【ヒットの予感(1/3)】“性能とデザインで勝負する”cadoの家電とは

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鈴木 健(すずきけん) 1973年生まれ。1996年 株式会社東芝に入社。 家電や情報機器グループにてデザイン及びデザインマネージメントに従事。退職後、株式会社リアル・フリートにて、家電ブランド「amadana」のデザイン及びデザインマネージメントに従事する。その後、株式会社カドー(現株式会社カドーデザイン)を設立。2012年6月に株式会社エクレア(現株式会社カドー)の取締役に就任。2014年8月に株式会社カドーの代表取締役に就任。グットデザイン賞、レッドドット賞等、多数受賞。

 

――カドー製品のデザインを手がける鈴木さんですが、子どもの頃からデザインに興味があったのでしょうか?

鈴木 健:小さい頃は乗り物が好きでしたね。父が自動車関係の仕事をしていた影響もあったかもしれません。スーパーカーや、ラジコンブームの世代というのもありました。ランボルギーニ・ミウラ、カウンタックLP400、500といったミニカーを買ったのは覚えていますね。

あと、子どもの頃から絵が凄く得意でした。なので、デザインやものづくりを仕事にしたいと思ったのは早かったです。高校に進学するときに普通科に行くくらいなら、デザインを勉強したいと思い、工業デザイン科を選びましたから。

――高校からデザインを本格的に学び始めたんですね。当時は何をデザインしたかったんですか?

鈴木:やっぱり、クルマですね。ずっとクルマの絵ばっかり描いてました。当時は高校を卒業したら、すぐにクルマのデザインができると思っていたんです。そういうところに就職できると思っていたんですよ。

ところが、日本は工業デザインもインハウスで、工業デザインをバリバリやっているデザイン事務所もほとんどない。どうやら大企業に入らないとそういう仕事に就けないっていうことが、高校2年生くらいでわかったんですよね。『このまま就職したらクルマのデザインはできない』と思って、受験勉強をして大学に進みました。

――大学でもやはりクルマのデザインを目指していたんですか?

鈴木:クルマにこだわらなくてもいいかな、と。いろいろなものをデザインしたいと思い始めたんです。総合家電メーカーなら自分が「これをデザインしたい」ではなく、いろんな物をデザインする経験が積めるんじゃなかと考えたのも大学生になってからでした。

結局、クルマのデザインってみんなでつくっていくんです。それを知ったのが車から離れた理由でした。その頃は『ひとりで全部できるものをやりたい』という気持ちが強かったのを覚えています。

――そして東芝に入社されました。そこで家電製品のデザインを手がける。

鈴木:最初に配属されたのは冷蔵庫のグループでした。ドアが5つくらいある、『かわりばんこ』という製品でしたね。ただ、僕が冷蔵庫グループに配属されたのは背が大きかったからじゃないかなと(笑)。作業するには冷蔵庫を運ぶ必要があったので、そのグループは大きい人ばかりが集められていましたね(笑)

――冷蔵庫のデザインを希望したわけではない?

鈴木:パソコンや携帯電話を希望した記憶があります。冷蔵庫って大体形が決まっていますよね。でも、だからこそ難しくて、その中で他社との差別化も考えなきゃいけないんです。1年中ずっと考えていました。鉄板の印刷の柄だったり、ツヤだったり、ドアのハンドルの形だったり……。当時の冷蔵庫はコントロールパネルが付き始めたので、パネルの使いやすさも考えていました。

 

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最初は『こんなのどうやって差別化するのかな?』『どっちでもいいじゃん』と思ったこともありましたが、中に入るとやっぱり深く考えなきゃいけないんです。僕はそこで3年ほど新機能や性能向上がほとんどない中で、美しさやカッコよさで差別化するということをやりました。

今、どんな製品でもデザインで差別化できるんじゃないかと考えられるのは、あの頃に冷蔵庫グループで学んだことですね。

――冷蔵庫のデザインで鍛えられるのはどういう部分でしょう?

鈴木:冷蔵庫は女性が選ぶことが多いので、そもそも僕とは選ぶ価値観が違います。自分と最も価値観が違うといってもいい。そこで『明日までにハンドル100案考えてこい』というような課題を出されて、必死でひねり出す。

今となってみると、その100本ノックが、造形力の筋トレになったなと思います。どんなものでも、デザインを“考る”“生み出す”ことが出来るというか……。当時の経験にものすごく助けられていますね。

 

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cadoの加湿器は煙突のようなデザインが特徴。思い切ったコンセプトだが、一定の高さから吹き出すほうが効果的で理にかなっている

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加湿器の現行モデル「HM-C610S」(〜27平米、17畳)4万5900円。1回の給水で最大22時間稼働する

 

――東芝では冷蔵庫以外にどのような製品を手がけられたんですか?

鈴木:それこそ、いろんな家電製品をデザインしました。掃除機や洗濯機の後は、国内向けの液晶テレビと海外向けのブラウン管テレビをデザインしました。何をデザインしたかといえば、「テレビの側面」ですね。

――ブラウン管テレビの側面ですか?

鈴木氏:今のテレビって正面から見える部分や脚くらいしかデザインできないですよね。でも当時は側面の造形が勝負だったんです。放熱用のリムをどう立てるか、穴で表現するのか。あとスピーカーの穴もそうですよね。

だから、振り返ってみると東芝にいたときはまだ手書きがメインだったこともあって、デザインというよりも造形職人だったように思います。パステルとかですごい絵を描く先輩とかたくさんいたんです。

入社してしばらくしてからMacとIllustratorが配られて、その後5年ぐらいで手書きはなくなって、気付いたら3Dの時代になりました。僕はちょうど境目だったんだと思います。だから、アナログを経験したことがすごく活きています。いまでもデザインは手書きではじめて、6割ぐらいまで進めています。

――東芝の社内デザイナーから現在へ、どのようにシフトしていったんでしょうか?

鈴木:大きい会社である以上仕方がないのですが、だんだん『デザイナーの意見があまり反映されないな』と思うようになりました。お客さんのことを考えたら、これが正しいと思っても、売り場の意見や他社製品の動きがあってできないことが多い。

それでも、友人から、『日本の家電は何でこんなにカッコわるいの?』と言われるわけです。デザイナーが描いている絵はもっと別の姿をしていたり、機能を持っていたりします。もちろん価格、ニーズ、タイミングなどさまざまな要因はありますが、それが世の中に出ないジレンマを抱えていました。

――プロダクトデザインに対する葛藤が生まれてきたわけですね?

鈴木:いいデザインをすることが価値なのではなくて、いいデザインを世の中に出すことが価値なんじゃないかと思いました。今現在の僕が東芝にいれば、社内のコミュニケーションを上手く実現できたのかもしれませんが、当時の僕はそういう部分が分かっていなくて、結局退社してしまったのです。

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cadoのパーソナル向け小型空気清浄機「MP-C10」。片手で持てるサイズながら存在感あるデザイン

 

――そして、リアル・フリート(現アマダナ)に合流するわけですね?

鈴木:もともと、東芝社内でのアテハカ・プロジェクトというものがあって。それを担当されていたのが、後にリアル・フリートを立ち上げた、熊本浩志さんと田部井雅基さん、鄭秀和さんです。そのプロジェクトのデザイン云々ではなく、『流通を作る』という言葉に僕も感動しちゃったんですよね。

僕自身は、アテハカ・プロジェクトには関わっていないんですが、付き合いはありましたので、辞めたときに『来ない?』と言われて、リアル・フリートに行くことにしました。

――家電ベンチャーであるリアル・フリートで学んだことは?

鈴木:仕事内容は東芝とは全然違いました。修理までやりました(笑)。リアル・フリートでは鄭秀和さんがブランディングをしていて、僕がデザインをするという2人体制だったんですが、そこが凄く勉強になりました。

それまではブランディングとデザインを一緒に考えていたところがあるんですが、この役割が明確にあることで、違うことをしっかりと認識できました。

僕の仕事はプロダクトデザインですが、それに加えて、修理が必要なモノがある場合は、スタッフみんなで流れ作業で直したり、工場に行ってつくったり。東芝の頃は工場に行くといっても、色を確認しに行くぐらいですが、工場でビジネスの話をする。

これまでスタイリングに軸足を置いていたんですが、それから軸足を何個も持って仕事をするようになりましたね。時には営業に行くし、プレゼンテーションにも行く。PRのような仕事もしました。この経験が今に繋がっていますね。

(取材・文/コヤマタカヒロ)


【第2部に続く】“日本の技術”が詰まった空気清浄機と加湿器

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