペンションは硬めの設定で、サーキットなどスピードレンジがかなり高いステージにスイートスポットが振られていることがよく分かる。

そのためワインディングロードを走るくらいでは、新型GTIが秘めた能力をフルに引き出すことは難しい。ゴルフGTIは実用性も高いスポーツカーだと思っていたが、これほど刺激に満ちた走り味というのは、正直、想定の範囲を超えていた。中でも、VWが「ハイスピード域からの強い制動力と、ABS作動付近のコントロール性を重視した」というブレーキは、スポーツカーらしく剛性感たっぷりで、惚れ惚れするフィーリングだった。

■どんな人でもGTIを選びやすい“魔法のツール”

今回試乗したゴルフGTIには“DCCパッケージ”というメーカーオプションが組み込まれていた。これは、19インチのタイヤ&ホイールと、アダプティブシャシーコントロール“DCC”と呼ばれる、走行状況よって連続的に走行機能の制御を切り替えるシステムを組み込んだものだが、結論からいうと装着は“マスト”と考えたいオプションだ。

その核となるのは、電子制御式の減衰力可変ダンパー。通常は一定となるダンパーの硬さが連続的に切り替わる仕掛けで、ドライバーのスイッチ操作によって快適性重視の「コンフォート」から、ダイレクト感を重視した「スポーツ」まで、走行モードに合わせて減衰力を変更できる。

加えて、マニュアル設定を選べば、足回りの硬さをなんと15段階から自由に選択可能。例えば最も硬くした場合には、サーキット向けのマシンかと思わせるかなりハードな味つけとなり、ダイレクトな走行フィールを味わえる。それらをあれこれ調整しながら好みの足回りを見つけ出していく行為も、結構楽しいものだ。

サスペンションには硬めのバネが組み合わされているため、例え「コンフォート」モードでも、乗り心地は“高級サルーンのように極上”とはいかない。しかし、同乗する人たちからクレームが出ないレベルの快適性は得られる。“DCCパッケージ”は「ひとりでドライブする時は硬い足が好みだが、普段は同乗者からの視線が恐い…」という人でも心置きなくGTIを選べる“魔法のツール”といえそうだ。

■より強力な頂点モデルの存在が悩ましい

試乗して、運転する楽しさに打ちのめされた新型ゴルフGTIだが、悩ましいのはこれが、新型ゴルフ最高のスポーツモデルではない、ということ。2022年には“さらに強力”な「ゴルフR」の上陸が予定されているのだ。

GTIとRの大きな違いはエンジンと駆動方式で、エンジンは245馬力のGTIに対して、Rは320馬力。駆動方式はGTIのFWDに対して、Rは4WDとなる。またRには、走行制御システムにも「ニュル」モードや「ドリフト」モードなど、さらに刺激的なメニューが用意されていて、エンジンのフィーリングや音などすべての面でレーシーな仕立てとなるのが特徴だ。

その分Rは「高性能過ぎる」とか「高価過ぎる」と感じる人も多いはず。Rに比べるとマイルドでアフォーダブルなGTIは、多くに人にとって“ちょうどいいスポーツハッチ”といえそうだ。

<SPECIFICATIONS>
☆GTI
ボディサイズ:L4295×W1790×H1465mm
車重:1430kg
駆動方式:FWD
エンジン:1984cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:245馬力/5000〜6500回転
最大トルク:37.7kgf-m/1600〜4300回転
価格:466万円

>>VW「ゴルフGTI」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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