映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【2】女性とランドナー

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ランドナーと言う自転車をご存知でしょうか? 80年代、MTBが出現するまでは普通にサイクリング用として存在していた自転車です。

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元はフランスで生まれ「パリの宝石」と呼ばれたルネ・エルスが制作した自転車に付けられた車種の名称でした。特徴はタイアが少し太く、専用鞄を付けるためのキャリアが付き、長めのマッドガードが付いています。平たく言えば、スポーツ性を損なわず、楽にサイクリングできる便利な機能が最初から装備された自転車です。車で言えば、ちょっとスポーティーで日常に使える普通車みたいな存在です。

 

■走るファッションショー

今や自転車の世界は、スポーツ(ロードレーサー)か生活(ママチャリ)かの2極化になりつつあります。ゆとりの無い社会の構図がこんなところにも現れています。

「日常」に「遊び」にオールマイティーに使えるランドナーは骨董品ではありません。しかし見た目はクラシカルなため、上手く乗りこなせば、とても美しく見える自転車でもあります。

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そもそも自転車は肉体の延長であり、外で使用するものです。つまり走るファッションショーになりえます。そんな世界観が2極化により消えつつあるのが僕は心配なのです。

 

■女性用ランドナー

ある日、僕の相棒が日常用に自転車が欲しいと言い出しました。紆余曲折の果て、オーダーメイドで制作する事になりました。それがここに紹介する山音製輪所製のミキストランドナーです。

ミキストとは女性用のランドナーを意味し、トップチューブが跨ぎやすいように斜めになったスタイルです。これも元祖はフランスです。

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コンセプトと部品収集は僕が、設計と制作は山音製輪所の尾坂允氏が、色は相棒が決めました。古い部品と新しい部品を混ぜ、通常は籠付き。サイクリングの際はハンドル周りをチェンジできるようにしてあります。

 

■オーダーメイドの自転車

自転車をオーダーで作る事は一般的ではありません。当然、高額になります。しかし、20年、30年の使用を前提にした場合はどうでしょう? 先に述べたように自転車が体の延長であると捉え、長期の使用を考えた場合、体に合わせ、趣味にも合わせて制作できるオーダーメイドに行き着いてしまうのです。

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特にランドナーは使用の許容範囲が広いため、レーサーのように特殊な目的が無い限りは最適な1台とも言えるでしょう。

 

■鳥のように

自転車とはなんだろう?と、時々思います。相棒が鳥のように自在に自転車で走っている姿を見ると、手前味噌だけど、やはり素直に「いいなぁ」と思ってしまうのです。特に女性は、最初からそういうDNAが組み込まれてるのでは? と思うほどクラシカルなランドナーに似合います。

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自転車に乗った人間の移動距離は、羽の付いた昆虫と比例するそうです。お気に入りの羽を手に入れて自由に飛び回る事ができるのが自転車の世界なのかもしれません。

 

■自由の羽

この、最も原始的でアナログな乗り物は、必ずしもスピードを出すだけの道具、または買い物など労働するためだけの道具ではありません。その羽のような自由さと素晴らしさに、もう少し多くの人が気付いてくれたなら、世の中はもうちょっと素敵になるのかもしれません。

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だから、さりげなく、僕も相棒も、今日も自分の羽に似合う服装で美味いものでも食べに街角に出るのです。ランドナーに乗る事は「自由のファッションショー」でもあるのです。

 


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(文・写真/平野勝之)

ひらのかつゆき/映画監督、作家

1964年生まれ。16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。18歳から自主映画制作を始める。20歳の時に長編8ミリ映画『狂った触覚』で1985年度ぴあフィルムフェスティバル」初入選以降、3年連続入選。AV監督としても話題作を手掛ける。代表的な映画監督作品として『監督失格』(2011)『青春100キロ』(2016)など。