もう一度乗りたい!メルセデスW124型「Eクラス」はクルマの進化のあり方を問う名車

■とにかく運転していて疲れないW124

――今回採り上げるのは、1984年秋に発表された「ミディアムクラス」、後にEクラスと改名したメルセデスのW124型です。11年間のモデルライフにおいて、ステーションワゴンのS124型、クーペのC124型、カブリオレのA124型といった派生モデルも登場。シリーズ累計で273万台以上のセールスを記録したヒット作です。

本来なら“もう一度乗りたい”過去の名車を採り上げる本企画ですが、実はW124は五朗さん自身、現在、所有されているクルマなんですよね。

岡崎五朗(以下、岡崎):実をいうと、それほど欲しいとは思っていなかったんだ。僕がこの仕事を’90年に始めたんだけど、当時、駆け出しのジャーナリストに700万円もする高額車のインプレッションなど依頼がなかった。なのでW124は、チョイ乗り程度の経験しかなかったんだよね。もちろん、ドアを閉める時に「ガチャリ」と金庫のような鈍い金属音がすることくらいは知っていたけれど、まさか自分で買うとは思ってもいなかった。

ところがある日、知人から、彼が乗っていたW124を売りたいという話があって、話を聞いてみたら「そんなに安くていいの?」という価格だったんだ。多くの人が名車だとか“最後のメルセデス”だと高く評価していたから、ならば試しに乗ってみようかと軽い気持ちで手に入れたんだ。で、実際に乗ってみると、コレが本当にいいクルマだった。

――W124がいいクルマだと思われるのは、どんなところですか?

岡崎:とにかく、運転していて疲れないところだね。僕のW124はクルーズコントロールが壊れていて作動しないんだけど、「“クルコン”なんていらないんじゃない?」と思わせるほど、ロングドライブでも疲れないんだ。

重く踏みごたえのあるアクセルペダルは昔ながらのメルセデス流で、乗り始めた頃は「なんでこんなに重いんだ?」とビックリした。でも、高速道路などで速度をキープし続けるにはバッチリの重さで、とても理に適っている。だから、高速道路で長時間、アクセルペダルに右足を載せていても決してイヤじゃない。自分が思っている以上にスピードが乗ってしまったり、逆に遅くなったりすることがなくて、無意識のうちに速度をコントロールできているんだ。

――ということは、例えば80km/hで走行中、「90km/hまで加速したいな」と思うと、スムーズに速度をコントロールできるという感じですか?

岡崎:それが、80km/hから81〜82km/hまで加速するといった、もっと緻密な速度コントロールも可能なんだよ。アクセルペダルが軽いと、ついつい踏み込み過ぎちゃうじゃない? そうすると、思った以上にスピードが出過ぎてしまい、いつの間にか前を走るクルマに近づいてしまう。すると今度は、アクセルペダルを戻さなきゃならなくなる。W124はそういった煩わしさがなくて、思った通りに速度をコントロールできる感じなんだ。

――まるで右足とエンジンのスロットルとがダイレクトにつながっている感じなんですね。

岡崎:一方で、フル加速したい時などは、アクセルペダルを深く踏み込んで明確に意志を示してやらないと加速してくれない。だから、W124は加速が鈍いと感じる人もいるようだけど、実際は、ドライバーが「急加速するぞ」と自覚してアクセルペダルを踏み、アクセルペダル裏のキックダウンスイッチを押してあげると、トランスミッションがシフトダウンしてエンジンの回転数が高まり、必要十分の加速力を発揮してくれる。こうしたアクセルペダルの操作感は、当時のメルセデスならではだよね。

――足回りの印象はいかがでしょう?

岡崎:サスペンションは、とてもねっとりした感じ。街中を20~40km/hで走っている時でも、サスペンションがしっかり、ゆったり動いているのを実感できる。でもそういうクルマって、サスペンションが柔らか過ぎる印象があるでしょ? ところがW124は、高速道路で80km/h、90km/h、100km/hとスピードを上げていくに連れて、どんどんフラットな乗り味になっていくんだよね。

――謎の足回りですね(笑)。W124には可変式のショックアブソーバーが付いていましたっけ?

岡崎:僕のW124にはそんなものは付いていないよ。可変式のショックアブソーバーが付いていないモデルで、ハイスピード領域に足回りのセッティングを合わせたクルマだと、しばしば街中で乗り心地が硬く感じることがあるんだけど、W124はそうじゃない。まるでアクティブサスペンションを思わせるような乗り味なんだよね。

――ちなみに、W124の時代のメルセデスといえば、大径のハンドルも特徴のひとつですよね。その操作フィールはいかがですか?

岡崎:軽い力でもしっかり握れる大径ハンドルの操舵フィールは、ゆっくり、ゆったりしたもの。だからW124は、決してワインディングロードを楽しむようなクルマではない。今でこそ、ハンドリングではアジリティ=敏捷性などをアピールしているメルセデスだけど、当時のモデルの乗り味というのは、ライバルのBMWとは明確にアプローチが異なっていたんだよね。

【次ページ】W124はメカニカルエンジニアリングの頂点

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