オンリーワンな高級時計“ブロンズウォッチ”がファンを魅了するワケ

■オンリーワンの表情に“育てられる”ブロンズ素材

そもそも、今日のブロンズ人気の礎を築いたのは、2010年にパネライが発表した「サブマーシブル ブロンゾ」だ。限定生産だったこのモデルは当時、時計に使用されるのが珍しかったブロンズを採用することで、ステンレススティールやゴールド、プラチナなどの素材にはない新鮮なルックスを実現し、時計愛好家の支持を獲得。以後、ブロンズ素材を用いた時計が散見されるようになり、2019年は多くのブランドがブロンズ製ウォッチをコレクションに加えたことで、そのモデル数はピークに達した。

ブロンズはかつての潜水士用ヘルメットに用いられていた事実が示すとおり、鋳造しやすく、強度と耐食性に優れているのが特徴だ。その色味は加えられる錫(すず)の量によっても異なってくるが、多くは赤みや黄みを帯びた銅色で、研磨された直後はゴールドにも似た、上品で深みのある輝きを放つ。

しかし、ブロンズがその特性を発揮するのは実際に使用し始めてからだ。この素材は酸や塩分、湿気に反応しやすいため、使用しているうちに表面が黒ずみ、さらに汗や海水などが付いたままにしておくと、緑青(ろくしょう)と呼ばれる青緑色のサビが表れる。つまり“経年変化”するのだ。

このような、エイジングによって色が変わってしまう素材は本来、ラグジュアリーアイテムでは敬遠されるものだった。しかし2010年代以降は、高級時計をファッション的に楽しむ考え方が浸透し、加えてヴィンテージウォッチの人気が再燃。ケースやダイアルなどにヴィンテージ調の加工を施した時計が支持されたり、素材のエイジングを楽しんだりする傾向が見られるようになった。

つまりブロンズを用いた時計は、デニムやレザーと同様、使い方次第でオンリーワンの表情に育てられるアイテムとして支持されたわけだ。

 

■新たなアプローチを見せる2021年のブロンズウォッチ

もっとも「サブマーシブル ブロンゾ」によってブームを築き上げたパネライは、長年にわたってイタリア海軍特殊部隊に時計を供給し続けてきた歴史がある。つまり同ブランドにとって、ブロンズの採用は海との深いつながりを示すクリエイションでもあったわけだが、こうしたブロンズと海とのストーリーを取り入れたブランドがある。ベル&ロスだ。

航空計器に着想を得たデザインの時計で知られるベル&ロスは2017年、同社にとって実に10年ぶりとなるダイバーズモデル「BR 03-92 ダイバー」を発表。その翌年にリリースされた「BR 03-92 ダイバー ブロンズ」ではケースにブロンズを採用するのみならず、ケースバックには往時の潜水士が身に着けていたヘルメットの意匠を刻印。ダイバーズウォッチと海、ブロンズとのストーリーを1本の時計に盛り込んだのである。その後も同社はブロンズ製モデルをコンスタントにリリースし、2021年はダイアルとベゼルに施された鮮烈なレッドが印象的な「BR 03-92 ダイバー レッド ブロンズ」を発表している。

▲2018年に誕生した「BR 03-92 ダイバー ブロンズ」を嚆矢として、以降は毎年ブロンズ製ダイバーズモデルの新色を展開し続けているベル&ロス。「BR 03-92 ダイバー レッド ブロンズ」(57万2000円/世界限定999本)はダイアルにレッドラッカー仕上げを施し、ベゼルには陽極酸化処理のレッドを採用。ブロンズケースとの組み合わせで落ち着いた雰囲気を見せている

他方、2021年は新しい試みも見られる。オリスは過去、同社を代表するクラシカルなパイロットウォッチ「オリス ビッグクラウン ポインターデイト」やヴィンテージ感漂う「ダイバーズ65」でブロンズを使用。時計の持つヴィンテージの雰囲気を一層強調するマテリアル使いであったが、その後はカール・ブラシアにオマージュを捧げた限定モデルでブロンズを取り入れた。

そして2020年、「ヘルシュタインエディション2020」でフルブロンズモデルを採用。発表するやいなや完売し、要望が殺到したことを受け、2021年に待望のフルブロンズモデルが再び登場した。しかもダイアルは、スカイブルーやワイルドグリーン、リップスティックピンクといったキャンディーカラーで彩り、ブロンズウォッチに新鮮な表情を与えている。

▲ケース、ベゼル、ブレスレットのすべてにブロンズを用いた「オリス ダイバーズ65 コットンキャンディ」(各31万9000円)。38mmのケース径を採用したユニセックスモデルで、ダイアルは鮮やかかつキュートなキャンディカラーに彩られているのが新しい試み。使用していくに伴い、経年変化したブロンズとダイアルカラーがどのようなマッチングを見せるのかが楽しみだ

一方、オメガはサンドイッチ ダイアルを採用した新しい「シーマスター 300」のケースとバックルに、革新的な素材を取り入れた。独自開発のブロンズゴールドである。9Kゴールド、パラジウム、銀といった素材を加えたことにより、ゴールドとは異なるピンクにも近い落ち着いた色合いを生み出しているが、最大の特徴はブロンズ合金でありながら、肌に直接触れて着用できる点にある。

ブロンズ自体の人体への影響は少ないとされながらも、アレルギーなどへの懸念から、時計に採用するうえでは、肌に直接触れるケースバックにはステンレススティールやチタニウムなどを用いるのが一般的だ。しかしブロンズゴールドはこのデメリットを払拭するのみならず、耐腐食性を備えて酸化による緑青の発生を防止。

エイジングもゆっくりと進むため、ブロンズ独特の色合いを長年にわたって楽しめる、いわばブロンズウォッチの新しい楽しみ方を提案するマテリアルというわけだ。エイジングによって人気を獲得したブロンズウォッチは、新たなブロンズ合金の登場で、その楽しみ方も次のフェーズへと突入した。

▲ケース素材に特許申請中の新合金ブロンズゴールドを採用した「シーマスター 300」(136万4000円)。エイジングがゆっくりと進む素材特性もさることながら、新しいシーマスターではスーパールミノバを塗布したベースにアラビア数字インデックスを型抜きしたプレートを重ねた二重構造ダイアルに。しかも、高い精度と1万5000ガウスもの磁場にも耐えるマスター クロノメーターを取得し、往時のルックスを継承しつつも、モダンなタイムピースへとさらなるアップデートを遂げている

>> [連載]時計百識

<取材・文/竹石祐三>

竹石祐三|モノ情報誌の編集スタッフを経て、2017年よりフリーランスの時計ライターに。現在は時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に、編集・執筆している。

 

 

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