人気のカングーに待った!シトロエン「ベルランゴ」の“使える度”は想像以上でした

■ひと目でシトロエンと分かるアイコンが点在

ありきたりなミニバンではなく、事務用品的な商用車でもない。“はたらくクルマ”のシンプルさを生かしたMPVという独特のキャラクターで、ここ日本でも絶大な人気を得ている輸入車といえば、ルノー「カングー」の姿を思い浮かべる人も多いはず。そんなカングーのライバルともいうべきベルランゴが、ついに日本へ導入されることになりました。

ベルランゴの初代モデルは、1996年に欧州でデビュー。現行モデルは、2018年のモデルチェンジで誕生した3代目で、欧州では商用バン仕様まで含め、多彩なバリエーションが用意されています。ちなみに、シトロエンと同じPSAグループに属すプジョーは、ベルランゴの兄弟車として「リフター」をラインナップ。こちらもベルランゴと同じタイミングで、日本へ導入されることが決定しています。

今回採り上げるベルランゴは、日本への上陸を記念した特別仕立てのデビューエディション。そのエクステリアには、上段にポジションランプ、下段にヘッドライトという“二段構えデザイン”のフロント周りや、“エアバンプ”と呼ばれるボディサイドのプロテクターなど、ひと目で最新世代のシトロエンと分かるアイコンが散りばめられています。

ボディサイズは全長4405mm、全幅1855mm、全高1840mmで、日本の5ナンバーミニバンよりちょっと短くてワイド。カングーと比べると125mm長く、25mm幅広く、30mm高い絶妙なサイズ設定です。背が高いこともあって、たたずまいこそ数値以上に立派に見えますが、このサイズなら都市部でも取り回しに苦労することはないでしょう。

後席にアクセスするためのリアドアは、同ジャンルのクルマではお馴染みのスライド式を採用。上ヒンジで開閉するリアゲートには、ガラス部だけの開閉機構も備えています。この手のクルマのリアゲートは、観音開き式と上ヒンジ式とで好みが分かれるところですが、前者なら小さいスペースでも開閉可能、後者ならキャンプ時のタープ代わりに使えるなど、その長所はどちらも甲乙つけがたいところです。

搭載されるエンジンは、1.5リッターの直4ディーゼルターボで、最高出力130馬力を発生。もちろん、酸化触媒やSCR選択還元触媒、DPF微粒子フィルターといった排気浄化システムを備える最新のクリーンディーゼルであることはいうまでもありません。

組み合わされるトランスミッションは、日本のアイシン・エイ・ダブリュと共同開発した8速ATですから、信頼性においても不安はなさそうです。

■デザインや素材使いの妙でワクワク感を演出

さて、ベルランゴのメカニズムにおいて注目すべきは、パワーユニットだけではありません。現行モデルは2018年のデビューということもあり、“ADAS(先進運転支援システム)”も充実しています。

前方の車両や障害物を検知し、ドライバーが回避操作を行わない場合には自動的にブレーキを作動させる“アクティブセーフティブレーキ”や、車線からはみ出しそうになるとステアリング操作をサポートする“レーンキープアシスト”に加え、“ブラインドスポットモニターシステム”や“インテリジェントハイビーム”などのセーフティデバイスが標準で備わります。さらに、車間距離を保ちながら前走車に追従する“アクティブクルーズコントロール”や、車庫入れや縦列駐車の際に駐車可能なスペースを検知し、ステアリング操作を自動で行う“パークアシスト”も標準装備とするなど、最新のMPVにふさわしい充実した安全&運転サポート機能も魅力です。

一方、MPVとしては外せないユーティリティは、欧州車はもちろん、日本のミニバンなどもしっかり研究したことをうかがわせる、芸の細かさが光ります。ルーフの前部には収納トレイが、後部には前後からアクセス可能なボックス状の収納スペースが…といった具合に、車内には計28箇所もの収納スペースを用意。これならレジャーアイテムを始めとする小物類も、車内に散らばらずに済みそうです。

またベルランゴは、ラゲッジスペースそのものの使い勝手も良好。3名分が独立したリアシートを使用した状態で1m、リアシートを格納すると1.88m、さらに助手席を畳んだ状態で2.7mという荷室長を確保しており、ロングボードを始めとする長尺物もラクに搭載できます。欧州製のMPVはシンプルな仕立てというイメージがありますが、多彩なシートアレンジを始めとする車内の凝ったカラクリは、日本のミニバンに近い印象を受けました。

細かく見ていくと、ダッシュボードやドアトリムなどのインテリアの質感は、確かに商用車のそれ…といった部分もありますが、最新シトロエンの流儀に沿った遊び心あふれるデザインが、そうした印象を上手にカバーしてくれます。

シートもまた然りで、レザーやスエード調素材のような上等なマテリアルこそ使用していませんが、ざっくりとした手触りのファブリックにワンポイントカラーをアクセントとして配すなど、クルマのキャラクターにマッチしたカジュアルなコーディネートにまとめられているのが印象的。

デザインや素材使いの妙でMPVらしいワクワク感を演出しているところは、「さすがシトロエン!」と思わずヒザを打ちたくなるほどです。

■シトロエンらしい懐の深さを感じさせる走り

ベルランゴ(とプジョーのリフター)は、フランスを始めとする欧州市場で高い評価を受けていることから、日本導入を待ち望んでいた人も多いことでしょう。

ミニバンやMPVといえば、現在、日本市場においてSUVと並ぶ活気あるカテゴリーであり、ライバルと目されるカングーの現行モデルも、日本上陸から10年を経たものの、その勢いに衰えは見られません。実際、2019年に約7000台のルノー車が日本で販売されましたが、その実に3分の1以上がカングーだったと聞けば、プジョーとシトロエンもただ傍観している場合ではない、というのが本音かもしれませんね。

さて、ユニークなダイヤル式のセレクターで“D(ドライブ)”を選び、ベルランゴでドライブへと出掛けましょう。

エンジンは1.5リッターのディーゼルターボですが、アイドリング時の静粛性はガソリンエンジン搭載の乗用車と同等レベル。高速道路を走行中、前席と後席とで会話をするような場合でも、声を張り上げる必要などなさそうです。市街地走行時や高速道路で追い越しを掛ける際などは、時折、右足の動きに比例して「コロコロ」という粒のあるエンジン音が耳に届くものの、騒々しいノイズや振動はしっかり遮断されており、不快感を覚えることはありませんでした。

また乗り心地については、走行シーンを問わず、シトロエンらしい懐の深さを感じられます。デビューエディションはフル装備、かつパノラミックガラスルーフを備えていますから、車重は1590kgと決して軽いわけでありません。しかし、その重さと2785mmという比較的長めのホイールベースが功を奏し、街中はもちろん、高速道路においても、しっとり落ち着いた乗り味を味わえます。

興味深いのは、ただ鈍重なわけではなく、想像以上にしっかりと路面を捉えて離さない足回りを生かし、ワインディング走行も難なくこなしてくれるところ。攻めて楽しいタイプではないものの、ちょっとした峠道なら不安を感じるようなことはありません。

このように、かなりベタ褒め、となったベルランゴですが、今回試乗したデビューエディションは、残念ながらすでに完売。レギュラーモデルは果たしてどんな仕様となるのか? 2020年秋の上陸が今から楽しみです。

<SPECIFICATIONS>
☆デビューエディション(限定車)
ボディサイズ:L4405×W1855×H1840mm
車重:1590kg
駆動方式:FF
エンジン:1498cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:130馬力/3750回転
最大トルク30.6kgf-m/1750回転
価格:325万円(完売)

(文&写真/村田尚之)


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