ベーシックな心臓も電動化!新しいボルボ「XC40」は走りの完成度が抜群です

■クルマの電動化を積極的に進めるボルボ

昨今、自動車業界のニュースでよく目にするキーワードが“電動車両”だ。一見すると、純粋なEV(電気自動車)を指す言葉に思え、誤解を招きやすいのだが、実は、モーターを駆動力に活用するクルマであれば、すべて電動車両となり、エンジンの有無は問わない。つまり、日本では一般的な存在になっているハイブリッドカーも、立派な電動車両なのである。

そんな電動車両を展開しているのは、日本車メーカーだけではない。例えば、北欧のスウェーデンを本拠とするボルボも、クルマの電動化を積極的に推進しているメーカーだ。その勢いは日本車メーカーも驚くほどで、なんと2020年のうちに(あと数十日しかないが!)日本国内で販売されるすべてのモデルがパワートレーンにモーターを組み込んだハイブリッド車となり、全モデルの電動化が完成するという。

ボルボはここ数年、急激に電動化への舵を切っていて、すでに海外ではピュアEVも発表している。ボルボといえば、かつては優れた安全性を売り物としていたが、それに加え、これからはクリーンというイメージも高めていこうというわけだ。

そんなボルボのハイブリッドカーには、ふたつのタイプがある。ひとつは、大きなモーターと大容量のバッテリーを搭載し、外部からの充電にも対応したプラグインハイブリッド。先日、レポートしたように、これまでの「Twin Engine(ツインエンジン)」から、再充電を意味する「Recharge(リチャージ)」へと名称を改められたモデルがそれだ。

そしてもうひとつのハイブリッドカーは、エンジンを動力源の主体にしながら、あくまでサポート役に徹する小さなモーターを組み合わせたマイルドハイブリッド。48Vの電圧で作動することから“48Vハイブリッド”とも呼ばれるタイプだ。

今回試乗したのは、その後者。ボルボのSUVラインナップで最も小さいXC40がマイナーチェンジを受け、新たに48Vハイブリッド仕様が設定されたのである。

■全方位的に装備レベルが充実した新しいXC40

新しいXC40の印象をお伝えする前に、今回のマイナーチェンジにおける変更ポイントをおさらいしておこう。

まずは、パワーユニットの変更から。従来の2リッター4気筒ガソリンターボ「T4」と「T5」が廃止され、新たに48Vハイブリッドのスタンダード仕様である「B4」と、その高性能版である「B5」が導入された。また上記したように、プラグインハイブリッドの「リチャージ プラグインハイブリッド T5」もラインナップに加わっている。

装備の変更も、今回のマイナーチェンジにおけるポイントだ。スタンダードグレードの「モメンタム」は、新たにLEDヘッドライトが採用されるとともに、インテリアのカラーや素材などがリファインされた。

また、スポーティな仕立ての「Rデザイン」では、ステアリングヒーターやリアシートヒーター、ハーマンカードン製プレミアムオーディオシステム、足の動きをきっかけとして手で触れずに開閉できる仕掛けを組み込んだ電動リアゲート、ワイヤレスのスマホ充電機能なども標準装備されている。

このほか、上級グレードの「インスクリプション」にも電動リアゲートが標準採用されるなど、各グレードとも装備内容が格段に充実している。

ボルボ車らしく安全性も向上している。まずは、全グレードとも180km/hでの速度リミッターを設定し、乗員を守るべくスピードが出過ぎないよう配慮した。ボルボは、同社の新しいモデルに搭乗中のアクシデントにおける死亡者や重傷者を“ゼロ”にする目標を掲げているが、同時に、どれだけ車体の安全技術を高めても、速度超過による死亡重傷事故は防げないことを認識している。そこで、スピードを機械的に抑制し、命を守る道を選んだのである。

これに関しては、筆者も「ボルボは思い切った方法をとったな」と思うし、中には、走り方に制約を受けるのを好まないドライバーもいるかもしれない。しかし冷静に考えると、180km/hというスピードは一般の人にとって縁のない世界であり、特に日本では法律を大きく外れた速度領域での話となるため、ドライバーの自由を奪うことはなさそうだ。

それと同時に、新しいXC40には“ケアキー”が付属している。これは、あらかじめ任意の最高速度を設定できるキーであり、これを使って始動させた場合の最高速度を制限できる仕組み。免許を取得して間もないドライバーや、高齢ドライバーが運転する際など、多くの活用シーンがありそうだ。

■期待を上回るほど俊足な新しい48Vハイブリッド

話をパワーユニットに戻そう。

新しいXC40に搭載される48Vハイブリッドは、2リッターの4気筒ガソリンターボエンジンをベースに、ベルトを介して組み込まれたモーターが加速をアシスト。減速時には、モーターがエネルギーを回収してリチウムイオンバッテリーに電気を蓄えるとともに、それを活用してエンジンの苦手とする領域を中心に加速をサポートすることで、パワーユニットの効率を高める。

こうした仕組みは、ヨーロッパのハイブリッドカーでは主力になっていて、すでにメルセデス・ベンツやアウディなどは、搭載モデルを日本市場に導入済みだ。トヨタ「プリウス」に代表される、強力なモーターを積んだハイブリッドカーほどの燃費向上は望めないが、大きな価格上昇なしに、おおむね10%程度の燃費向上を期待できる。これらコストと効果とのバランスに優れる点が、ヨーロッパ車を中心に急速に採用が拡大している理由といえる。

さて、試乗へと出掛けよう。まずドライブしたのはFFの「B4 モメンタム」で、組み合わされるパワートレーンは、新しいXC40で最もベーシックな仕様となる。もちろんベーシックといっても、エンジンだけで197馬力もあるから速さは十分。「ハイブリッドカーは遅い」というひと昔前の思い込みは、全くもって当てはまらない。むしろ、高速道路や上り坂では期待を上回るほど俊足で、エネルギッシュな加速を楽しめるほどだ。

一方、XC40に用意されるもうひとつのハイブリッド、リチャージ プラグインハイブリッド T5と比べると、2台の加速フィールは対極にある。リチャージはとにかくモーターで走っている感覚が強く、極端にいえば、エンジンのないクルマをドライブしているような印象が強い。加速はひたすら滑らかで、あたかもEVのような未来的な走行フィールが強調されているのだ。対する48VハイブリッドのB4は、思わず「付いているのか?」と思うほどモーターの存在感が控えめで、純粋なエンジン車と変わらない躍動感ある加速を味わえる。

クルマ好きの中には、動力源にモーターが存在することを嫌う人も少なくないし、筆者も正直にいえば、心のどこかでそう感じている部分がある。それでも、ボルボの新しいマイルドハイブリッドは「モーター付きもいいな」と感じさせる魅力があった。その一例が、モーターのサポートによってエンジンのフィーリングが向上している点だ。エンジンが苦手とする低回転域をモーターがアシストすることで、ドライバーのアクセル操作に対するエンジンの反応が良化。さらに、回転上昇も滑らかになっているのである。

ちなみに今回は、48Vハイブリッドの高性能版である、B5を搭載した「B5 AWD Rデザイン」もドライブできた。加速フィールを始めとする走りの印象はB4に準じるが、エンジン単体の最高出力が250馬力となるため格段に力強く、フルタイム4WD仕様のため車重は重くなっているとはいえ、峠道の上り坂でもストレスなくパワフルに加速する。

アクセル操作に対するレスポンスにも優れるため、電動車両といっても、とてもスポーティに感じられる。

そうした印象をさらに強めるのが“操る楽しさ”だ。これは、B5 AWD Rデザインに限らず、XC40の全グレードに共通する美点で、ハンドルを切る際の手応えの滑らかさが世界トップレベルにあるステアリングフィールや、峠道などで右に左にと俊敏に向きを変える軽快なフットワークなど、ドライビング好きの視点から見ても、XC40の走りは満足度が高いのだ。

力強く効率的なパワートレーンに、充実した先進安全装備と快適装備、そして、洗練された内外装デザインと、実用的な広さの室内空間&ラゲッジスペース…。新しいXC40は、全方位的に優れたコンパクトSUVへと進化した。日本車とはひと味違う魅力を備えたコンパクトSUVとして、さらなる人気を集めそうだ。

<SPECIFICATIONS>
☆B4 モメンタム
ボディサイズ:L4425×W1875×H1660mm
車重:1670kg
駆動方式:FF
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
エンジン最高出力:197馬力/4800〜5400回転
エンジン最大トルク:30.6kgf-m/1500~4200回転
モーター最高出力:13.6馬力/3000回転
モーター最大トルク:4.08kgf-m/2250回転
価格:479万円

<SPECIFICATIONS>
☆B5 AWD Rデザイン
ボディサイズ:L4425×W1875×H1660mm
車重:1750kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
エンジン最高出力:250馬力/5400〜5700回転
エンジン最大トルク:35.7kgf-m/1800~4800回転
モーター最高出力:13.6馬力/3000回転
モーター最大トルク:4.08kgf-m/2250回転
価格:589万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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