“駆け抜ける歓び”は健在!BMW「1シリーズ」がFF化で“使える”コンパクトに

■昨今の自動車事情を見わたすとFF化もやむなし!?

もっとも、モデルチェンジの準備段階で、当のBMWが1シリーズのオーナーに調査してみたところ、自身のクルマの駆動方式を意識しているユーザーは、ほとんどいなかったといいます! 普通の消費者はクルマ選びに当たって、FFかFRかを気にすることはないようです。

となると、機械類を狭いスペースに押し込みやすく、より広い室内空間を取れるFFにしない理由はない。ただでさえ、そもそもの車両寸法も限られていることだし…。

いやいや! それはマーケティング主導の大衆車メーカーの論法であって、いやしくもプレミアムメーカーたるもの、自らのフィロソフィーを反映したプロダクトを優先するべきでは!? と、鼻息を荒くされているクルマ好きの人も多いはず。かくいう私も、そのひとりでした。

でも、昨今の自動車事情を見わたすと、1シリーズのFF化も「やむなし」と思うようになりました。“オーナー調査の結果”とか“FFの合理性”というのは実は一種の言い訳で、ズバリ、厳しくなるばかりの環境・安全基準プラス、“CASE[『C』=コネクティッド、『A』=自動運転(オートオマス)、『S』=シェアリング、『E』=電動化(エレクトリック)”への対応が喫緊の課題なんじゃないでしょうか。

ご存知の方もいるかもしれませんが、まもなく施行される欧州のCO2排出量の制限は、内燃機関のクルマだけを販売しているメーカーには非常に厳しいものになるといいます。基準をパスするためには、一定数のピュアEV(電気自動車)やそれに準じたハイブリッド車を販売する、つまり開発する必要があります。そこに、最近の自動車業界流行りの略語、CASEへの対応も迫られています。いずれも、従来のクルマを大きく変える技術と概念で、しかも、1社単独では対応しきれないというのです。

BMWの“駆け抜ける歓び”を存続させるには、逆説的ではありますが、MINI用にFFを、1シリーズのためにFRをと、2種類のプラットフォームを個別に用意する贅沢は、もはや許されないのでしょう。FF化に対する抵抗感が比較的少ないピープルムーバーのジャンルに先行投入された「2シリーズ アクティブツアラー」や「同グランツアラー」は、BMW新時代の尖兵だったわけです。

■FFシャーシの採用で車内の実用性は大幅アップ

そんな状況下で誕生した新しい1シリーズは、5ドアボディのみの設定。大きさは、全長4335mm、全幅1800mm、全高1465mmと、これまでとあまり変わりませんが、実車を前にすると「ちょっとコロっとしたかな?」と感じます。小さいながらもロングノーズ調だった旧型と比較すると、キャビンがググッと前進し、いわゆる、FFハッチバックの形態に。明らかに2シリーズ アクティブツアラーの系統です。

当面、日本でラインナップされる1シリーズは、大きく分けて2種類。1.5リッターの直列3気筒ターボ(140馬力/27.4kgf-m)を積む「118i」(334万円)、「118iプレイ」(375万円)、「118i Mスポーツ」(413万円)と、2リッターの直列4気筒ターボ(306馬力/45.9kgf-m)を搭載する「M135i xDrive」(630万円)です。トランスミッションは、前者がデュアルクラッチ式の7速AT、後者はコンベンショナルな8速ATが組み合わされます。

まず試乗したのはM135i xDrive。現状、1シリーズで最もハイスペックなモデルで、駆動方式にはFF車ベースの4WDを採用しています。

ドアを開けると、背もたれ、座面ともに、サイドサポートが張り出したアグレッシブな“Mスポーツシート”が目に入ります。ドライバーの背中からお尻をやんわり、かつ、しっかりと支えてくれる頼りがいのあるシートです。車内を見わたすと、なるほど、広い。特に足下、頭回りの余裕が、先代モデルよりも増していますね。

はやる気持ちを抑え、リアシートにも座ってみると、座面の高さが適正でスペースにも不満なし。実用ハッチならではのリアシートといっていいでしょう。背もたれは、4:2:4という凝った分割可倒式で、真ん中だけ倒せば、例えば、4名乗車でのスキー旅行にも対応できそうです。

ラゲッジスペースの容量は、先代より20L増しの380L。後席の背もたれを倒せば1200Lまで拡大可能と、クラストップレベルの広さです。

試乗車はランフラットタイヤを履いていたので、スペアタイヤなどが不要。床下収納部まで常用できます。

さて、リムの太い革巻きステアリングホイールを握って走り始めると、いかにもターボエンジンらしく、ブッ太いトルクがいきなり立ち上がり、1580kgのボディを軽々と運びます。45.9kgf-mという最大トルクをわずか1700回転で得られるので、スロットルペダルを軽く踏むだけでたちまち力強い! 306馬力の最高出力も、発生回転数が5000~6250回転と低めに抑えられ、ペダルを踏み込むと、M135iはすぐに怒涛の“駆け抜ける歓び”を披露します。

ステアフィールは自然で、通常の走行ではエンジンが横置きであることを意識することはありません。ただ、最小回転半径が先代モデルの5.1mから5.4mへと大きくなっているので、入り組んだ道が多い市街地に住むオーナーの人は、FRの1シリーズから乗り換えた直後は、ちょっと戸惑うかも。加えて、前後重量比がフロント940kg:リア640kg(車検証記載値)と、ややノーズヘビーになったので、「従来のクルマよりもフロントタイヤの減りが早いなぁ」と感じる場面があるかもしれません。

気になる燃費は、JC08モードで13.6km/L、新しいWLTCモードでは12.0km/Lとなります。

■BMWのボトムラインを支えるベーシックな118i

一方、新しい1シリーズのベーシックモデルが118i。中低回転域を重視した新開発の1.5リッター直3ターボを搭載します。

「ビーエムなのに3気筒か!?」とエンジン形式を確認すると驚きますが、知らずに乗れば(!?)それと分からないスムーズさ。22.4kgf-mと2リッター自然吸気エンジンに匹敵する最大トルクを、わずか1480回転から発生するので、街乗りなら過不足ない動力性能を発揮します。

最高出力は、140馬力。デュアルクラッチ式トランスミッションならではのダイレクト感ある走りも魅力です。

18インチのタイヤ&ホイールを履くM135i xDriveと比べると、試乗した118iプレイが履くのは205/55R16と控えめなサイズ。乗り心地も控えめにスポーティで、室内広く、荷物も積みやすい実用寄りの“ベーシック・ビーエム”と捉えると、気負わず乗れる心やすさがありますね。

118iの価格は334万円〜。奇しくもメルセデス・ベンツ「Aクラス」の1.3リッター直4ターボを積む「A180」と同じ価格。ちなみに、1.4リッター直4ターボを搭載するフォルクスワーゲンの「ゴルフ TSIハイライン」は338万円〜。ニッポンにおける輸入車の主戦場に、バイエルンのエンジンメーカーから有力なプレイヤーが加わりました!

■自動運転一歩手前の先進技術も導入

改めて新型1シリーズのインテリアを確認すると、メーター類はナビゲーションが示す経路などとともに、10.25インチの液晶ディスプレイ“BMWライブ・コクピット”に表示され、走行速度や読み取った標識はフロントウインドウに投影されます。

センターコンソールには、スマートフォンのワイヤレス・チャージング・ドッグが設けられるほか、Apple CarPlayを介してiPhoneともつなげられるなど、コネクテッドにも力が入れられています。

さらに、天才バカボンを起用したプロモーションで話題になったとおり、音声でナビを操作・設定できる“BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント”や、35km/h以下で走行した直近50mの軌跡をたどって自動で後退できる“リバース・アシスト”、縦列駐車もラクにこなす“パーキング・アシスト”など、先進技術の導入にも余念がありません。こちらは自動運転の一歩手前、といった感じ。近い将来が楽しみです。

今回のモデルチェンジでフォルクスワーゲンのゴルフやメルセデス・ベンツのAクラス、はたまた、アウディ「A3」といったライバルと、ガチで同じ土俵で競うことになった1シリーズ。ドライブフィールや室内空間といった従来の項目に加え、数々の先進技術を採り入れつつ、自社ブランドとの整合性も取らなければならないので大変です。ホント、作る人も乗る人も、FRにこだわっている場合じゃないのかもしれません!?

<SPECIFICATIONS>
☆M135i xDrive
ボディサイズ:L4335×W1800×H1465mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:306馬力/5000~6250回転
最大トルク:45.9kgf-m/1700~4500回転
価格:630万円

(文&写真/ダン・アオキ)


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