【ヒットの予感】バルミューダ 寺尾 玄(4)“自由な発想”を忘れない

“クリエイティブ”と“テクノロジー”で役に立つ会社になる

DSC_1292a

ーーいくつものプロジェクトを並行させていると思いますが、突発的にアイデアが湧いてきた時にすぐ実行するものなのか、それとも計画を立てて来年以降に回すのでしょうか?

寺尾:以前は本当に好き勝手に「これつくろうぜ」ってチームを動かしてみて、失敗したらダメだったね、みたいなことをやっていたんです。今は当然、人も増えたのでかなり組織的に動いていますね。グリーンファンをやった時は3人だったのが、今は50人いるわけですよ。技術陣で25人くらい。スタッフをいかにうまくワークさせるかを考え、かつ、ビジネス上の利益も狙って行かなきゃいけない。

さらに、我々の場合は高い成長性が義務化されていて、去年の1.2倍じゃダメなんですよ。それをやりつつ、転ばないっていうのはすごく難しい。走っているのと歩いているのだとどっちが転びやすいと思いますか? スピードが速ければ速いほど転びそうになりますよね。そういう状態なんですよ。

ーーモノを作る上で、自分以外に関わる人もどんどん増えていますよね。100%自分で考えていた時と異なり、仕事の内容はどう変化しましたか?

寺尾:今、IPO(新規公開株)も計画にあります。2017年目標で今は動いています。いわゆるモノづくり以外にやることも、「チームプレイ」を強くするため。会社として勘で動いちゃダメですよね。アイデアは勘も重要ですが、実現化するのはチームプレイの強さなんですよね。

IPO(新規公開株)をしたほうが、チームプレイが格段にスムーズになります。なぜそう言い切れるかというと、チーム全体の管理不足によっていろいろなロスやミスが生まれているわけです。グリーンファンで成功し会社の規模は大きくなったけど、効率は悪くなりました。

ーー外から見ていると、あまり感じられませんでした。

寺尾:一昨年末くらいから、少し潮目が変わったなという感じがあって。何が変わったのか冷静に考えたら、自分たちが変わったって気付いたんです。これまでより格段に船が大きくなったんですね。前までは手漕ぎだったから、方向転換するのは簡単だったんですよ。船が大きいと、みんなの息が合ってないと方向転換すらできません。我々のこの規模の会社でさえ、今日の結果を是正しようと思った時に、どこまで戻るかといえば、1年前なんですよ。つまり、今日から何かを変えられるのって、1年後の結果なんですよ。

 

BALMUDA The Toaster ホワイト、ブラック

BALMUDA The Toaster ホワイト、ブラック

 

ーー今、自分の会社をどのように見ているのでしょう?

寺尾:自分がエンジニアだと、すべて自分目線になっちゃうんですよね。「自分たちは次に何ができるかな」ってすぐ考え始めちゃう。でも引いて見ると“自分たち”じゃなくて“あのチーム”って見えるわけじゃないですか、客観的に。自分の会社のスタッフを見て「あのチームがどんなことを実現したらすごいかな?」って考えられるんですよね。

ーーそれがクリエイティブの、ひとつのプロセスだと実感できていますか?

寺尾:いいアイデアを生むための基本ですね、その目線が。ここ数年は、技術を追いすぎてしまったかなと反省しているんです。グリーンファン以降、何で空調家電を続けたのかと言うと、グリーンファンが扇風機であり、空調家電のひとつだったから。たまたまそれが成功したから、てっきり“バルミューダは空調家電屋”なのかと勘違いした節があるんですよ。その考え方自体が全然クリエイティブじゃないですよね。「何でもできる!」と思っていれば良かったのにって。

ーーそもそも始めた時は「何でもできる」ですもんね。

寺尾:そう。“何をやってもいい”から始まっているにも関わらず、こういう考えに陥りやすいんだなって。おそらく今後もやると思いますよ。何度も失敗するだろうなって思いますね。

ーーとはいえ、思い切り変えることは企業として飛躍にもなるけれど、不安では?

寺尾:ですね。だから、今回はその第一歩として、空調家電からキッチン家電に入りますって、対外的にはメッセージを送っています。もちろん初めて漕ぎ出したジャンルだから怖い側面もある。これまでのルックスとはガラリと変えましたし。これでお客様は付いてきてくれるのかな? 理解してくれるのかな? みたいな心配はあったんですよね。でも、信じた通りやるしかない、と思ってやってみたら、ものすごく理解して頂いている実感があるんですよ。セールスがグリーンファンの10倍、20倍の勢いがありますから。

 

DSC_1420

 

ーーグリーンファンの10倍、20倍はスゴい!

寺尾:驚きと同時に、ああ自分たちを信じてやっぱり良かったんだなって確信できて。だから、自分でもバルミューダのことを改めて考えて言葉にしたんですよ。自分たちは、「クリエイティブとテクノロジーを組み合わせて、世界の役に立つ会社」だって。“これがバルミューダ”だと、会社内でも言い始めているんですよ。来年から正式に対外的にもメッセージとして発信していくつもりです。こういうメッセージも会社の規模や方向性で切り替わっていくんですけどね。

かつてミュージシャン時代は、クリエイティブとサウンドを繋げていましたが、結果、それはうまくいきませんでした。バルミューダはクリエイティブとテクノロジーを繋げたんですよ。グリーンファンで開花して、今、その階段を上りつつある。その後も行き詰まった時期がありましたけど、2~3年間やってきて成果がなかなか出にくかった時期を過ごしたことが、すごく重要。やっぱりクリエイティブが足りなかったんですよね。

 

IMG_2630

 

今は、トースターが成功したことで、「何やってもいいじゃん」という思いでいっぱいです。バルミューダって、クリエイティブが大事なんだなって改めて思ったんですよ。それまでの場所から横っ跳びするくらいの。バルミューダの場合はそれを実現化させるテクノロジーを持つチームがいます。彼らはかなり鍛えられていますし、開発力がすごくあるなって思います。横っ跳びするくらいのクリエイティブと、それを実現させるためのテクノロジーの力、この二つ力を使えるのがバルミューダ。この力を使って世界の役に立つなら、家電じゃなくてもいい、何をやってもいいって思っています。まあ、あまりにも楽しいので、キッチン家電はしばらくやりますけどね(笑)。

でも他のことも仕込んでいますよ。今は言えませんけど。

(取材・文/滝田勝紀)


【第5部(最終回):勝負が決まるのは数字にできない“文化”】に続く

【第1部:何故、自分は生きているのか】
【第2部:“必要なモノ”が売れるんだ】
【第3部:価値ある“感動”の体験を】

 

トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする