【輸入車編】2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車のホントの実力:岡崎五朗の眼

■多彩な個性が勢ぞろいした華やかな輸入車勢

アウディ eトロン スポーツバック

「eトロン」はアウディが送り出すバッテリーEV(電気自動車)で、ボディタイプは背の高いステーションワゴンともいうべきeトロンと、4ドアクーペスタイルの「eトロン スポーツバック」の2種類が存在する(現時点で日本に導入されるのは後者のみ)。ともに95kWhという大容量バッテリーを搭載することで、フル充電時の航続距離は405km(カタログ記載のWLTCモード)を確保した。

乗ってみて感じたのは、アウディブランドとEVの親和性の高さだ。例えば、フェラーリがエンジンの代わりに電気モーターを搭載したらどうだろう? フェラーリのことだから間違いなく、素晴らしくスタイリッシュで速いEVを作ってくるだろうが、それでもV8やV12エンジンを搭載したモデルほどのオーラを維持するのは至難の業だろう。

その点、歴史的に見て、アウディの魅力に占めるエンジンの割合は比較的小さい。それどころか、電気モーターの無機質なフィーリングはアウディの持つとことんクールで理詰めなキャラクターともよくマッチする。

ただし、他の欧州製EVにもいえることだが、せっかくのEVなのに外部への給電システムがないのはもったいない。

<Goro’s EYES>
○ アウディと電気の素晴らしい相性
× 大容量バッテリーは走るためにしか使えない

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BMW 2シリーズ グランクーペ

「2シリーズ グランクーペ」は、エンジンを横置きしたFFベースの4ドアクーペだ。先々代の「3シリーズ」とほぼ同じ手頃なボディサイズは「今の3シリーズはちょっと大きすぎて」と感じる人から歓迎されるに違いない。

“xDrive”と呼ばれる4輪駆動モデルも用意されているが、基本はFF。そういう意味で、同じ2シリーズでもエンジン縦置きのFRである「2シリーズクーペ」とは素性が全く異なる。筋金入りのBMWファンにしてみれば「なんだFFか」となるかもしれない。しかし2シリーズ グランクーペのドライブフィールには“BMW味”がちゃんとある。それは例えば、濃密なステアリングフィールだったり、精密機械的な味わいがあるエンジンだったり、コーナーでの身のこなしの良さだったりするわけだが、要するに“駆け抜ける歓び”というキャッチフレーズの下、ドライバーを楽しませることを第一のプライオリティに置いたクルマ作りは、このクルマにもきちんと共有されているということだ。

中でも306馬力を発生する2リッター4気筒ターボを搭載するトップグレード「M235i xDriveグランクーペ」の走りは痛快だ。ただし、価格は665万円と3シリーズの中位グレードと並ぶだけに、実際の売れ筋はFFモデルになるだろう。

<Goro’s EYES>
〇 FF車ベースにも残るBMWテイスト
× 上級の3シリーズに迫る価格設定

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BMWアルピナ B3

背景は「諸橋近代美術館」

アルピナは高性能で特別なBMW、ということは、多くの方がご存じだろう。けれど「同じく高性能で特別なBMWである“Mモデル”とは何が違うの?」と聞かれたら、答えられる人は少ないと思う。

かつてのアルピナはBMWからボディやパーツを購入し、自社工場で職人が1台1台手作りしていた。その過程で生まれる高度な組み付け精度、質の高いオリジナルパーツなどによって生み出されるのは、“アルピナマジック”ともいうべき高性能と快適性のとんでもないレベルでの両立。現在アルピナは、BMWの工場内でMモデルと同時に生産されているが、アルピナマジックは健在だ。

BMWの3シリーズをベースとした「B3」は、462馬力/71.4kgf-mという途方もないスペックを誇るが、加速フィールに荒々しさは一切ないし、乗り心地も信じられないほどいい。レーシングカー的味つけのBMW「M3」はもちろん、普通の3シリーズと比べても快適性は明らかにB3の方が上。オプションの20インチタイヤを履いていても、その乗り心地は洗練の極みにある。

商品としての分かりやすさではM3の方が優位に立つ。しかし、内外装を含め、あえて地味にまとめた“アンダーステートメント性”こそがアルピナの魅力といえる。

<Goro’s EYES>
〇 超高性能と洗練の見事な両立
× クルマ上級者にしか分からない魅力

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ランドローバー ディフェンダー

「ディフェンダー」は知る人ぞ知る、オフロード4WD界のビッグネームだ。デビューは1948年(ディフェンダーと呼ばれるようになったのは1990年以降)。同社の「レンジローバー」が“砂漠のロールスロイス”と呼ばれたのに対し、ディフェンダーは道具性に焦点を絞ったタフなモデルとして世界中の冒険家から絶大な信頼を得てきた。

旧型の生産中止から5年を経て発売された新型ディフェンダーは、デザインもメカニズムも最新のものへとアップデート。「上手いな」と思うのは中身を一新しつつも、デザインにはディフェンダーらしさを巧みに取り込んでいるところだ。しかも単なる懐古趣味では終わらず、伝統をさらに発展させている辺りにデザイナーの卓越した力量を感じる。

日本に先行投入された2リッターの直4ターボ仕様は、2トンをはるかに超える重い車体を軽々と走らせる。さすがにスポーツ走行には向いていないものの、モノコック構造のメリットである応答性の高さと、ラダーフレーム式のメリットであるマッタリした乗り味を“いいとこ取り”しているのが最大の美点。静粛性も優秀だ。

多彩なオプションを付けていくとそれなりの金額になるが、キャラクターを考えると、あえて素の状態で乗るのもカッコいいと思う。問題は、全幅が2m前後もあるディフェンダーを収められるガレージを確保できるかどうかだ。

<Goro’s EYES>
〇 名車のテイストを最新技術で復活
× 停めるところを選ぶボディサイズ

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プジョー 208

見た瞬間に目を奪われるようなカッコいいクルマには、なかなかお目にかかれないものだ。それがコンパクトカーであればなおさら。プジョーの「208」は、そんな貴重な1台だ。

キリッとしたヘッドライトや、見る角度によって曲線から直線へと変わるデイタイムランニングライト、大ヒットモデルである「205」を連想させるリアのブラックバンドといったディテールに対するこだわりもすごいが、それ以上に素晴らしいのが全体のフォルム。タイヤの位置/大きさ、ピラーの角度/太さ/位置、前後オーバーハングのバランスなど、立体としての造形がきわめて健康的であり、それが208をカッコよく見せている最大の理由だ。こういうデザインは200m離れたところから見てもカッコいいし、何より飽きが来ない。

一方、インテリアでは、立体映像を利用した3Dコックピットがカッコいい。と同時に、情報の整理が明快で視認性にも優れている。

走りは荒れた路面でわずかに関節の固さを感じるものの、快適性とキビキビ感の両立点は高い。同じボディにガソリンエンジン車とEV仕様を用意した“パワーオブチョイス”も斬新だ。

好みが分かれるのは、小径ステアリングの上からメーターを見る独特のドライビングポジション。僕は好きだが合わない人もいるので、購入を検討中の人は確認しておいた方がいいだろう。

<Goro’s EYES>
〇 Bセグメントのベストルッキングカー
× 好みが分かれるドライビングポジション

>> 日本カー・オブ・ザ・イヤー公式サイト


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文/岡崎五朗

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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