【酒と泪と男とカルチャー】
この世には実にたくさんの本で溢れています。小説やエッセイ、実用書、ビジネス書などなどジャンルや内容を挙げていくとキリがないほどです。デジタル社会と言われて久しいですが、それでもなぜ文字情報だけの本にこんなにも夢中になるのでしょうか? それはやはり我々の想像力や思考力を掻き立てたり、それにより感情・心を揺さぶられたりするからだと思います。お酒は本性や感情を表に出す働きもしますし、適度に酔いがある状態で好きな本を読むと心地良さや感動もひとしおなはず。何より、夜にしっぽりとひとりでお酒を嗜みながら本を読んでいる姿って、何だか絵になると思いませんか? 今回は人気作家の西尾 潤さんと『ダ・ヴィンチ』編集長に「お酒と本」について伺いました。
■お酒は心を解き、自分を許すために大事な存在
▲西尾 潤/小説家、ヘアメイク、スタイリスト。ヘアメイク・スタイリストとして活動しつつ、2018年に『愚か者の身分』(小社刊)でデビュー。同作は第2回大藪春彦新人賞を受賞し、映画化やコミカライズ化も果たす。2021年には『マルチの子』(小社刊)では第4回細谷正充賞を受賞。そのほか、『無年金者ちとせの告白』(光文社刊)、『フラワー・チャイルド』(KADOKAWA刊)、『審美』(小学館刊)が発売中。今、最も注目される小説家のひとり。
映画化・コミカライズ化した『愚か者の身分』をはじめ、さまざまな作品を世に送り出し注目される小説家兼ヘアメイク・スタイリストの西尾 潤さん。社交性が問われる職業と自分の内側に深く潜る作業も必要とする職業、そのどちらにもアクセスする彼女にお酒と本について語ってもらいました。
――今回は「お酒と本」についてお話を伺います。早速ですが、そもそもお酒はお好きなのでしょうか?
西尾 潤さん(以下、西尾):好きですよ。家に常にストックをしていますし。とは言え、強いわけではなくて本当に嗜む程度なんですけどね。
――ストックしているお酒はいろいろな種類を?
西尾:家に置いてあるのは白ワインが多いですね。ちょっと軽めの飲み口の、チリワイン。ゲヴュルツトラミネールってブドウの品種があって、結構安価で購入できるんです。ワイン自体にすごく詳しいわけではないですし、目に留まったモノを購入するくらいですけどね。

――1日に1本飲む、みたいな感じですか?
西尾:いえいえ、そんな。1、2杯を嗜む程度で。ちょっと調子に乗って飲んだとしても3杯くらい。酔うために、というよりはちょっと心を解きたいな、みたいな感じで楽しんでいます。例えば、仕事が終わって寝る前にほんのちょっととか、少し心を解いてリラックスして。執筆は夜に行うことが多いので、普段は夜中3時を過ぎないと飲まないようにしているんです。もちろん、人と会うときなどは全然気にせず楽しみますよ。でも、結構外で飲むのって久しぶりかも。今年に入って2、3回目くらい?
――それでは今回の取材でお酒を飲んでいただくのは希少なんですね。ありがとうございます!
西尾:こちらこそ、ありがとうございます(笑)。普段は執筆するのに集中して、筆が乗ると集中して朝までバーっと書いてそのまま倒れるように寝る、みたいなことも多いですし。むしろこういう機会を作ってもらえて嬉しいし、楽しいですよ。本当は毎日飲みたいくらいなんです。心をバーっと解いて、コテッと寝たいというか。

――ありがとうございます(笑)。それにしても、朝まで執筆されるということですが日中にヘアメイクやスタイリストの仕事が入ることもありますよね? すごく大変そうと言いますか…。
西尾:もちろんフリーランスなので断ることもできるのでしょうけど、そうすると縁が切れてしまうじゃないですか。それは寂しいというか、執筆もヘアメイクもスタイリストも全部それぞれ好きなんですよね。それぞれで得るものがありますし、新しい人とも出会います。それがすごく自分の中では大きくて。いろいろな引き出しができますし、それは創作に生かされると思います。
――なるほど。先程白ワインがお好きだと仰っていましたが、今回本に合わせるお酒はラムなんですね?
西尾:そうですね、特にラムソーダ。それこそ、このバーで初めて飲んだのかな。すごく美味しいと思って。スッキリしているのに味わいもちゃんと感じられるし、家の冷蔵庫にも冷やしてあって、飲むときはやっぱり炭酸で割って飲んでいます。

――ラムソーダに合わせて読みたい本はありますか?
西尾:今日は2冊持ってきていて。本当はもっとたくさんあるんですけど。まず1冊目は燃え殻さんのエッセイ『それでも日々はつづくから』(新潮社刊)。そもそも、エッセイもそうですし、詩とか散文とかも好きなんです。燃え殻さんがすごく好きでラジオも毎週聴いていて、エッセイもほとんど読んでいます。エッセイってどこで読み終わっても良いじゃないですか。小説とかだとそうはいかないというか。私の場合は仕事モードになっちゃってメモを取りながら集中して読み出しちゃいますし。そうなると、せっかくリラックスしたくてお酒を飲もうとしているのにできなくなりますよね。
――確かに、エッセイだと気負わず読めると言いますか、自由に読めますよね。
西尾:燃え殻さんの作品がなぜ好きかというと自分とは違う着眼点だったり考え方だったり、自分の中の違う扉を開けてくれる感じがして。逆に自分が恥ずかしいと思っていることを肯定してくれたり。力の抜き方と真剣さのバランスがすごく心地良い。本当にお酒を嗜みながら読んでいると、ますます心が解れる感じがしますよ。

――ちなみにお酒を飲む空間、まさに今みたいな時間も作品に繋がることもあるのでしょうか?
西尾:もちろん、繋がりますよ。作家全員そうかもしれませんね。実を言うと、今まではあまり人に興味が持てなかったんです。でも、自分で物語を書くようになって「自分の人生だけじゃ足りない」「自分の考えだけじゃつまらない」と思うようになりましたし、いろいろなことを広く知りたいと思うから、人の話も面白く感じるようになるし。すごく嫌なことがあっても、そのうち作品に生きると思えば「まあ、いいか」みたいにも思えるし。今まで人に興味がなかったのに今は知りたくて仕方がない、そう思うと人間って不思議だし、面白いですよね。結局自分次第というか。
――そうですね、自分次第で全然変わるってよくよく考えるとすごく曖昧で面白いですよね。あと1冊は何でしょうか?
西尾:僭越ながら、自著の『審美』(小学館刊)です。ちょっとクセのある作品なので、バーボンとかが合うんじゃないかなと(笑)。バーボンをロックでちびちびと飲みながら、ゆっくりと読んでほしいですね。美容家の一代記なんですけど、戦中から戦後辺りから物語は始まるし、ジェットコースター的な内容で。今ではちょっと考えられないような辛いシーンも結構あったり…。現代社会は何て言うんですかね、無味無臭な、無害な味を求めがちだと思うんです。でも、私の作品はそうじゃなくて万人には受け入れてもらえないかもしれませんが、好きだとか共感してくれる人はいるというか。バーボンも好きな人は好きじゃないですか。力強さもありますし。それこそ『愚か者の身分』(小社刊)もクセが強いウイスキーと一緒に楽しんでほしいですね。

――仰るように、クセがないと深くはハマらないことが多いですよね。最後に、お酒と本を合わせる魅力を教えていただけますか?
西尾:例えば、フランス映画とかでフレンチビストロで食事をしながら片手で本を読んでいる姿やバーで読書している姿とかってシンプルにかっこいいじゃないですか。誰かに見てもらうために読むわけではないですけど、やっぱり“かっこいい”って素敵ですよね。あとは、冒頭でも言いましたがお酒は心を解いてくれるひとつのトリガー。しんどいことがあっても、お酒を飲むと自分をちょっと許してあげようかなって思えたりする。心に寄り添ってくれるアイテムだと思うんです。それって本とリンクしますよね。本も自分の心に寄り添ってくれたり、逆に全然違う考えに導いてくれたり。だから、毎日晩酌して良いと私は思います。自分を許してあげながら、好きな本を読んで心を解く。どちらか一方でも構いませんが、ふたつあると相乗効果が生まれるので。それが「お酒と本」を合わせる、1番の魅力ですかね。
>> 西尾 潤
▼今回ご協力いただいた店舗

「Bar Fractale」
住:東京都品川区上大崎2-14-3三笠ビル地下1階
営:19:00~26:00
休:日・祝


















