極寒の雪国で見えた!ランドローバー「ディフェンダー」は過酷になるほど真価が際立つ

■イマドキになっても肝心なところはやはり骨太

ウインターシーズンに多くのメディアが雪国でクルマをテストする理由、それは、極寒の環境でなければ試せないこと、分からないことが多数あるからだ。舗装路とも雨でぬれた路面とも全く違う、滑りやすい雪上や氷上といったステージにおいて、クルマはどんな動きをするのか。また、ツルツルに磨かれたアイスバーンの上り坂でもしっかり坂道発進できるのか…。街中や郊外でのドライブでは分からない、クルマの本当の姿が見えるのが雪国でのドライブなのだ。

今回、そんな雪道でのドライブに連れ出したのは、全面的に新しくなった新型ディフェンダー。車体構造はラダーフレームからモノコックへ、サスペンションはリジッドタイプから4輪独立式へ、4WD機構はコンベンショナルな機械式パートタイムからフルタイム方式へ、といった具合に、70年以上の時を経てのフルモデルチェンジだけあって、新型はメカニズム面での進化が著しく、先代モデルからはすっかり様変わりしている。

しかしながら新型は、悪路走破性へのこだわりでは初代モデルに負けてはいない。最低地上高は291mm、アプローチアングルは37.5度、デパーチャーアングルは40度、登坂能力は45度以上、そして、渡河水深性能900mm…といった具合に、オフロード性能をはかるスペックは実にお見事(各数値はエアサスペンション装着車のオフロードモード時)。特にディフェンダーは、タフなリアルオフローダーや高級SUVを多数手掛けるランドローバーの中で最も優れた悪路走破性が求められるモデルだけあって、一切の妥協がないのである。

例えば、フルタイム方式となった4WDシステムは、後輪とセンターのデフロックに加え、副変速機でローギヤも選べるという本格派。随所に、時代の変化を反映させてはいるものの、肝心なところは依然として骨太な構造で、「やはり本物は違うだろ?」とでもいいたげな内容となっている。

■雪道でのドライブに有効なコマンドポジション

そんなディフェンダーの5ドア・ロングホイールベースモデルに、2リッターの4気筒ガソリンターボエンジンを搭載した「ディフェンダー110 P300」で雪道を目指す。装着タイヤは、フィンランドに本拠を置くノキアンタイヤ社のスタッドレスだ。

雪国へと続く高速道路では、新型ディフェンダーがすっかりイマドキのクルマへ進化したことを実感させられる。優れた悪路走破性を誇りつつも、日本の制限速度域であれば操縦性に不満はなく、高速道路でのロングドライブも快適そのもの。絶えずステアリング修正を求められた初代モデルとは異なり、乗り心地がソフトで疲労度が少なく、ロングツアラーとしての性能も申し分ない。

一方、雪道へと走行ステージを移して感じたのは、包まれているかのような安心感だ。まず新型ディフェンダーは、コックピットからの視界がいい。豪雪地帯では雪が壁となって視界を奪い、交差点を曲がる際や脇道からの合流時などに周囲を確認しにくいことも多いが、高い位置から周りを見渡せるディフェンダーは、ドライブ時の安全性を高めると同時にドライバーのストレスをも軽減してくれる。

これは、ランドローバー車に共通する美点のひとつだ。“コマンドポジション”と呼ばれる、見切りの良さを狙った高い着座位置の賜物だが、車体サイズをつかみやすいだけでなく、車両直近の路面の様子がよく分かるというメリットももたらしてくれる。雪国の道は、新雪、圧雪、アイスバーン、氷、そして、時にはシャーベットと、路面状況が刻々と変化し、それぞれ滑りやすさが全く異なる。そのためドライブ中は、それらを想定した運転操作が求められるが、新型ディフェンダーは視界が良いため、路面状況の変化を把握しやすいのだ。

さらに、大径タイヤと最大291mm(一般的なクルマの約2倍!)という最低地上高の組み合わせも、雪道でのドライブでは心強い限り。例えば、雪道では除雪された雪が路肩に山積みとなり、道幅が狭くなっていることが多いため、狭い道で対向車とすれ違う際には、その山のギリギリまでクルマを寄せる必要がある。でも寄せすぎると、今度はタイヤがはまり込み、スタックしてしまう恐れも。しかし新型ディフェンダーなら、多少深い雪だまりに踏み込んでしまっても気にならない。タイヤの1/3くらいが埋まってしまっても余裕しゃくしゃくで脱出できるからだ。

同様に、道路から駐車場へ入る際なども、フツーのセダンでは路肩に盛り上がった雪を横切る際に亀の子状態になるのを恐れ、躊躇することもあるが、そんな状況でも新型ディフェンダーなら、全く気にせず乗り越えられる。その分、ドライバーには心の余裕が生まれ、安心して運転操作に集中できるようになるのだ。

■その気になれば雪上でのドリフト走行も楽しめる

新型ディフェンダーの走行特性は、基本的に安定性を追求したトラクション重視型。どんな過酷な状況でも、無事に帰ってこられることを大前提とした味つけだ。

しかし、真面目ひと筋かといえば、そうでもないのがこのモデルの奥深いところ。雪道でアクセルペダルを深く踏み込めば、リアタイヤへ伝わる駆動トルクが増し、後輪駆動車のようにクルマがどんどん曲がっていくかのような挙動が出る。その上で、スタビリティコントロール(スリップを防ぐ電子制御デバイス)をオフにして積極的にドライバーがコントロールしてやると、ドリフト状態に持ち込めるので思いのほかドライビングを楽しめるのだ。

そんな新型ディフェンダーには、寒い日のドライブを快適にしてくれる装備も充実している。主要グレードには、フロントシートに加え、ハンドルにもヒーターが組み込まれているが、これらは寒い雪道でのドライブにおいてとても重宝する。寒冷地でクルマを運転する際、車内に乗り込んですぐは車内の温度が低いため、厚手のコートを着たまま乗り込むか、それとも脱ぐかで悩むことがある。その点、すぐに温まるシートヒーターがあれば躊躇なくコートを脱げるし、運転操作もスムーズに行える。さらに今回の試乗車にはリアシートにもヒーターが組み込まれていたから、旅を共にする乗員も移動は快適だ。

また新型ディフェンダーには、足下にもちょっとしたうれしい工夫が。カーペットが防水仕様になっているため、汚れても水拭きなどで簡単に掃除できるのだ。降雪地は路面が溶けた雪でぬかるんでいるため靴が汚れがちで、そのまま車内に乗り込むとフロアが汚れてしまう。その点、簡単に掃除できるディフェンダーのフロアは、雪国でも使い勝手がいいのである。

加えてディフェンダーには、リアウインドウだけでなくフロントウインドウにも熱線が入っていて、オンにすれば曇りだけでなく、表面に付着した雪や氷も溶かしてくれる。これは、視界確保による安全性向上において実に有効だ。こういった細かい装備からも、寒冷地での利用も想定したランドローバーのクルマ作りに対するこだわりが見えてくる。

ディフェンダーで雪国をドライブして分かったこと。そのひとつは、走破性に対する絶対的な安心感がドライバーの心にゆとりを生み、その分、安全運転につながるということ。そしてふたつ目は、雪国でメリットを感じられる各種装備は、快適なドライブをサポートしてくれるということだ。今シーズンの雪国は、短時間に多くの雪が降り積もる“ドカ雪”が多かったが、そんな過酷な状況になればなるほど、ディフェンダーの真価がより鮮明になってくる。

<SPECIFICATIONS>
☆110 SE P300
ボディサイズ:L4945×W1995×H1970mm
車重:2240kg
駆動方式:4WD
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:300馬力/5500回転
最大トルク:40.8kgf-m/2000回転
価格:738万円

>>ランドローバー「ディフェンダー」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

【関連記事】
71年ぶりの進化でキャラ変!新しいランドローバー「ディフェンダー」は舗装路もイケる

「レンジローバースポーツ」も搭載!今、直列6気筒エンジンが見直されている理由

過酷な雪上ドライブで分かった!スバル「レヴォーグ」をスキー場でよく見掛ける理由

トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする