米西海岸ナパヴァレーワインと肉をつなぐ「ブリッジ食材」とは

■そもそも、ナパヴァレーってどういうところ?

ナパヴァレーは、アメリカの西海岸のカリフォルニア州にあります。サンフランシスコから北に約80km、車で1時間のところに位置し、両側を山に挟まれた土地です。北西方向に約50km、幅は最も広いところで約8km、狭いところだと1.6kmほどだそうです。

現地のメイン道路を走っていると、左右の奥に山が連なっているのが見え、道路の両サイドにはブドウ畑とワイナリーが次々と姿を現します。

▲今回のペアリングでも登場したGrgich Hills Estate

ナパヴァレーは知名度が高いので、さぞかし大きな産地かと思われているかもしれません。しかし、実のところカリフォルニアワイン全体の4%に過ぎず、世界のワイン産地の中ではたった0.04%。フランスのボルドーの1/6しかなく、意外と小さな産地なんです。

また、ナパヴァレーでは、総面積の9%しかブドウを植えていません(約1万8000ha)。むやみやたらに畑を開墾すると、土地に生息する動物や鳥、植物などが消え、環境を破壊してしまう恐れがあるからです。ナパヴァレーでは、自然環境保護を念頭に置いたワインづくりが行なわれています。

ナパヴァレーは日照時間が長く、昼夜の温度差があり、雨が非常に少ない土地です。世界の2%しかない地中海性気候に属し、ブドウ栽培に適しています。

アメリカでは、フランスのAOCやイタリアのDOCに相当するアペレーション-原産地呼称は、AVA(American Viticultural Area)と呼ばれます。Napa Valley AVAはカリフォルニア州初のAVAで、1981年に認定されました。

Napa Valley AVAには、カリストガやカーネロスといったサブAVAが16あります。エリアによって、地形、標高、畑の向き、気候が違うからです。例えば、最も北西部のカリストガと最南のカーネロスでは、昼の最高気温が10℃も違い、北のカリストガの方が暑くなります。カリフォルニアでは、海流の影響で南の方が気温が低くなるのが特徴です。つまり、同じブドウ品種を使っていても、AVAによってワインの味が違ってきます。もちろん、生産者によっても違いますから、ナパヴァレーのワインは、非常に多様性があるワインなのです。

▲スプリング・マウンテンの山の斜面にある畑

 

■ワインと肉を橋渡し!「ブリッジ食材」でペアリングを探る

ナパヴァレーワインについて学んだところで、いよいよ肉とのペアリングです。
料理とワインのペアリングは、両者が口の中で融合し、ワインにない香りを出したり、単なる水では感じることのない料理の甘みを出したり、といった効果を期待するものです。ただ口の中の肉の脂を洗い流すためだけに飲むのは、良いペアリングとはいえません。

ペアリングは人によっても好みが違い、その時の体調によっても変わってくるものですから、これ! と決めつけるのではなく、その時々で柔軟に調整すればいいのです。

前述したように、ナパヴァレーワインは多様性があります。ガツンとパワフルなワインもあれば、エレガントなワイン、繊細なワインもあります。また、肉にも色々な種類があり、近年は熟成肉というジャンルもポピュラーになってきました。

今回は、鉄板焼の肉とナパヴァレーワインとの相性を、東京・六本木の「鉄板焼ステーキ 喜扇亭」で探りました。

▲ナパヴァレーワイン生産者の皆さん

最初に登場したのは、群馬県産豚の肩ロースです。

肉厚の豚肩ロースを、2種類のシャルドネ(白ワイン)と合わせました。

まずは、Grgich Hills Estate Chardonnay 2013(Napa Valley)と、塩を振っただけの豚肩ロースをペアリングさせます。(ワイン輸入元:ワイン・イン・スタイル株式会社)

続けて、Rombauer Vineyards Chardonnay 2015(Los Carneros)を、白味噌で味を加えた豚肩ロースと合わせます。(ワイン輸入元:布袋ワインズ株式会社)

ワインには、ボディ、酸、タンニンなどのレベルがそれぞれにあり、それらをすべて理解した上でペアリングすれば良いのですが、慣れないと、なかなか難しいものがあります。

しかし、料理のメイン素材とワインを橋渡しする「ブリッジ食材」を使うことで、うまくバランスを取り、良いペアリングができる、というのです。

▲左から、岩塩、柚子の搾り汁、山椒、粒マスタード、たまり醤油。

「ブリッジ食材」には、調味料各種を使いました。

ガーギッジ・ヒルズ・シャルドネは、思いのほかサッパリとした酸があるワインでした。肉をシンプルに塩だけで食べてもおいしいですが、柚子をプラスすることで、ワインのフレーバーがより広がり、豚の甘みが引き立つように感じました。

白味噌で味付けされた豚は、コクがあってまろやかなロンバウアー・ヴィンヤーズのシャルドネと合わせました。白味噌の風味とうまみが、ナッティな風味のあるロンバウアーとバッチリです。柚子をこちらにも試してみましたが、柚子と味噌の組み合わせはとても良く、私好み。このシャルドネなら、脂身のある肉も良さそうです。

お次は、山形県産和牛が登場しました。

適度にサシが入り、見るからにジューシーでやわらかそう!

和牛は、カベルネ・ソーヴィニヨン(72%)とカベルネ・フラン(28%)をブレンドした赤ワインViader Vineyards & Winery Proprietary Red Blend 2014(Napa Valley)と合わせました。

シュッとした清潔感のある赤ワインで、最初は軽快ですが、だんだんと複雑なアロマが出てきます。味わいはシルキーでなめらかで、ワインだけでも和牛とよく合いますが、肉を大根おろしとポン酢にからめてみたところ、さらにふっくらジューシー感がアップ! 隠れていた赤いフルーツの甘みも出て、よりおいしくなりました。脂の乗った肉に酸を加えるのはオススメです。(ワイン輸入元:株式会社中川ワイン)

いよいよ、ナパヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンと、鹿児島県産の牛サーロイン(左)、北海道産和牛もも肉(右)のペアリングです。もも肉は60日間の熟成肉になります。

▲手前がサーロイン、奥が熟成牛もも肉

▲左から)Luna Vineyards Appelation Series Cabernet Sauvignon 2014(Napa Valley)、Inglenook Cask Cabernet Sauvignon 2012(Rutherford)、Long Meadow Ranch Winery Cabernet Sauvignon 2008(Napa Valley)

ルナ・ヴィンヤーズのカベルネは、セントヘレナとオークヴィルからのブドウをブレンドしています。酸がしっかり感じられ、果実味がフレッシュでエレガント。(ワイン輸入元:株式会社中川ワイン)

イングルヌックは1879年創立の老舗で、自社畑はすべてオーガニック。しっとり、しなやかで、なめらかなワインです。(ワイン輸入元:ワイン・イン・スタイル株式会社)

ロング・メドー・ランチは、カベルネ・ソーヴィニヨン(86%)に、メルロとカベルネ・フランをブレンド。2008年ですが、まだまだ若さや清涼感があり、今後の熟成も楽しみです。(日本未入荷)

サーロインも熟成もも肉も、まずは塩のみで食し、合わせます。

サーロインは弾力があり、肉そのもののおいしさがあるので、シンプルに塩だけで充分おいしい! 若くフレッシュなルナ・ヴィンヤーズを合わせ、ブリッジ食材として粒マスタードを加えてみると、粒マスタードの酸味が加わり、より良いバランスです。

ブリッジ食材として、サーロインにたまり醤油と山椒を加え、イングルヌックと合わせてみると、ハーブが加わったことで甘みのバランスが取れ、タンニンがやわらかく感じます。

熟成したロング・メドー・ランチには、熟成もも肉を。熟成肉はやわらかさがあり、しっとり感があり、うまみもたっぷり。ワインは2008年で熟成していますが、まだ若々しさがあるので、たまり醤油をブリッジ食材に選んでみました。たまり醤油のうまみとコクがワインと肉をつなぎ、ナッティな風味が生まれ、甘さもアップしたようです。

料理とワインのペアリングを考える場合、ベースの食材(野菜や甲殻類、白身魚、鶏胸肉などの軽い食材/青魚や赤魚、鶏もも、赤身肉、豚など/大トロ、レバー、豚バラ、霜降り牛など)だけではなく、調理方法(生、蒸す、ゆがく、炊く、炙る、マリネ、ソテー、グリル、炭火焼、スモーク煮込みetc…)や味付け(酢、醬油、味噌、みりん、ゴマだれ、濃口醬油、デミグラスソース、クリーム、ラグーetc…)も、ワイン選択の重要なポイントとなります。

そこにブリッジ食材をプラスすると、よりピタリとハマるペアリングになるだけでなく、ペアリングの幅がグンと広がります。

調味料類は家庭にあるものが使えますし、果物、ドライフルーツやナッツ類、ハーブ類など、なかなか使わずに仕舞い込んでいるものが活用できるのもいいですね。
家で気軽に試すのも、ナパヴァレーワインが飲めるレストランで楽しむのもよし。

来日した生産者の話では、ナパでは肉といえば牛肉をよく食べるそうです。サーロインをステーキで食べるほか、BBQもオススメだとか。

肉にブリッジ食材が加われば、ナパヴァレーワインが怖いくらいに進みそうですね(笑)。

▲ナパヴァレーの人たちがよく食べているのは角のある牛だそうです

 

▼東京で肉料理とナパヴァレーワインを楽しめる店

>> 鉄板焼ステーキ 喜扇亭(今回の取材店)

>> Lawry's

>> Wolfgang's Steak House

>> Ruth Chris

▼中華料理とナパヴァレーワインを楽しめる店

>> 聘珍楼(東京ほか)

※取材協力:Napa Valley Vintners /ナパヴァレー・ヴィントナーズ 日本事務所

 


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(取材・文/綿引まゆみ

わたびきまゆみ/ワインジャーナリスト

わたびきまゆみ/ワインジャーナリスト

ワイン専門誌や料理系雑誌での記事執筆をはじめ、日本ソムリエ協会webサイトのコラムなどを執筆。ワインセミナー、トークショー、海外のワインコンクール審査員など、幅広い活動を行なっている。チーズプロフェッショナル、ビアソムリエ、コーヒー&ティーアドバイザーの資格も所有。スイーツ好き。

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