【マツダ ロードスター試乗】“第3の個性”=Sグレードこそ実はベストバイ!?

 

_1060039

なぜマツダの開発陣は、MT車とAT車の作り分けだけでなく、同じ6速MT車の中に、Sという“別のキャラクター”を生み出したのでしょうか?

例えば、ミュージシャンが曲をアレンジする際、従来のスタイルにこだわるのか、それとも、今の気持ちを大切にしたいのか。そのどちらも捨てられないことってあるでしょう。結果、リミックス版と称して、同じ曲ながら別バージョンが存在することもあります。

双方のアレンジを楽しめるというのは、ファンとしては喜ぶべきことです。しかし、手軽に楽しめる楽曲とは異なり、クルマは普通、どちらかを選ばなければなりません。ここがちょっと悩ましいところですね。

率直なところ、軽快さに関しては、Sスペシャルパッケージの6速MT仕様でも十分なレベルです。ステアリング、アクセル、ブレーキを使い、4輪のタイヤへの荷重を自在に振り分けられる。その受け渡しのスムーズさといったら鳥肌ものです。

四隅に穴の空いた板を持っていると想像してください。その上にボールを置き、板を傾けることで穴にボールを落とします。

Sスペシャルパッケージの6速MT仕様は、板の傾きとボールの動きが常に一致するようなクルマ。スムーズにボールを動かして、自分が思ったところの穴へ自在に落とせます。

すべてのクルマがそうではありません。急にボールの動きが早くなったり、なかなか動かなくて大きく板を傾けたらボールが板から飛び出したり…。ちょっとオーバーですが、そのようなクルマも結構あるのです。

PCS_7759

対して、もうひとつのキャラクターの持ち主であるSの6速MT仕様は、Sスペシャルパッケージの6速MT仕様に備わるトンネルブレースバーとリアスタビライザー、そして、トルクセンシング式スーパーLSDが付いていません。また、電動パワステやダンパーのセッティングも異なります。

というわけでこのS、同じロードスターでも上級グレードとは乗り心地が違います。

アスファルトの段差を斜めに横切るシーンでは、乗り越えた際に縦の揺れが入ると、ボディが「ブルンッ」と反応します。ブレースバーの有無で思った以上に差があるんですね。

しかし、Sスペシャルパッケージの6速MT仕様と同じルートを走らせると、そんなことなど些細に思えてきました。存在の耐えられない軽さどころか、存在の堪らない軽さとでもいいましょうか。初代NA型ロードスターのヒラヒラ感が鮮明に甦ってきます。

ただ正直にいえば、私の中でのNA型への思い出は、時を経て確実に美化されていることに目を背けるわけにはいきません。その点を差し引くと、新型ロードスターのS・6速MT仕様のステアリングを握る楽しさは、NA型に迫りつつ、そのダイナミクスといいましょうか、パフォーマンスの面では、確実にNA型を凌駕しています。

先ほどの“四隅に穴の空いた板”に例えるなら、Sの6速MT仕様は、穴の空いた板が軽くなったフィーリング。Sスペシャルパッケージ・6速MT仕様の板は、重いのではなくボールの動きがネバる感じです。

個人的に選ぶのなら、私はSの6速MT仕様を選びます。

_1060043

ただし、誰かにオススメするのであれば少し事情は異なります。むしろ、Sスペシャルパッケージ・6速MT仕様を強くプッシュしたいケースも。要点は次の3つです。

その1:ロードスターから離れてドイツ車に乗っていた場合

Sスペシャルパッケージ・6速MT仕様には初代NA型を思わせる“ヒラヒラ感”がないかといわれると、絶対にそんなことありません。十分に軽快です。そこへシットリ感、落ち着いた反応を感じるのがSスペシャルパッケージ・6速MT仕様なのです。いったんドイツ製セダンなどに乗り、再びロードスターに回帰するような方は、むしろこちらのフィーリングの方がシックリくることでしょう。

その2:走行会で他車とのタイム差が気になる場合

走行会などでサーキットを走れば、どちらのグレードも文句なしに楽しいです。それはお約束します。そして、Sスペシャルパッケージ・6速MT仕様と、Sの6速MT仕様は見た目が同じです。同じロードスターに乗っているのに、1周1分程度で回れるサーキットだと、ラップタイムが1〜2秒違ってくる恐れがあります。それがガマンできそうにない方は、Sスペシャルパッケージ・6速MT仕様を!

その3:豪華な装備にこだわる場合

装備が違います。S・6速MT仕様のエアコンはマニュアル式です。意外とフルオートエアコンにこだわる方は少なくありません。ブレースバーやリアスタビ、そして、LSDは後からでも付けられますが、エアコンの換装は現実味ありませんので、念のため。さらにSは、ビルトイン式カーナビの用意がなく、エアコンのルーバー回りのベゼルも上級グレードみたいなクロームではなく、ピアノブラックのような仕上げ。ハデ好みの方は、オプションパーツでのドレスアップをお忘れなく。それと、カップホルダーも1個しか付いてきません。あしからず。

さて、すっかり長くなってしまいましたが、この試乗記がこれから始まる貴方のロードスターライフの出発点の一助になれば幸いです。

やりすぎロードスターに乾杯! ドライビングプレジャー万歳!!

<SPECIFICATIONS>
☆Sスペシャルパッケージ 6MT
ボディサイズ:L3915×W1735×H1235mm
車重:1010kg
駆動方式:FR
エンジン:1496cc 水冷直列4気筒DOHC 16バルブ
最高出力:131馬力/7000回転
最大トルク:15.3kg-m/4800回転
トランスミッション:6速MT
価格:270万円

<SPECIFICATIONS>
☆S 6MT
ボディサイズ:L3915×W1735×H1235mm
車重:990kg
駆動方式:FR
エンジン:1496cc 水冷直列4気筒DOHC 16バルブ
最高出力:131馬力/7000回転
最大トルク:15.3kg-m/4800回転
トランスミッション:6速MT
価格:249万4800円

(文・写真/ブンタ)

トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする