差別化が巧み過ぎ!日産「ノート」とルノー「ルーテシア」は中身が同じでも別物だ☆岡崎五朗の眼

■プラットフォーム開発には莫大なコストが掛かる

日産のノート e-POWERとルノーのルーテシア。この2台を同時に採り上げることにしたのには理由がある。クルマに詳しい方ならすでにピンと来ているだろうが、そうではない人のためにちょっとばかりスペースを割いて説明することをお許しいただきたい。実はこの2台、プラットフォームを共有する兄弟車なのだ。

プラットフォームというのはボディの内側に隠れている基本骨格部のことで、衝突安全性から乗り心地、ハンドリング特性、重量、搭載できるパワートレーン、プロポーションなど、クルマの基本性能を決定づける最重要部分である。それだけにメーカーの垣根を超えて同じものを使うことは通常ないが、日産自動車とルノーはアライアンス関係にあり、それぞれが役割分担をすることで開発の効率向上を目指した。

「日産もルノーもそれなりに大きな会社なのだし、作っている工場も違うのだからそれぞれ自前で作ればいいのでは?」と思った人もいるだろう。当然の疑問だ。しかし問題は、プラットフォーム開発には莫大なコストがかかることだ。ひと昔前とは比べものにならないほど厳しくなった衝突安全基準をクリアする車体を作るには、スーパーコンピュータを使った複雑なシミュレーションが必要で、そうして出来上がった設計図を元に1台数千万円する試作車を作成。それを惜しげもなくクラッシュテストにかけてシミュレーションと実際のつぶれ具合の違い、乗員にかかる衝撃値などを測定。シミュレーション結果と違えば(当然違う)、その原因がパーツの強度にあるのか、あるいは組み立てや溶接にあるのかなど検証し、得られた知見を再びシミュレーションに入れ込む。こうしたサイクルを何度も回しながら図面の完成度を高めていく。

さらにその先には、実車を使った数十万kmにも及ぶ走行性能試験、工場での組み立てやすさの検証などが待っている。そうしたあらゆる試験を積み重ねてプラットフォームはようやく完成する。開発の着手から世に出るまでには少なくとも数年かかり、開発に携わる人の数は膨大、さらにそのプラットフォームを使ったクルマを生産する工場への設備投資を含めれば、数百億円では足りないカネが掛かるわけだ。仮に1000億円掛かったとして、50万台で割ると開発費は1台あたり20万円。それが2倍の100万台になれば単純計算で半分の10万円に低下する。もちろん、プラットフォームだけではクルマにならないので、オリジナルのボディ外板やインテリアなどを追加していくわけだが、主要骨格の開発費負担が半減するのはとてつもなく大きなことだ。

■ルノーが開発を主導した“CMF-B”プラットフォームを共用

ノートとルーテシアの両車が使っている“CMF-B”というプラットフォームは、ルノーが主導的立場で開発したもの。2020年5月、日産自動車、ルノー、三菱自動車工業の3社アライアンスは会見を開き、プラットフォームに加え一部ボディ外板の共用化も図ることにより、モデル当たりの開発費を最大40%削減する方針を打ち出したが、その際、ルーテシアやノートが属する小型車セグメントはルノー、それより大型のCセグメントは日産が開発を担当することも発表された。その計画に従えば、ルノーの次期「メガーヌ」は日産主導で開発したプラットフォームを搭載することになるだろう。

しかし、プラットフォームの共有化は諸刃の剣でもある。使い方を間違えると、メーカーごとの個性が薄まってしまうからだ。せっかくコスト削減をしても、不人気車になりさっぱり売れなければ元も子もないわけで、逆にいうとそこがメーカーの腕の見せどころになる。

ということで、まずは2台のデザインから見ていこう。ボディサイズはルーテシアが3㎝長く、3㎝ワイドで、5㎝低い。まあ同じようなものといえば同じようなものではあるが、全幅の3㎝はボディサイド面の抑揚という点で大きな違いを生み出す。実際、ルーテシアの面質はとても豊かで上質だ。加えて全高の5cmの差はスポーティさの違いとなって現れている。ルーテシアの方がサイドウインドウの上下が薄いため、クーペ的なスピード感と重心の低さを感じさせる。

それに対し、ノートはスッキリした造形と、上下幅を大きめにとったキャビン部が室内空間を広そうに見せている。

プラットフォームを共有すると、フロントピラーの角度や付け根の位置、タイヤとの位置関係などさまざまな制約が生じるが、そんな中、両社のデザイナーはとてもいい仕事をしたと思う。ルーテシアは紛れもなくルノーに見えるし、ノートは紛れもなく日産車に見える。さらにいうなら、躍動感のルーテシア、さりげない上質感のノートというように、キャラクター分けもしっかりできている。

インテリアも全くの別物だ。デジタルディスプレイを使いつつも、オーソドックスな造形でまとめてきたルーテシア。

それに対し、ノートはメーターディスプレイとセンターディスプレイを連結させたモダンな造形を採用。下部に収納スペースを設けた大型センターコンソールや、見た目、操作感ともに新鮮なバイワイヤー式のATセレクターなど先進感の演出に意欲的に取り組んでいる。

細部の質感や色使いのセンスはルーテシアに軍配が上がるが、次世代感はノートが上だ。いずれにしても、エクステリア同様、全く異なる世界観がきちんとできている。

■軽快感や切れ味ならルーテシア、快適性重視ならノート

乗り味にも同じことがいえる。ルーテシアが搭載するのは1.3リッター直列4気筒ターボ。今や、Bセグメント車のエンジンは3気筒が主流になっているが、あえて贅沢な4気筒をチョイスしたのは「ひとつ上のCセグメントからの乗り換え客を満足させるため」。実際、振動は3気筒より小さいし、パワーもしっかり出ている。何よりアクセルペダルを深く踏み込んでトップエンドまで回した時の爽快な吹け切り感と優れた振動特性は4気筒ならではのメリットだ。

シャーシ性能にしても、低速域ではやや固さを感じるケースがある反面、身のこなしはソリッドで、コーナリング時の姿勢変化も小さい。キビキビとした走りが好みの人はきっと気に入るはずだ。

一方のノートは、今回のモデルチェンジでガソリン車を廃止。1.2リッター 3気筒エンジンによって発電された電力でモーターを駆動する“e-POWER(シリーズ式ハイブリッド)”のみに絞ってきた。第2世代となるこのe-POWERの特徴は電動駆動フィールを大きく高めたこと、いい換えればエンジンの存在感を大幅に消し去ることに成功した点にある。アクセルペダルを踏み込んだ瞬間にわきあがる太いトルクと、音もなくスルスルと加速していく様はまさにEV(電気自動車)的だ。

80km/hを超える速度域での車速の伸びはエンジンパワーに勝るルーテシアがリードするが、日常域での加速性能はノートも全く負けていない。それどころか、アクセル操作に対する遅れのなさやジェントルな速さといったノートの特性を好む人も多いだろう。

そんなパワー特性と歩調を合わせるように、ノートはフットワークも快適性を重視した味つけになっていて、路面への当たりはルーテシアより明らかに優しい。かといってワインディングロードに持ち込むとアゴを出すようなこともなく、自然にロールしながら路面をしたたかにつかんでいく走りはなかなか気持ちいい。

ホットハッチ的な軽快感や切れ味を望むならルーテシアだが、ノートはノートで舌の肥えた人も十分に満足させられる実力を備えている。特にリアモーターを積極的に使って姿勢制御を行っているノートの4WDモデルは、より上質な乗り味を楽しめる。

このように、日産のノートとルノーのルーテシアは同じプラットフォームを使いつつ、全く異なるテイストを備えていることがお分かりいただけただろう。これが、かつての“「マークⅡ」3兄弟時代”の兄弟車と最新のプラットフォーム共有技術の最大の違いだ。今後プラットフォームの共有化はさらに進んでいくが、そこで問われるのはブランドや車種ごとにいかに独自の味つけを与えられるかだ。そういう意味で、この2台は非常に上手くいったケースである。一方、日産は軽自動車のプラットホームを三菱とシェアしているが、違いはデザインの細部のみにとどまり、乗り味の差別化は全くできていない。せっかく違うメーカーのエンブレムを付けて販売しているのに、もったいないなぁと思うのはきっと僕だけではないはずだ。

<SPECIFICATIONS>
☆日産 ノート X
ボディサイズ:L4045×W1695×H1520mm
車重:1210kg
駆動方式:FWD
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:82馬力/6000回転
エンジン最大トルク:10.5kgf-m/4800回転
モーター最高出力:116馬力/2900〜1万341回転
モーター最大トルク:28.6kgf-m/0〜2900回転
価格:218万6800円

<SPECIFICATIONS>
☆ルノー ルーテシア インテンス テックパック
ボディサイズ:L4075×W1725×H1470mm
車重:1200kg
駆動方式:FWD
エンジン:1333cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:131馬力/5000回転
最大トルク:24.5kgf-m/1600回転
価格:276万9000円

>>日産「ノート e-POWER」
>>ルノー「ルーテシア」

文/岡崎五朗 

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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