【雪上試乗】豪快なGT-RとZ、安心の電動車。雪上での対照的な走りが日産車の面白さ

■スタートの瞬間から驚かされるリーフの雪上性能

もちろん、日産自動車の雪上試乗会は、「走って楽しい!」だけでは終わらない。むしろ、スカイライン、フェアレディZ、GT-Rの3台は、単なる盛り上げ役に過ぎない。実はこのイベントには、EV(電気自動車)やハイブリッドカーといった電動車と、雪道や氷上とのマッチングの良さを確認してもらいたい、という真の狙いがあるのである。

EVやハイブリッドカーのようにモーターで駆動するクルマは、実は意外にも、滑りやすい路面とのマッチングがいい。

例えば、世界で最も売れているEVである日産自動車の「リーフ」を雪上で走らせると、まずスタートの瞬間から驚かされる。モーターの駆動トルクが掛かる前輪のホイールスピンが少なく、スムーズにスタートできるのだ。一般的なエンジン車とは明らかに挙動が異なり、圧倒的に乗りやすい。その秘密は、モーターの制御特性にある。

運転している時は、当たり前過ぎて気づかないが、エンジン車にはアクセルペダルを踏んでからタイヤへと駆動力が伝わるまでに、明確な“時差”が存在する。アクセルを踏む→エンジンに信号を送る→エンジン回転が上がる→タイヤに力が伝わる…という一連のプロセスのうち、“エンジン回転が上がる”際、わずかだが人間の操作に対して影響を与えてしまうだけのタイムロスが生じてしまう。それにより生じたタイヤのスリップをドライバーが検知し、アクセルペダルを戻したとしても、この“時差”のせいで過剰な操作や挙動が生じてしまうのだ。

またエンジン車では、ドライバーがアクセルを踏み込んだ量に対し、エンジンからタイヤへと伝わる駆動トルクが正比例しないため、ドライバーの感覚と、実際にタイヤへと伝わるトルクとの間に“差異”が生じてしまう。これら“時差”と“差異”を補正するため、ドライバーは運転中、知らず知らずのうちに微調整を繰り返しているのだが、滑りやすい路面ではクルマの限界が低いこともあり、トルクの掛け過ぎによるスリップ=ホイールスピンなどが生じやすくなるのだ。

一方のモーター駆動車の場合、過剰な操作や挙動を招くエンジン回転の上下というプロセスがないため、操作に対する“時差”が生じにくい。その上、アクセルの操作量に対してアウトプットされる駆動トルクが正確に制御されているから、“差異”もガソリン車と比べて極端に小さいのだ。この、およそ1万分の1秒という精緻でリニアなトルクコントロールのおかげで、ドライバーがクルマの挙動を補正する操作が大幅に減るため、モーター駆動車はスムーズな発進や加速を実現し、滑りやすい路面においても運転しやすいと感じるのである。

■EVやe-power車が雪道に強い秘密はE-ペダルにあり

100%EVのリーフや、「ノート」「セレナ」といった“e-power(イー・パワー)”を搭載する日産自動車のモーター駆動車には、“e-ペダル”と呼ばれる、アクセルを戻すだけでモーターによる回生ブレーキによって減速できる機能が備わる(このうちリーフはブレーキ制御まで行う)。この機能をオンにしたリーフで雪上を走ってみると、コーナーを旋回中に「もっと曲がりたい」と感じてアクセルペダルを戻すだけで、クルマがスッと曲がり込んでいく。

ドリフト時など特殊な状況を除くと、クルマというのは基本的に、アクセルを踏み込むとコーナーを曲がりにくくなり、アクセルを戻すと曲がりやすくなる。ただし市販車では走行安定性を重視し、そうした挙動ができるだけ生じないようセッティングされているのが一般的だ。しかし、リーフでe-ペダル使用時にコーナーでアクセルをオフにすると、旋回しようというクルマの動きが、一段と強くなる印象なのだ。

これは、e-ペダルによる減速でフロントタイヤの接地荷重が増え、ハンドルを切った方向へとクルマを曲がる働きが強まるから。とはいえ、その時の挙動は決して唐突ではなく、「曲がりにくいな」と感じた時にアクセルを離すだけで、気持ちよくクルマが曲がっていくような感覚。もちろん、スピンするような過剰な動きではないし、しっかりと安定性が確保された上での動きなのはいうまでもない。

また、e-ペダル使用時にアクセルを離すと、タイヤのスリップを検知しながら減速していくので、滑りやすい路面で人間がラフに操作するのとは異なり、挙動が乱れにくいというメリットもある。滑りやすい雪道でのリーフの運転のしやすさは、4WDに匹敵…とまではさすがにいかないが、一般的なエンジン駆動のFF車よりは、はるかにコントローラブルであることを確認できた。

■新設定の4WD仕様でe-power車の雪上性能がアップ

さて、これまでe-power搭載モデルといえば、FFのみのラインナップだったが、2018年の7月、ノートe-powerに4WDモデルが加わった。前輪のスリップに応じてリアモーターを作動させ、リアタイヤへと駆動力を伝達する「ノートe-power 4WD」がそれだ。

そんな雪国注目モデルで、雪上試乗において特に手ごわい坂道発進を試してみた。ノートe-power 4WDには、リアモーターの機能を完全に停止させたFFモードと、4WD状態とを切り替えるスイッチがついているので、FFと4WD、それぞれの実力を比較した。

まずはスイッチオフのFF状態から。ノートe-powerはガソリンエンジンを搭載するが、それは完全に発電用であり、前後輪とも100%モーターで駆動する。そのため発進は、リーフと同じくスムーズ。軽い上り坂であれば、最小限のホイールスピンだけで何事もなく前へと進んでくれる。そこで、あえて“スタビリティコントロール機能”をオフにし、目いっぱいアクセルペダルを踏み込んでみた。すると、発進こそできるものの、豪快なホイールスピンが発生。なかなかスムーズに進んでくれない印象だった。

そこでスイッチをオンにし、4WD状態に。FFの時と同様の運転操作を行うと、ホイールスピンこそするものの、その発生量は明らかに少なく、見た目にもスムーズ。モーター駆動による4WDでも、トラクション力をしっかり高めてくれるのだ。

ちなみに同システムは、車速が約30km/hに達するとリアモーターの作動がカットされてしまうため、雪道では「ないよりもマシ」といった声もある。しかし、雪が降り積もった特設コースで30km/h以上で走ってみたところ、先述したようなモーター駆動車ならではの素直なドライバビリティと相まって、不安は全く感じなかった。

そもそも、滑りやすい冬の路面で最も困難なのは、坂道やミラーバーンの路面で発進できないこと。そうした状況を解消できるだけでも、4WD化のメリットは確実にありそうだ。

スカイラインやフェアレディZ、GT-Rの豪快な走り。一方、リーフやノートe-powerといったモーター駆動車のスムーズな走り。前者はクルマ好きを楽しませてくれるものであり、後者は多くのユーザーに安心感をもたらしてくれるものだ。雪道において、そうした対照的な“ふたつの顔”を見せてくれるのが、日産自動車のラインナップなのである。

<SPECIFICATIONS>
☆GT-R プレミアムエディション
ボディサイズ:L4710×W1895×H1370mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:3799cc V型6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:570馬力/6800回転
最大トルク:65.0kgf-m/3300〜5800回転
価格:1170万5040円

<SPECIFICATIONS>
☆フェアレディZ NISMO(MT)
ボディサイズ:L4330×W1870×H1315mm
車重:1540kg
駆動方式:FR
エンジン:3696cc V型6気筒 DOHC
トランスミッション:6速MT
最高出力:355馬力/7400回転
最大トルク:38.1kgf-m/5200回転
価格:629万3160円

<SPECIFICATIONS>
☆リーフ G
ボディサイズ:L4480×W1790×H1540mm
車重:1520kg
駆動方式:FF
最高出力:150馬力/3283〜9795回転
最大トルク:32.6kgf-m/0〜3283回転
価格:399万9240円

<SPECIFICATIONS>
☆ノート e-POWER X FOUR ブラックアロー
ボディサイズ:L4100×W1695×H1525mm
車重:1300kg
駆動方式:4WD(電動式)
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:79馬力/5400回転
エンジン最大トルク:10.5kg-m/3600〜5200回転
フロントモーター最高出力:109馬力/3008〜1万回転
フロントモーター最大トルク:25.9kgf-m/0〜3008回転
リアモーター最高出力:4.8馬力/4000回転
リアモーター最大トルク:1.5kgf-m/1200回転
価格:233万640円

(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部、日産自動車)


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