【モノづくりのヒント】m-flo「☆Taku Takahashi」が手掛ける音楽アプリ「block.fm」

■お話を聞くのはこの二人

 

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☆Taku Takahashi(41)
1974年3月29日、神奈川県横浜市生まれ。本名は高橋拓。DJ/音楽プロデューサー。m-flo、Ukatrats FC、ravexのメンバー。10年にはアニメ「Panty&Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックも監修するなど、様々なシーンで活躍。2011年にはインターネットラジオ“block.fm”を立ち上げ、国内外のトップDJが最先端の音と情報を発信している。

 

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前原 孝寛(34)
CROSS BORDERS INC. 執行役員/クリエイティブディレクター/UIデザイナー。m-flo ☆Taku Takahashiが発起人となった国内外のトップDJが参加するクラブミュージック専門メディア「block.fm」の立ち上げを手掛け、サービス企画からクリエイティブディレクション、PR戦略策定など幅広く担当。2015年にリリースしたiOS版アプリは設計からデザインまでひとりで担当。過去には資生堂のiPhone/iPadアプリ「ビジン道場」をプロデュースしApp Store無料総合ランキング1位を獲得。Appleが選ぶベストアプリ「App Store Rewind」にも選出されている。


 

■「block.fm」サイト立ち上げからアプリ版ができるまで

 

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――お二人の関わり合いと出会いは?

前原:僕の前職の社長が☆Takuさんと付き合いが長かったんです。そこでクラブミュージックの配信をするようなメディアサイトを立ち上げたいという要望を頂いて。立ち上げる前に少し時間もあったので、丸4年くらいの付き合いです。block.fmを主催しているのは☆Takuさんの会社で、アプリやサイトの開発をしているのが僕の所属するCROSS BORDERS。サイトはCROSS BORDERSの自社事業としてやっていますが、運営主体は☆Takuさんの会社ですね。

――アプリ開発に至ったキッカケを教えてください。

☆Taku:もう4年になるんですけど、block.fmを運営していく中でいろいろと見ていくと、スマホからのユーザーが増えていたんですね。あとは、自分自身もスマホというものに対する使い方が、全てのワークステーションになっていると気付いた。前原くんも、Webではできない表現がスマホならできるという話をよくしていました。

前原:サイトを立ち上げた時は、まだスマホの割合ってそんなに多くなかったんです。だけど、ここ数年よくいわれるように、アクセス解析を見てもスマホの割合がどんどん増えている。スマホ以外でもblock.fmは聞けますが、インタラクションの部分の表現というのは、いわゆるネイティブアプリの方が自由度が高くて、やれることがたくさんあると。だったらアプリにしましょう、と前々から☆Takuさんと話していて。それでスタートしたのが1年前ぐらいですかね。

――アプリ開発の構想期間はどのくらいでしょう?

☆Taku:3年?

前原:そんなに経ちましたっけ? やろうやろうとは言ってましたが……。実開発とか、具体的に仕様設計を始めたのは1年前くらいという感じです。その前から、あんなことやこんなことができたらいいね、というのは話していました。

 

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☆Takuさんの手描きによる構成アイデア

■アプリ開発のコンセプトと、現場の実作業について

――実際に開発に関わった人数はどれくらいですか?

前原:開発という意味では、CROSS BORDERSのスタッフがWebサイトも含めて4、5人くらいで、☆Takuさんのチームの皆さんが4人くらい。block.fmのスタッフの皆さんも、こういう機能があったらいい、というリクエストを僕がもらったり、僕が提案したりディスカッションしながら進めています。所属する会社は別ですが、僕はもう片足突っ込んでいて、“block.fmの人”みたいな感じでやっています。別会社の仕事という意識はまったくないですね。元々ダンスミュージックが好きですし。

――アプリ開発の作業は具体的にどう進めたのでしょう?

前原:Webもそうなんですが、一般的にアプリは「こういうことがやりたいです」という目的があって、そのために要件整理をしていく。block.fmの場合は元々Webサイトがあったので、その仕組みをアプリに移植するために、“こういう機能があったらこういうUIであるべきだ”とか、“ユーザーが期待するものはこういう動きなので、こういう画面設計にしましょう”と考えていく。Webをバラバラにして、それを組み直して、その上で、アプリだからできることというのを加えていく、という作業をしましたね。

――ラジオという媒体を選んだのは何故ですか?

☆Taku:ラジオの良さって“ながら仕事”ができることですよね。目を使わなくてもいいメディアだったので、そこに魅力を感じました。例えば最新のリリースされていない音楽をかけるとしたら、音があれば映像はいらないでしょ(笑)。block.fmはリリースされていない音楽をかけたり発表する場でもあるので、特にラジオはフィットしているなと。もちろんblock.fmの中に映像コンテンツもありますが、“いいな”と思った音楽を気軽にパッと楽しめるのがいいと思います。

前原:DJのトークって面白いんですよ。最初はDJ側じゃない人として聞いていたのですが、DJそれぞれの人柄が出ていて、DJが「この曲、超カッケーんだよ!」と曲を紹介すると、それだけで納得できるんです。ラジオとクラブでプレイするDJの親和性は高いと思いますね。☆Takuさんの場合は、「さっきのカッコいいよね!」と言って、再生が始まった曲を突然巻き戻して、最初からもう一回流したりするんです。それもラジオならではの楽しさです。

――かなりの数の番組がありますが、録音はどこでやるのでしょう?

☆Taku:生放送も含めて、このスタジオ(☆Takuさんの会社内)で録音しています。生放送は80%くらいかな。番組をつくる側、DJも生がいいって言うんですよね。

前原:サイトオープン時は目玉としてツイッターでコメントできるという機能もあったので、まさにインタラクティブに、ラジオにハガキを送るようにツイッターでやり取りがありました。だから生で反応を感じながら話すDJもたくさんいらっしゃいます。

 

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☆Takuさんの事務所にあるスタジオで番組はつくられる

 

――番組に関してシナリオや台本はあるのでしょうか?

☆Taku:台本がある番組は2、3しかないです。イギリスのBBCやアメリカのラジオ局のスタイルに近いですね。その分だけ自由に話せるし、音楽の知識だけじゃなく、トーク自体が面白いDJもいます。例えばモーリー・ロバートソンさんの番組は、時事ネタ政治ネタ、いろんなタブーに突っ込んだり、他のメディアではしゃべれないようなことが多い。彼も全く台本はないですね。内容に関して提案することはありますけど、ルールはみなさんが自由にやっていただくこと。もうひとつは、自分がかけたくない曲は絶対にかけない。曲数も特に制限はないです。

 

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アプリ画面

 

――DJがミックスした曲が、ユーザーが選んだシーンに合わせて流れる「SCENE PLAY」はどうやって選曲されているのでしょうか?

☆Taku:選曲のアルゴリズムって、コンピュータのプログラムや、人がアナログ的に選ぶなどいろいろですが、うちの場合はDJという素晴らしい音楽のキュレーターたちが集まっている。音楽というのはひとつ一つ聞いていく楽しさもありますけど、その前後で聞こえ方が変わってくることもあると思うんですね。

だから、DJたちの選曲だけでなく順番を含めてシーンと紐付けています。参加してくれるDJにシーンモードのセレクトをやってもらうこともありますし、「DRIVING」というお題で、とお願いすることもあります。block.fmは、彼らの思う「DRIVING」の解釈で選局してもらうところがユニークだと思いますね。

前原:Spotifyもそうですけど、“これはリラックス用”とか、タグ付けをする中の人がいるわけですよね。それはTakuさんがおっしゃったようなアルゴリズムが元で、“多分この次はこの曲が好きだろう”みたいなもので成り立っていると思うんです。でも、block.fmの場合、究極のアナログというか、DJのキュレーターがその流れを考えてつくるというのが、他と最も違うところなんです。

☆Taku:極端な話、ドカドカ鳴る曲でもリラックスできることがある。コンピュータアルゴリズム、ヒューマンアルゴリズムがあると言いましたが、これはDJたちによる“フィーリングアルゴリズム”なんです。

――小さいクラブをスマホで実現しようとしているのでしょうか?

☆Taku:そういう使い方も、もちろんいいのですが、日本ってクラブというものが生活の文化に入っていないんですね。海外の人たちは、小学校から学校でダンスパーティーをやったり、結婚式のパーティーをやるとき、DJを呼んでみんなで楽しむということが普通にあるんです。

日本にもクラブシーンというものがあるけれど、週末にクラブで楽しんだ後、平日、それにつながるものが全くない。フロアで新しい曲との出合いって刺激的だけど、自分が好きな曲や知っている曲がかかると気持ちがいいと思うんですね。

これでクラブをつくるというより、ダンスミュージックが好きな人たちが、平日に音楽を楽しむためのものというか。週末のクラブだけじゃなくて、毎日の生活で好きな音楽に触れて欲しい。いつも聞いている気に入った曲が、週末のクラブでかかる、みたいに。

ダンスミュージックにあまり触れてこなかった人にも、ダンスミュージックは自分のいる空間を気持ちよくしてくれるものだよ、ということを広めていけたらなと思っています。

 

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■他の音楽アプリとの関係性

――他のストリーミング系アプリを意識しますか?

☆Taku:意識するという表現が合っているか分かりませんが、もっといろいろと一緒にやっていきたいなと思っています。block.fmで流れている曲を選んだら「iTunes」で購入できる機能もありますが、この中に「Spotify」や「AWA」などに追加できるボタンが入っていてもいいと思う。

そうやって音楽との出会いが広がったら、うまくつながっていけたら楽しいですよね。選曲やプログラムをつくる力というのは、4年やってきた自分たちの強みでもある。そんな得意なジャンルで特化して、他のアプリをライバル視するのではなく、つながっていけたらいい。他のサービスと連携して、こちらにない部分とリンクしてうまくやっていけたらと思います。

前原:僕もAWAやLINE MUSICは全然競合だと思っていなくて。☆Takuさんがおっしゃったように、block.fmってDJがまだ発売されていない曲をどんどんかけるわけです。それをblock.fmで聞いて、SpotifyやAWAの「お気に入り」に登録してもらって何度も聴くのは全然ありだと思っています。むしろどんどんやってもらいたい。

やっと日本でもストリーミングサービスで音楽を聴くという文化がスタートしたので、そのシーンやライフスタイル自体が広がることはとてもいいことだと思います。みんなで補えるところは補っていきたい。実際に☆TakuさんはAWAでプレイリストをつくっていますし。ダンスミュージックに特化しているのがblock.fmだから、そのジャンルはうちを活用してほしいな、と。

■「block.fm」が貫く働き方とは

――block.fmの収入形態はどうなっているのでしょうか?

☆Taku:うちの会社の収入ベースはスポンサーなんですけど、音楽会社は絶対にスポンサーにしないということを決めています。何故って、よくスポンサードしてもらっているからそのレーベルの曲をかけるということが起きてしまう。昔、ラジオであまりにそれが強過ぎてつまらなくなっちゃった時期がある。だから僕らがそれをやったら意味がないので、自分たちが良いと信じるものを発信していくという環境をつくり続けていきたいと思います。

――スポンサー集めはどうやっているのですか?

☆Taku:「block.fmです」と言って資料を持って行って会社を訪ねるのではなく、サイトをやり続け、志を持ち続ける上でいろいろな人との出会いがあって今につながっていると思います。もちろんアプリを立ち上げたことで、お話を頂く機会も増えましたけど、やはり一番大事なのは「何か面白いことをしたい」「面白いものをみんなと共有したい」という志を持って発信し続けることが、スポンサーとつながるポイントだと思っています。

前原:実際にそういう☆Takuさんの志があってサイトをやってきて、去年はコカ・コーラさん、今年は資生堂さんやアルマーニさんが付いてくださっていて、block.fmを評価していただけていると思います。block.fmの姿勢は今後も崩さずにやると思います。

 

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DJブースの前にある打ち合わせスペース

 

――☆Takuさんに質問です。アーティストだけでなく、なぜ事業もやられているのでしょうか?

☆Taku:事業をやるという意識はあまりなかったんです。5年くらい前、めまぐるしく新しいダンスミュージックが生まれているのに、日本では情報がなかなか入ってこなかった。でも、日本でも感度の高い子たちがいて、素晴らしいクリエーターたちがどんどん生まれてきたり、ベテランの人がカッコいいダンスミュージックをつくったていたんです。それなのに、みんなとシェアする場所がなかった。

そこでいろいろなところに(サイト立ち上げの)提案をしてみたのですが、不況のタイミングで難しい状況でした。「だったら自分たちでやっちゃえ!」と始めて、結果的に会社になったという感じです。

――仕事の分担はどうなっているのでしょうか?

☆Taku:うちは大企業ではないので、ひとりがいろいろできないといけないんですよね。もちろん得意分野はありますが、お互いにサポートしながら業務をこなしています。フォワードがディフェンスをすることもあるし、逆もまたある(笑)。

前原:☆Takuさんはプレイングマネージャーですよね(笑)。社長なのでスタッフのマネージメントをしていますし、番組もつくるし、出演もする。一般的にはm-floの☆Taku Takahashiというイメージが強いかもしれませんが、幅広いジャンルで才能を発揮されています。一緒に仕事をしていて、とても刺激になります。

――今後はwebよりアプリがメインになるのでしょうか?

☆Taku:確かにアプリ方面で改善していくことは多いですけど、Webを捨てるわけではありません。ただ、今はiPhone版のアプリができたので、これが一段落すれば、Android版の開発にシフトすると思います。

前原:Android版は多くのblock.fmファンの皆さんからご要望をいただいています。もっと多くのみなさんにblock.fmに触れられる機会を増やしていきたいので、楽しみにしていてください。

 

【企業データ】(2015年8月時点)
会社名:Tachytelic Inc./CROSS BORDERS Inc.
サービス名:block.fm
サービス開始時期:2015年4月
事業参加人数:約10人

(取材・文/三宅隆)

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