乗ればすぐ分かるBRZとの違い!トヨタ「GR86」には操る楽しさがあふれてる

■豊田章男社長のひと声でサスペンションを大幅変更

「コレは、まいった…」。2021年10月末に発売され、ようやく公道での試乗が叶ったトヨタGR86。冒頭のコメントは、このクルマをドライブしての率直な感想である。

GR86とBRZは、トヨタ自動車とスバルが連携して開発し、設計の大部分を共用する兄弟車である。2台とも実質的な開発はスバルが担当したが、結果的に2台の発売開始には約3カ月ものズレが生じた。そこには深い事情があったという。

さかのぼること約1年前の2020年11月。GR86とBRZの開発はほぼ終了していた。しかし、その最終確認会である事件が起きる。最高峰テストドライバーも務めるトヨタの豊田章男社長が、GR86をドライブした後「もっとGR独自の味つけを濃くするべきではないか?」という評価を下したのだ。そこから開発チームの本当の戦いが始まった。発売まで1年足らずの状況下で、GR86の走り味を根本からやり直すことになったのである。

サスペンションのチューニングといえば、スプリング(BRZに比べてGR86はフロントが柔らかくリアが硬い)やショックアブソーバーの減衰力変更が大きな役割を果たすが、2台の違いはそれだけにとどまらない。

例えば、フロントハウジング(ナックル)はアルミ製のBRZに対して、GR86はスチール製を採用。またフロントスラビライザーは、中空式のBRZに対し、GR86はよりリニアにねじれる中実式とし、かつ太さも0.3mm太くした。加えてリアのスタビライザーも、GR86のものはBRZのそれより1mm太く、さらにBRZがボディに直づけするのに対して、GR86はブラケットを介して取りつける。その上リアトレーリングアームのブッシュも、硬度を高めたものに変更したBRZに対し、GR86は従来モデルと同じタイプを使用する。

このように、2台の足回りは兄弟車とは思えないほど細かい差別化が図られている。発売時期に3カ月のズレが生じたのは、そのセットアップを煮詰めるための時間が必要だったからだ。

■ドライバーの思い通り、かつスムーズに動く

こうした難産の末に誕生したGR86は、BRZと同様、素晴らしいスポーツカーに仕上がっている。発売前にサーキットで試乗したプロトタイプでも感じたが、今回、ワインディングを走ってみても、クルマから降りたくないと感じるほどドライビングが楽しい。

コーナーに差し掛かってハンドルを切ると素直に向きを変え、コーナリング中に狙った走行ラインを外さずにしっかりトレースしていく様子は、まさに“オン・ザ・レール”という表現がふさわしい。ブレーキングからコーナリング、そしてハンドルを戻して直線を加速していくという一連の動きが見事なまでにスムーズにつながっていて、ドライバーの思い通りにクルマが動いてくれる。

先代ではちょっと物足りないと感じた動力性能も、新型はエンジンの排気量が2リッターから2.4リッターへと拡大されたことで不満が解消した。400ccの違いというと“わずか”20%に過ぎないが、乗り比べてみると“されど”20%。トルクアップの効果は想像以上に大きく、クルマが動き出す瞬間から力強さを体感できる。

中には、さらにパワーが欲しいという声もあるだろうが、これ以上パワフルになると刺激は増すものの、アクセルを全開にする歓びが減ってしまうのは間違いない。GR86(とBRZ)の235馬力は、まさに使い切れる235馬力なのだ。

さらにMT車は、ブレーキングしながらシフトダウンするドライビングテクニック“ヒール&トゥ”を使う際、エンジン回転数を合わせやすいことに驚かされる。何度やってみても、こんなに正確に回転が合うクルマは初めてだ。

冒頭の「まいった」という感想は、1年前の事件でセッティング変更を余儀なくされたにもかかわらず、ワインディングを実に気持ちよく走れる状態にまでクルマを仕上げてきたこと、そのハイレベルなクルマ作りへの称賛である。

■公道を走るならBRZ、サーキットで楽しむならGR86

その上で気になるのが、GR86とBRZの公道における走り味の違いだ。

確かに、プロトタイプをサーキットで試した際には、2台のハンドリングフィールの違いを感じとれた。しかしそれは、サーキット走行という限界領域だからこその印象の違いかもしれない。それほど速度を上げるわけではない公道のワインディングでも走り味の違いを感じられるかといえば、それはまた別の話だ。

しかし結論からいうと、公道のワインディングでもGR86とBRZのハンドリングの違いをしっかり感じ取れた。

BRZはどこまでも素直な走り味で、ハンドルを切れば不足も過剰もなく、切った分だけ素直に反応する。どこまでいってもリニアな操縦感覚が持ち味だ。

スバル BRZ

一方、GR86の走り味は、端的にいえばダイレクトでシャープ。ハンドルの切り始めでスッと向きを変える印象が強く、グイグイとコーナーの内側へ向かって切り込んでいく。ただしドライビングスタイルによっては、「ちょっと曲がり過ぎる」という印象を受けるかもしれない。

どちらのハンドリングがいいか、その判断は個人の好みに委ねるしかない。筆者としては、ワインディングロードを楽しむなら自然な感覚のBRZが好ましいと思えた。それに対して、サーキットをガンガン走ったり、ドリフトして遊んだりするなら、GR86の方が楽しめることだろう。

間違いないのは、どちらを選んでもスポーツカーらしさ満点の、心地いい走りを存分に楽しめるということ。そこから先のテイストの違いはあくまで“好み”による判断でしかないため、購入するなら両車を乗り比べた上で選ぶことをオススメする。

基本設計を同じくするGR86とBRZだが、これほどまでにハンドリングの違いを演出してきたことに正直驚かされた。トヨタとスバルのスポーツカーに対する熱いこだわりに拍手を贈りたい。

<SPECIFICATIONS>
☆GR86(RZ/6MT)
ボディサイズ:L4265×W1775×H1310mm
車重:1270kg
駆動方式:RWD
エンジン:2387cc 水平対向4気筒 DOHC
トランスミッション:6MT
最高出力:235馬力/7000回転
最大トルク:25.5kgf-m/3700回転
価格:334万9000円

☆BRZ(R/6AT)
ボディサイズ:L4265×W1775×H1310mm
車重:1280kg
駆動方式:RWD
エンジン:2387cc 水平対向4気筒 DOHC
トランスミッション:6AT
最高出力:235馬力/7000回転
最大トルク:25.5kgf-m/3700回転
価格:324万5000円

>>トヨタ「GR86」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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