【クロス アップ!試乗】フォルクスワーゲンの新機軸、ガラ軽の牙城を切り崩すのか?

世界を見渡せば、新旧のMINIやフィアット「500」が人気とはいえ、マイクロカーは本来、日本のお家芸。スペース効率や走りのバランスといった、個々のモデルの良さもありますが、本格4WD、オープン2シーター、ミニバン、さらにはピックアップ(軽トラ)まで存在する軽自動車の多様性は、隔絶されていたガラパゴスで生物の種の細分化が爆発したようなもの。ヨーロッパのお嬢さんがビックリしていたのも、うなづけます。

自動車メーカーなら簡単に開発できそうなマイクロカーですが、実はコレ、ノウハウの塊なんですね。2000年に、メルセデス・ベンツが時計ブランドのスウォッチと組んでリリースしたスマートに乗った際、軽く衝撃を受けました。あのメルセデスでさえ、いやむしろ、メルセデスだから(?)、マイクロカーを作るとなるとこれほどまでに苦戦させられるのか…、と。その後、スマートも年月をかけてすこぶる改善してきましたが、実はなにげなく接している日本の軽自動車の文化が、いかにすごいのかを痛感させられたのです。

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ここに紹介するフォルクスワーゲンの「cross up!(クロス アップ!)」は、そんなガラ軽に真っ向から勝負を挑む意図はないにしても、スズキ「ハスラー」がけん引するマイクロカーのSUVマーケットに、真っ正面から切り込んでいくことになりそうな1台。ちなみにクロス アップ!は、軽自動車よりも長くて幅も広いリッターカーです。

エンジンは、999ccで自然吸気タイプの直列3気筒。ブレーキ回生システムやアイドリングストップシステムを備えることで、燃費はリッター当たり25.2km(JC08モード)と、経済性では軽自動車にも負けていません。この点こそ「up!(アップ!)」シリーズの肝心要です。

それにしてもクロス アップ!、カワイイじゃないですか!!

ベースモデルとなったアップ!と、クロスオーバースタイルは相性が良いですね。4ドアのアップ!に対して、専用のフロント&リアバンパーを採用したことで、全長は25mm伸びています。タイヤ&ホイールは、185/55R15から185/50R16へインチアップされており、樹脂パーツのホイールハウスエクステンションで覆うことで、SUVのようなたくましいルックスに仕上がっています。

兄貴分の「クロスポロ」などと同様、シルバーのドアミラーカバー&ルーフレールなど、機能部品へのデコレーションで都会っぽさを漂わせています。野暮ったく見えないところは、クロスオーバートレンドのお約束ですね。

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アップ!より少しだけ(25mm)車高が上がったシートに腰を下ろします。赤いボディ色のモデルは、目の前のダッシュボードがボディカラーと同じイメージに。華やぐ雰囲気に気分がアガります。また、シートカラーも鮮やかで、クルマのキャラクターに合っていますね。

このクロスアップ!を含め、アップ!のトランスミッションは全車ASGとなります。ドイツ語における“オートメーテッド・マニュアル・トランスミッション”を意味し、基本的なメカはMTと同じながら、ギヤチェンジやクラッチ操作をクルマ側が自動でやってくれる仕組みです。AT限定免許でも乗れる2ペダルのMT車ですね。伝達ロスが少ないので、好燃費の実現に貢献してくれます。

ワタシは、シフトレバーの操作が大好きなマニュアル原理主義者なので、クロスアップ!のシフトレバーも走り始めてすぐ、マニュアルモード側に倒しました。自動変速するドライブモードで走ってもいいのですが、同じ2ペダルでも上級の「ポロ」などに積まれるトランスミッション=DSGとはフィーリングが異なります。ありのままにいえば、シフトショックがあるのです。

しかし、自分でシフトレバーを操作するタイミングで「クンッ」と反応するショックが控えめで、シフトダウン、シストアップともに違和感ゼロ。自分でクラッチ操作するより優しい場面も多々ありますが、何より、積極的に運転にかかわれることが楽しいと思えるのです。

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残念ながら、今回は高速走行時の安定性を確認することはできませんでしたが、アップダウンする細い道を走らせるとハンドリングは軽快で、それだけでハッピーな気分になれちゃいました。高速道路を走っていないとはいえ、足の仕上げも良さそうです。

ドイツのアウトバーンを軽自動車で走る気にはなれませんが、クロスアップ!なら迷わずステアリングを握れます。トレッド幅の違いがあるにせよ、軽自動車が日本のお家芸だとすれば、そういった走行安定性の高さはドイツ車のお家芸でもあります。フォルクスワーゲンともなれば、なおさらですね。

クロスアップ!の価格は、“シティエマージェンシーブレーキ(低速域追突回避・軽減ブレーキ)”を標準装備としながら、194万円と思いのほかリーズナブル。軽自動車も決してお安くはない昨今、その牙城の一画へクロスアップ!が食い込んだとしても、ちっとも不思議ではありません!

<SPECIFICATIONS>
ボディサイズ:L3570×W1650×H1520mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:999cc 直列3気筒DOHC
トランスミッション:5速ASG
最高出力:75馬力/6200回転
最大トルク:9.7kgm/3000〜4300回転
価格:194万円
(文&写真/ブンタ)

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