【ジープ ラングラー試乗】11年ぶり刷新で“ヨンクの代名詞”が守ったもの、変えたもの

■見た瞬間にそれと分かるジープらしいルックス

新型の解説に移る前に、まずはラングラーについて軽くおさらいしておこう。

アメリカの伝統的なオフロードカー・ブランドであるジープは、SUVの人気モデル「チェロキー」や「コンパス」など、今では複数のモデルをラインナップしているが、その原点は、ウィリス「MA」やフォード「GPW」と呼ばれる、第二次世界大戦中に開発/量産されたアメリカ軍の軍用車両だ。戦争終結後の1945年には、民間向けのモデル「CJ」が登場。1987年のモデルチェンジで、初めてラングラーとネーミングされたYJ型がデビューする。以降、数回のモデルチェンジを経て現在に至るわけだが、ジープブランドにとってラングラーは、軍用車両時代に始まるブランドのDNAを最も色濃く受け継いでいる“ジープの中のジープ”なのである。

今回上陸した新型ラングラーの特徴は、そんなジープの伝統を守っていること。縦長のスリットが入ったフロントグリルや、その両脇に配された丸いヘッドライト、幅の狭いボンネットに組み合わされる台形のフェンダー、そして、直立したフロントピラーに、平面ガラスのフロントウインドウ、真四角のキャビンなど、基本スタイルは軍用車両時代から不変だ。そのすべてが新型にも受け継がれているから、見た瞬間「ラングラーだ!」と理解できるのはいうまでもない。

もちろん、新型になっても、ルーフやドアパネルを取り外すことが可能で、(公道での走行はできないが)フロントウインドウを前方へ倒せる構造も継承されている。それらすべてが、ラングラーのアイデンティティだからだ。

とはいえ新型には、よく見ていくとちょっとした変化と進化が盛り込まれている。分かりやすいのはヘッドライトで、グリルにめり込んだデザインとなり(実はこれは先祖返り)、上級グレードではついに、光源がLED化された。またテールランプには、リアの側方の死角を検知する“ブラインドスポットモニター/リアクロスパスディテクション”のセンサーを内蔵。「あのジープがセンサーを搭載?」という驚きとともに、独自のスタイルを壊さない、優れたアイデアだと感心させられた。

またフロントウインドウは、従来モデルよりも傾斜が強まっているが、その理由は、高速走行時における空気抵抗を軽減し、燃費を向上させるため。燃費向上はオーナーからの要望を反映した、フルモデルチェンジにおける大きなテーマだったという。

■4気筒ターボとフルタイム4WDによる技術の“革新”

とはいえ、新型ラングラーにおける“革新”と呼べる進化は、実はメカニズムである。

最大の驚きは、なんと2リッターの4気筒ターボエンジンが搭載されたこと。3.6リッターのV6自然吸気エンジンも継承されているが、ラングラーにダウンサイジングターボエンジンが搭載されたという事実は、ひと昔前では考えられなかったものだ。クルマを取り巻く環境が、大きく変わってきていることを改めて実感した。

また駆動メカにも、デビュー以来の大変革が起きた。ラングラーの伝統といえば、完全機械式のコンベンショナルな4WDシステムだったが、新型ではついに、電子制御式のフルタイム4WDシステムが組み込まれたのだ。「スポーツ」と「サハラ」という2グレードには、2.72対1の低速ギヤを持つ“セレクトラックフルタイム4×4システム”を、そして、悪路走破力を高めたグレード「ルビコン」には、4対1の低速ギヤを持つ“ロックトラック4×4フルタイムシステム”が搭載される。

いずれも、路面などのコンディションに応じて自動でトルクを前輪へと配分するフルタイム4WDモードを用意するほか、ドライバーの任意で「2WD」と「4WD」、「4WD低速ギヤ」などを切り替え可能だ。

この駆動システムの変更は、ラングラーの歴史において“大事件”といえるもの。しかし、任意に選べる選択の自由を与えることで悪路走行に対応すると同時に、フルタイム式になったとはいえ、従来モデルから乗り継ぐラングラーオーナーでも違和感なく受け入れられるよう配慮したのだろう。

インテリアは、変わらない部分と変わった部分とが混在する。変わらないのは運転環境で、背筋をピンと伸ばして座るドライビングポジションや、周囲を見渡せる上に、ボンネットの先端まで見えて車幅感覚をつかみやすい視界など、ラングラーならではの美点が受け継がれている。

一方で、インパネは仕上げの質感が大幅に高まった上に、現代的な装備も充実。サハラには8.4インチ、他のグレードには7インチのタッチパネル式ディスプレイを組み込む。

また、ロングホイールベースの4ドアモデル「アンリミテッド」では、リアシートの居住スペースが拡大。おまけに、ラゲッジスペースの内張りはより上質になった。乗り心地を含めた快適性や、車内の質感が大幅に高くなったことは、多くの人に歓迎されるだろう。

■「すべては道なき道のために」という“伝統”を継承

新型ラングラーは、ジープならではの悪路走破力にもさらに磨きをかけてきた。アプローチアングルは44度、デパーチャーアングルは37度、最大渡河水深は762mmと、世界に名だたるオフロードカーの中でも、傑出すべきスペックを実現している。

今回、オフロードコースも試乗したが、そのレベルの高さはいわずもがな。路面は前日に降った雨の影響でぬかるんでいたが、まるで大地をつかむかのようにしっかりとグリップし、着実に前へと進んでいった。

実はそんな悪路試乗時に、ちょっとした驚きがあった。走り方のレクチャーなど全くなく、簡単なコース説明を受けただけで僕たちは極悪路へと送り込まれたのである。運営スタッフの方にその意図を尋ねたところ「走り方をレクチャーし、わだちを避けて走ってしまうと、誰でも簡単に走破できてしまいますからね」との答えが。オフロードを走る心得がないドライバーでも、新型ラングラーは難コースをたやすく走破できてしまったのだ。

極悪路であっても、アクセルペダルを踏むだけで前へと進んでいく。身をもって体感した悪路でのそんな能力が、まさにラングラーの真骨頂なのだろう。時代は変わっても「すべては道なき道のために」というジープの伝統は、新型にもしっかりと受け継がれている。

■新型ラングラーは舗装路でも自然にドライブできる

シーンを舗装路に移す。新型ラングラーは先代に比べて乗り心地が良くなり、ハンドリングも自然なフィーリングになった。また、先代のアンリミテッドでは7.1mもあり、Uターンや車庫入れなどでとても苦労した最小回転半径は、新型ではホイールベースが伸びたにもかかわらず、約1mも小さい6.2mに。これにより、取り回しの苦労がずいぶん減っている。

注目の2リッター4気筒ターボエンジンは、スペックだけを比較すると、V6エンジンに対してパワーもトルクも勝っている。実際に走らせてみると、発進加速はラングラーとは思えないほど力強く、その上、高回転まで軽快に吹け上がる。V6エンジンではなく、コチラを選ばない理由がないと思えるほどの出来栄えで、当日話を聞いたアメリカ本国の開発者も「おすすめは4気筒。私自身も4気筒のラングラーを買いました」と教えてくれた。

一方、4気筒ターボはフィーリングが洗練され過ぎていて「やはりラングラーには、荒々しいけれど味があるV6エンジンが似合っているかも」という思いもある。性能だけで考えれば、確かに4気筒ターボだけで十分だ。しかし、あえて新型にV6エンジンを残したのは、そんな人間のわがままな部分を、開発チームがしっかりと認識しているからに違いない。

伝統と革新。メカニズムが大きく変わった一方で、ジープならではの世界観は変わらず、しっかりと守られた。ちなみに日本は、アメリカ本国以外で最もラングラーが売れているマーケット。しかも日本では、年を追うごとに販売台数が増え続けているのだという。ラングラーという“本物”は、日本人の心にも響くのだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆アンリミテッド スポーツ
ボディサイズ:L4870×W1895×H1845mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:272馬力/5250回転
最大トルク:40.8kgf-m/3000回転
価格:494万円

<SPECIFICATIONS>
☆アンリミテッド ルビコン(参考値)
ボディサイズ:L4785×W1875×H1868mm
車重:2021kg
駆動方式:4WD
エンジン:3604cc V型6気筒 DOHC
トランスミッション:8速AT
最高出力:284馬力/6400回転
最大トルク:35.4kgf-m/4100回転
価格:未定(2019年春上陸予定)

(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)


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