イマドキEVのあるべき姿!「ホンダe」は見た目、走り、機能のすべてが斬新

■積極的に選んでもらえるよう個性を追求

「例えば『フィット』からエンジンを外し、バッテリーとモーターを積んでEVに仕立てたとします。そんなクルマが、果たしてマーケットで存在感をアピールできるでしょうか」。開発責任者のこの言葉こそが、ホンダ初の量産EVとして誕生したホンダeのキャラクターを理解する上でのヒントとなる。

ここでいうマーケットとは日本のことではなく、厳しい燃費規制によってEVを積極的に販売する必要に迫られている欧州市場を指す。欧州では、メーカーごとの平均燃費(=二酸化炭素排出量)を抑えなければ罰金を科せられる規制が2021年からスタートする。平均して、走行1km当たりの二酸化炭素発生量を95gに抑えなければならないそれは、ガソリン車でいえば平均燃費20km/Lに相当するもので、かなり厳しい。昨今、各メーカーが、ヨーロッパ向けに“走行中に二酸化炭素が発生しない”EVを相次いで発売している裏には、そんな事情が隠されているのだ。

そのためホンダも、このクルマをヨーロッパでたくさん売らなければならない。しかし、欧州市場ではまだまだ影の薄いホンダとしては、“普通のEV”を作っても目立つことができない。そこで「積極的に選んでもらえる存在」となるために、個性際立つEVが必要だったというわけだ。

■新しさと温かみをミックスした内外装デザイン

ではホンダeは、どんな個性の持ち主なのだろう? まず注目すべきは、丸いヘッドライトがキュートなルックスだ。レトロ風でありながらモダンで、まるでモーターショーに展示されるコンセプトカーがそのまま街へと出て来たかのように斬新。EVうんぬんという前に、このスタイルだけでホンダeが欲しいと感じたのは、筆者だけなないだろう。

他のどんなクルマとも似ていない、独特の存在感を具現するため、ホンダが徹底したのは市販車のレベルを大きく超えたシンプル化だ。車体に入る仕切り線などのラインを最小限に抑えるとともに、前後のライト類は左右それぞれひとつのユニットに機能を集約。また、フロントは格納式とし、リアはガラス脇に配置することで目立たなくしたドアハンドルや、カメラでの代用によるドアミラーレス仕様の導入など、常識を超えたディテールが散見される。

ちなみに、イマドキの4ドア車としては珍しく、ホンダeのドアはサッシュレス仕様となるが、その理由は「ウインドウガラスとピラーの段差を極限まで減らし、スッキリと見せるため」というから恐れいる。ナンバーの付いたクルマで公道をドライブした今でさえ「これは本当に市販車なのか?」と疑いそうになるほど、市販車離れした近未来感がホンダeの個性といえる。

さらにホンダeは、車内に乗り込んでからも乗員を楽しませてくれる。市販車の常識を超えるデザインは、インテリアにも及んでいるのだ。何より斬新なのは、ダッシュボードのデザイン。右端から左端まで、計5枚の液晶ディスプレイが並ぶダッシュボードは、これまでの市販車では見たことがない。

左右端2枚のディスプレイは、ドアミラーの代わりとなるデジタルミラー用。運転席の前には、メーター類の表示用に8.8インチのディスプレイが置かれ、中央と助手席の前には、ナビゲーションを始めとするインフォテイメント用12.3インチのタッチパネルディスプレイが2枚並ぶ。ホンダeの個性ともいうべきコンセプトカー感覚を移動中も味わえるのだ。

そうした新しさとは対照的に、ディスプレイの手前には木目調のパネルをレイアウト。木目のローボード上に大画面テレビを置いたかのような、モダンリビングで感じられる温かみをプラスすることで、乗員が落ちつける空間に仕立てている。

モダンリビングといえば、シートは形状、色使い、表皮の質感などにおいて、ソファ感覚の仕立て。また天井にダウンライトを組み込むなど、クルマらしさに縛られない発想が新しい。

これらが採用された背景には、充電中に“もうひとつの部屋”としてくつろげる空間にしたいという意味も込められているのだろう。

■Androidスマホをキー代わりとして使える

デザインと並ぶホンダeのもうひとつのポイントが先進性。それは、乗り込む時から実感できる美点だ。

まずホンダeは、Androidスマホをキーの代わりとして使うことができる。ピラー部にスマホを近づけることでドアロックが解除。乗り込んだらダッシュボード中央付近にスマホかざすと車両が起動し、そのまま走り出すことができるのだ。スマホをキーの代わりとして使える機能は、日本では2019年秋に認可されたばかりであり、日本で作られた日本市場向けのクルマとしては、ホンダeが初の採用となる。

2枚の大型タッチパネルディスプレイによるインフォテイメントシステムも新しい。中でも面白いのは、左右の画面にそれぞれ独立した機能を扱え、さらに、左右の画面表示を入れ替えられるようにしていること。例えば走行中、助手席の人が左画面を使ってナビゲーションで目的地を設定し、それを右画面へ送ってルート案内してもらうといった使い方を可能にしている。

さらに、会話によるやり取りで幅広い操作に対応するパーソナルアシスタント機能も組み込まれていて、その音声認識の正確さと反応速度には驚くばかりだ。

ディスプレイの壁紙は、四季の風景があらかじめインストールされているほか、ユーザーが任意にカスタマイズすることも可能。さらには、バッテリー充電中に動画コンテンツを始めとする各種エンタメを楽しめる環境も整えている(コンテンツは、HDMI端子を経由してスマホ内のものを楽しめるほか、車内Wi-Fiによるタウンロードも可能)。スマホと同様、アプリの活用次第でさらなる発展性が期待できるほか、用意されるアプリも今後、さらに増えていくというから楽しみだ。

ちなみに開発エンジニアによると、現時点では「システムの性能を使い切っていないので、まだまだ発展の余地が大きい」というから、さらなるバージョンアップにも期待したい。

■軽自動車を凌駕する小回り性能を実現

そんなホンダeには、走りにおいてもいくつかのサプライズが用意されていた。

まずびっくりしたのは、前方の視界の良さだ。ドアミラーがなく、代用のカメラもドライバーの視界に入らない位置にレイアウトされているため、斜め前方がスッキリとよく見える。ドラミラーレスにすることでこれほど見やすくなるのは予想外で、交差点を曲がる時などは、歩行者を確認しやすくてありがたい。

またUターンしようとしたら、あまりにも小回りが効くことに驚いた。最小回転半径はわずか4.3mで、これは同社の軽自動車「Nボックス」の4.5mよりも小さい。そのため、日々の車庫入れなどもラクに行えることだろう。

走りの楽しさという点でも、ホンダeには個性が詰まっている。駆動力を発揮するモーターの最大トルクは32.1kgf-mと強力で、これはガソリン車の3リッター自然吸気エンジンを凌駕するほど。そのため、力強い加速を味わえるのはもちろん、モーター駆動車ならではのスムーズかつ鋭い加速を披露してくれるため、運転していて無意味にアクセルペダルを踏み込みたくなるほど心地いい。

また駆動方式は“旋回中の挙動が気持ちいい”とされる後輪駆動で、アクセルペダルを踏みながら曲がる際の、ググッと曲がり込んでいく感覚は、クルマ好きをもうならせる実力を備えている。

ちなみに、上級グレード「アドバンス」に採用されるタイヤは、世界中のスポーツカーが好んで指定するというミシュラン社の「パイロットスポーツ4」で、コスト的には「1本でフィット用のタイヤ4本分」というこだわりのセレクト。こうした点からも、ホンダeの開発陣がどれだけ走りにこだわったのかがうかがえる。

■街乗りグルマのベストを求めたホンダe

このように、多彩な個性が詰まったホンダeの本質は、新しく上質で、とびきり個性的な街乗りクルマ、といったところだろう。走行用バッテリーの容量が小さいため、航続距離はカタログ上の最大値で283㎞(WLTCモード)と短いが、バッテリーが小さい分、コンパクトな車体や驚異的な小回り性能を実現できたと考えれば、そうした割り切りも十分納得できる。

短い航続距離では不安というなら、より大容量のバッテリーを搭載したEVを選ぶしかない。しかしその分、車体が大きくなり、狭い路地をスイスイ駆け抜けることが難しくなり、狭い駐車場などに停めにくいといった課題が生じる。“大は小を兼ねる”といかないのがクルマなのだ。

つまりホンダeは“小”を求める人に向けたクルマであり、そうした前提の中で理想を追求した商品であることを理解できないと、美点や魅力が分かりにくく、航続距離が短いなどデメリットばかりが気になることだろう。街乗り用のベストを求める一方で、長距離性能は求めていないのだ。

見た目が特別なEVで、先進装備も充実。そんなホンダeは、まるで街を走るコンセプトカーだ。ちょっとだけ先を行く未来のクルマ。価格の高さもあって誰でも気軽に買える存在ではないが、セカンドカー需要を前提に街乗りに特化した上質なコンパクトカーと考えれば、理に叶った魅力的な1台といえる。

理想をいえば、こういうクルマこそ渋滞時だけでも対応する自動運転を組み込むことで、より先進感が高まり、さらにキャラが際立つと思う。まさに、公道に降り立ったコンセプトカーと誰もが認める存在になるのではないだろうか。

<SPECIFICATIONS>
☆アドバンス
ボディサイズ:L3895×W1750×H1510mm
車重:1540kg
駆動方式:RR
最高出力:154馬力/3497〜1万回転
最大トルク:32.1kgf-m/0〜2000回転
価格:495万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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