ザ・ノース・フェイス「Geodome 4」が示すテントの新境地【特集「Go Nature!」】

【球形テントを実現させた科学的アプローチ】

ザ・ノース・フェイスの開発力や技術力の高さを世に知らしめた半球形のドーム型テント。その最新作となる「Geodome 4」に秘められた科学的理論を紐解いていく。

THE NORTH FACE
「Geodome 4」(19万4400円)

大人が立って快適に動ける天井高と、他にはない独創的なデザイン、そして組み立てやすさを持つ4人用テント。フロアは九角形のバスタブ構造だ。5つのメッシュ付き窓とポケットを備える。フロアサイズ:230×218cm、収納サイズ: 73×26cm、重さ11.07kg

■「Geodome 4」を表す3つの数字

1. 高さ2.1m

大人が立っても十分な高さに感じる2.1mは、建築基準法での最低天井高と同じだ。これにより、テントは寝るだけというイメージを覆す、開放感のある居住空間を実現している。また半球ではなくその下まであるため、内部でテントを背にして座れるほど、スペースが有効活用されている。

2. 三角形55個

五角形の中心にポールを備え付け、そこからワイヤーを5本伸ばすことで、五角形から5つの三角形を生み出している。これにより五角形部分の張力が増したが、実は三角形は増えれば増えるほど強度が増すことから、全体の強度アップにも貢献している。「Geodome 4」には全部で55個の三角形がある。

3. ポール6本

縦5本と、横1本の計6本だけで組み上がる。テントポールは交差する部分で上下互い違いの編み込み構造にすることで強度が増すが、このテントでは、ポールを順番にスリーブに通していくだけで、自動的に交差部分が編み込みになるよう設計されている

▲五角形中央のポールにより、フライと本体の間に隙間が生まれ、結露などを防げる。色はサミットゴールドに近いサフランイエローを採用

■ザ・ノース・フェイスの歴史に残る逸品

異才の発明家、バックミンスター・フラーが提唱したジオデシック構造を採用したドーム型テントはザ・ノース・フェイスの象徴ともいうべき存在だ。フラーの唱えるさまざまな理論を用いて作られたテントは、独創的な形状ばかりに目が行きがちだが、実は理に適った構造になっている。その構造をさらに発展させたのが「ジオドーム4」だ。

これまでのドーム型テントは半球状だったが、さらに下に伸ばした形になっている。これは建築物以外ではあまり見ないものだ。もちろんテントでは世界初となる。この新たなチャレンジをわずか6本のポールで成し遂げたのは、ブランドの根底に“DO MORE WITH LESS”というフラーが提唱した考えがあるからだ。

これは “最小限の物質で最大限の効果を得る” という意味で、開発マネージャーの狩野さんによると「ザ・ノース・フェイスに携わっている者全員の根底にある言葉」だという。パーツ数をできるかぎり少なくシンプルにすることで、軽量化を図り、さらに立てやすさまで実現している。

「パッと見、特殊なものに見えるかもしれませんが、実はさほど特殊なものは使っていないんです。フラーの考えをしっかり反映させ、唱えた理論を取り入れた結果がこのテントなんです」

当然ながら簡単に作り出せたものではない。試行錯誤を重ね、6回も試作品を作り完成させたテントは、強度、軽さ、居住性、立てやすさ、どれをとっても申し分ない仕上がりになっている。そして、しっかりとフラーらしさにあふれている。

「元々テントが好きなんです」と話す狩野さん会心の作品は、ザ・ノース・フェイスの開発力の高さを証明する歴史に残る逸品といえるだろう。

 

■「Geodome 4」を読み解く5つのキーワード

▼バックミンスター・フラー

“20世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチ” の異名を持つアメリカの発明家。自身が考案したドーム状の構造物 “ジオデシック・ドーム”は、フラードームとも呼ばれる。

▼イコシドデカヘドロン

20枚の正三角形と12枚の正五角形からなる立体のこと。サッカーボールの構造も基本的にはこれにあたる。「Geodome 4」は下部約1/3を切り取った形だ。

▼ダイマクション

フラーが発明したコンセプト “より少ないものでより多くを成す” ものの名称。「Geodome 4」は、たった6本のポールで空間を生み出せる設計となっている。

▼テンセグリティ

連続した張力と、連続しない圧力の相互作用で整合性を維持する構造のこと。フラーが提唱した概念で「Geodome 4」のワイヤー補強構造がこれにあたる。

▼ジオデシック

平面あるいは曲面上の任意の2点を結ぶ最短距離のこと。フラーは正十二面体型ドーム構造の特許を取得しており、数多くのジオデシック・ドームを製作した。

 

【THE NORTH FACEが誇るドームテントの歴史】

1960~70年代のアメリカで起こったドーム型住宅の流行。「簡素な素材で作れるドームに住んで簡素な生活をしよう」という考え方により生まれたこのムーブメントに呼応して開発されたのが、ザ・ノース・フェイスの将来を決定付ける大ヒット商品「OVAL INTENTION」だ。この独創的なドーム型テントは、その後も理念を受け継いだモデルを誕生させ、開発力の高さをアピールする存在となっている。

1975年

「OVAL INTENTION」

世界初のジオデシック構造を取り入れたテント。ザ・ノース・フェイス創業者であるケネス “ハップ”クロップ をはじめとする3人の若きスタッフによって生み出された。1976年には英加合同のパタゴニア遠征にも使われている。

1984年

「2 METER DOME」

「OVAL INTENTION」の成功を受けて作られた半径2mの大型テント。ヒマラヤ遠征をはじめ、現在も多くの山岳遠征などのベースキャンプで使われている。フライの黄色(サミットゴールド)は遠征用製品にしか使われない特別色だ。

2018年

「Geodome 4」

ジオデシック構造とテンセグリティ理論を改善し生み出された最新ドームテント。これまでの2つとは異なり、半球形ではなく半分より下まで使うことで、かつてない広さと、小型ながらも変わらぬ高さを実現している。日本企画の製品だ。

 

>> 【特集「Go Nature!」】

本記事の内容はGoodsPress5月60-63ページに掲載されています

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(取材・文/樋口拓也 写真/園田昭彦<人物>)

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