“ゲレンデ”の本流を汲むディーゼル仕様。メルセデス「G350d」はベストGクラスだ

■穏やかで扱いやすい心臓部を得た本流に近いGクラス

民生用だけでなく、軍用車両としての使用も前提に、本格的なクロスカントリー4WDとして開発されたGクラスがデビューしたのは、1979年のことでした。

今日の目には“質実剛健”に映る初期のGクラスですが、当時としては画期的なメカニズムを備えるだけでなく、高級感や快適さにもこだわったモデルとして注目を集めました。1990年には、4WDシステムをパートタイム方式からフルタイム方式へと改めたW463型Gクラスがデビュー。この頃から、Gクラスのラグジュアリー指向がより強くなったことをご存知の人も多いでしょう。

そして2018年、Gクラスは大幅改良を受けました。各所で報じられている通り、従来モデルから引き継いだパーツは、ドアアウターハンドルなどごく一部。実際にはフルモデルチェンジと呼べる内容でした。そして、先陣を切ってリリースされたのは、“絢爛豪華”な内外装を備え、高出力な4リッターのガソリンV8ツインターボエンジンを搭載した「G550」と「AMG G63」でしたから、従来からのラグジュアリー路線がさらに加速したように感じたのを覚えています。

それから遅れること1年弱、ようやくGクラスの真打ちたるG350dがラインナップに加わりました。もちろん、Gクラスがメルセデスの手掛けるSUVシリーズの頂点にあること、また、高級・高性能を望むユーザーの声に応えることを考えると、“重厚謹厳”にして“荘厳華麗”なG550とAMG G63も、正常進化といえるのかもしれません。

しかしGクラスは、生粋のオフロードビークルとして誕生したモデルであることを踏まえると、スポーツカー顔負けの超弩級エンジン搭載車よりも、穏やかで扱いやすいディーゼルエンジンを積むG350dの方が、本流に近いモデルといえるのは間違いないでしょう。

■最新スペックのクリーンディーゼルを搭載

G350dが搭載するのは、最新の直列6気筒ディーゼルエンジン。最高出力は286馬力、最大トルクは61.2kgf-mを発生しますから、約2.5トンという車両重量を考慮しても、十分なパフォーマンスを有しています。

また同エンジンは、“sDPF(選択触媒還元法コーティング付粒子状物質除去フィルター)”や“SCR触媒”の導入、さらに、燃焼の最適化で高い環境性能も実現。欧州で導入されている“RDE(路上走行試験)”にも適合したクリーンディーゼルとなっています。

組み合わされるトランスミッションは、9速のAT。駆動方式は、フロント40:リア60のトルク配分となるフルタイム4WDを採用しています。いにしえのGクラスのような、ハイ/ロー切り換えのトランスファーレバーこそ備わりませんが、センターコンソールのスイッチ操作で、クロスカントリー走行に適したデフロックを行うことも可能です。

その上で、エンジンやトランスミッション、ステアリングアシストのセッティングを、シーンに合わせて「コンフォート」「エコ」「スポーツ」「インディビジュアル」の4モードから選択できる“ダイナミックセレクト”も装備。前走車との距離を保ちつつ、渋滞時から高速走行まで対応する“アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック”を始め、“ADAS(先進運転支援システム)”が充実しているのもニュースといえるでしょう。

G350dのボディサイズは、全長4660mm、全幅1930mm、全高1975mmで、先代の最終モデルと比べ、全長で85mm、全幅で70mm、全高で5mm拡大されています。ちなみに、今回試乗した「AMGライン」装着車は、20インチのタイヤ&ホイール(標準仕様は18インチ)を履き、フェンダーもワイド化されており、全幅が55mm拡大された1985mmとなっています。

他を圧倒するAMGラインの迫力よりも、控えめな設えに魅力を感じる人にとっては、ノーマル仕様のエクステリアを選べる点もG350dの魅力といえそうです。

気になるG350dの価格は1192万円。簡単にお買い得といいがたい価格設定なのは事実ですが、上位グレードのG550が1623万円、AMG G63が2114万円であることを考えると、なかなか魅力的といえるのではないでしょうか。ちなみにドイツ本国での価格は、オプションを一切装着しない状態で9万7000ユーロ(約1160万円)ですから、日本法人はかなり頑張ったといえそうです。

■車体の重さを感じさせない痛快な加速

最新のGクラスは、一見しただけでは区別がつきづらいほど、従来モデルのイメージを継承したエクステリアデザインを採用していますが、間近で見ると、わずかに曲面となったガラスやボディパネルにより、モダンになったと感じられます。

そうした変化の中にあって、Gクラスの伝統として継承されたドアアウターハンドルを握り、ボタンを押してドアを開いた時の「ガシュッ」という金属的な開閉音を耳にすると、「あぁ、この感触と音はやっぱりGクラスだ」と、思わずニヤリとしてしまいますね。

そこからシートに腰を下ろすと、目の前に広がるダッシュボードの形状や、12.3インチのワイドディスプレイを採用したメーター周りなどが、最新のメルセデスであることを主張します。こうしたギャップはなんとも不思議な感覚ではありますが、アップライトな着座姿勢やドアガラスの低い見切り、フロントフェンダー上部に見えるウインカーなどは、やはりGクラスらしい世界といえるでしょう。

エンジンを始動させて真っ先に感じるのは、ディーゼルエンジンとは思えないほどの優れた静粛性。アイドリング時は、“OM656型“6気筒ディーゼルターボエンジンが発する硬質なサウンドが、かすかに聞こえてくる程度です。

ステアリングコラムに備わるセレクターレバーでDレンジを選び、右足に力を込めると、動き出す際のタイヤの1回転目から高い精度が伝わるほど、スムーズに速度が乗っていきます。何よりうれしいのは、直6ディーゼルターボのツブの細かいサウンドと、滑らかなフィーリング。車内ではよほど神経を研ぎ澄ませて音を聞き分けようとでもしない限り、ディーゼルエンジンであることを見抜くのは難しそうです。また、OM656型エンジンは、1200〜3200回転に渡って61.2kgf-mという大トルクを発するだけあって、信号からの発進はいうに及ばず、50~60km/hからの加速も想像以上に痛快です。

従来モデルからの進化を感じられる部分としては、ステアリングフィールの変化がまず挙げられます。かつては、高速道路や深いわだちのある舗装路を走る場合、一定以上の速度においては路面の状態がステアリングに伝わりづらく、悪天候の時や高速域ではちょっとした緊張感を伴うこともありました。

一方、2018年の大幅改良で、象徴ともいうべきラダーフレームを新設計し、サスペンションもフロントがダブルウィッシュボーンの独立懸架となるなど、時代に即した進化を遂げてた最新のGクラスは、そうした運転操作に関する独特なフィールがすっかり解消。それはG350dでも同様で、一般的なステーションワゴンやクロスオーバーSUVから乗り換えても、違和感を感じたり、慣れを要したりすることはなさそうです。

さらに、サスペンションが前後ともリジッドアクスル式だった従来型とは異なり、フロントが独立懸架式となったことで、岩のような剛性感はそのままに、乗り心地も向上しています。少なくとも一般的な舗装路面を走る限りは、路面から伝わる振動はしっかり遮断されていますし、つづら折りの峠道でも、ボディが揺すられるような動きを感じることはありません。

意外だったのは、車重から想像するよりも軽快なフットワークで、程良いパワー&トルクと相まって、ワインディングのドライブも十分楽しめるほど。この辺りは、上級グレードのG550に勝るとも劣らない魅力といえるでしょう。

とはいえ、大きな目地段差を通過する際などに、とがった振動こそないものの、相応の衝撃が伝わってくるのは、ラダーフレーム+リアリジッドアクスルサスを採用するオフロード車の定めかもしれません。

従来モデルは、操縦性や快適性などに、少なからず普通のクルマとは異なる感触があったこと、また、ADASを始めとする装備面を考えると、どうしても尻込みしてしまう、という人も多かったと思います。その点、最新モデルは、一朝一夕には得がたいたぐい稀なオフロード性能、メルセデスらしい硬派なイメージなど、Gクラスの長所はそのままに、現代的なテクノロジーを惜しみなく注ぎ込むことで、気になるネガを見事に解消しています。

確かに、シリーズのエントリーモデルとはいえ、1000万円を超えるプライスタグは最大のハードルとなるかもしれませんが、クルマを使うというシチュエーションにおいて何事が起こっても少しも動じない、まさに“泰然自若”な信頼感が手に入ると思えば、G350dは価格に見合う価値があるクルマだといえそうです。

<SPECIFICATIONS>
☆G350d(AMGライン装着車)
ボディサイズ:L4660×W1985×H1975mm
車重:2490kg
駆動方式:4WD
エンジン:2949cc V型6気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:9速AT
最高出力:286馬力/3400~4600回転
最大トルク:61.2kgf-m/1200~3200回転
価格:1192万円

(文&写真/村田尚之)


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