吉田由美の眼☆電波問題を解決する、カルソニックカンセイの“暗室”に行ってみた

■“幸せのカギ”を左右する“見えるカギ”と“見えないカギ”

カルソニックカンセイといえば、国内で最も人気のあるモータースポーツ、スーパーGTを戦う「IMPUL GT-R」のメインスポンサーとしても知られています。

また、10年ぶりに出展した2017年の東京モーターショーでは、最先端のAR技術で未来のクルマを体験できる“Human-Max VISION”や、近未来のクルマのコクピットで新しいドライブ体験を味わえる“Human-Max REAL”を展示し、注目を集めていました。

さて、今回訪れたカルソニックカンセイの電波暗室は、縦18m、横41m、高さ11mという、日本国内でも5本の指に入る巨大さ。実際にクルマが丸ごと入ります。

暗室内の周囲の壁は、白いキルティング状の布で覆われています。外部からの電波は完全に遮断され、暗室内では携帯電話やラジオは一切つながりません。

暗室の中では、クルマに対して強い電磁波を与えて、暴走しないかどうかを確認したり、車内の電子ユニットにノイズが生じないかなどをテストしたりしています。ちなみにテストを行う際は、暗室内を飛び交う高圧電波によって人体内の水分が沸騰してしまうため、隣の部屋から遠隔操作します。そのため、テストカーのアクセルやブレーキ、シフトレバーを操作するためのロボットが、専用開発されていました。

今、注目度が高まっているEV(電気自動車)を使ったテストでは、ノイズがラジオなどに影響を与えないかなどのチェックを、実車両を持ち込んで評価しています。実はEVは、モーターやインバーターに大きな電流が流れているので、大きなノイズが出やすいという弱点があるのだとか。もしノイズを拾ってしまうと、電磁波の負荷を高まるのでノイズが大きくなり、ラジオの音がクリアに聞こえないといった問題が生じてしまうのです。そのため今後、EVの普及に伴い、こうした実験を行える施設が重宝されることが予想されます。

また、カルソニックカンセイの電波暗室では、タイヤのTPMS(空気圧センサー)の検査も行っています。タイヤがパンクした際、タイヤからの情報がきちんと送信・受信され、その情報がインジケーターに表示されるかどうかを確認しているのですが、ここでの検査では、暗室内にある“シャシーダイナモ”を使い、クルマを擬似的に走らせてデータを取得しています。

このほか暗室内では、キーレスエントリーシステムの検査も行われています。東京スカイツリーや東京タワーといった電波塔や、携帯電話の基地局の近くでは電波干渉が生じやすく、システムが正常に働かないこともあるのだとか。また過去には、EVの駆動用バッテリーを充電中、充電器からのノイズでキーレスエントリーの反応が極端に悪くなった事例もあるのだそうです。そのため暗室内では、電波の届く距離や角度のチェックはもちろん、クルマのピラーが悪影響を与えないかなども確認しています。

ちなみに、暗室内は全面が金属で覆われています。その上にパネルを貼り、カーボンでできたピラミッド状の電波吸収体を活用して電磁波を吸収、反射させています。この電波吸収体は、テストを行う電磁波の周波数次第で、サイズを変えて実験を行うのだとか。

また、暗室内にはクルマに向けて電磁波を照射するためのアンテナがあります。アンテナの設置角度は5度刻みで細かく調整でき、360度からのテストが可能。これは、坂道や山道といった、あらゆる走行シーンを想定した実験を行うためだといいます。

ところで、なぜこれだけ大きな電波暗室が必要なのでしょうか? それは、各種機器(今回の場合はクルマ)から一定距離離れた場所の電界強度をテストする際には“30m法”という規定があり、機器から30mの距離を確保できないと実地に即した確認を行えないため。また、電波による悪影響を確認するためにも、ある程度の広さが必要になるといいます。

とはいえ、自動車メーカーや自動車部品メーカーで、カルソニックカンセイほどの暗室を備えているところは、ほとんどないのだとか(ちなみに、同様の試験を屋外で行うのは違法です)。しかも、シャシーダイナモまで設置しているところは皆無で、それらすべてをそろえている点が、カルソニックカンセイの強みだといいます。

“オートモーティブサイバーセキュリティ”という新ジャンルを構築し、さまざまなサービス、部品を提供していきたいと考えているWHITE MOTIONも、こちらでの実験を本格化させていくのだとか。従来のクルマにあった“見えるカギ”はカルソニックカンセイが開発・製造し、カーセキュリティという“見えないカギ”はWHITE MOTIONが手掛ける…。今後、このふたつのカギが、カーライフにおける“幸せのカギ”になりそうです。

(文/吉田由美 写真/田中一矢、村田尚之)


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