シチズン「1984 chronograph」と共に考える。空前のレトロブームを腕時計のプロたちはどう見たか?

音楽やカルチャー、そしてファッションに押し寄せる“レトロ”のビッグウェーブは、腕時計のジャンルにも波及しています。

そんな中、日本時計界の雄・シチズンは'80年代に登場した「スポルテMS」をモチーフとする「1984 chronograph(クロノグラフ)」をリリース。「レコードレーベル」からの一作ということもあり、大人世代が取り入れやすいレトロテイストなデザインに仕上がっています。

当然、有力ショップのバイヤー陣のハートもガッチリ掴み、個性豊かな別注モデルが多数誕生。ファッションのプロである彼らと共に「1984 chronograph」の魅力を語り尽くします。

ファッション賢者と読み解く“レトロブーム”。率直にどう感じていますか?

▲左から:BEAMS(ビームス)野﨑亮佑さん、JOURNAL STANDARD(ジャーナルスタンダード)井田 将さん、TiCTAC(チックタック)西園奈々さん、Ontime/move(オンタイム・ムーヴ)竹内脩太さん、Beauty&Youth(ビューティー&ユース)青谷克也さん

&GP ここ数年、カルチャー全般にレトロブームがきているのをひしひしと感じます。みなさんもライフスタイルにレトロなエッセンスを取り入れていますか?

Ontime/move 竹内さん(以下竹内) 僕はファッションですね。開襟シャツを着たり、古着をミックスしたり、コーデのスパイスとして取り入れています。

JOURNAL STANDARD 井田さん(以下井田) 僕はクルマかな。世の中はSUVの最新モデルが続々と登場していますが、僕は'90年代後半に発売されたドイツのオフローダーに乗っています。3ドアのショートタイプがレトロで良いんです。

Beauty&Youth 青谷さん(以下青谷) 家具ですね。クルマや家電なんかはハイテクなものが好きなんだけど、家具に関しては温かみのある北欧のアンティーク家具が落ち着くんですよ。

BEAMS 野﨑さん(以下野﨑) 僕は音楽です。特にレトロという価値観を意識しているわけではないのですが、'90年代のブラックミュージックが好きで、スタイリングにもそのテイストを取り入れています。

TiCTAC 西園さん(以下西園) みなさん、さすがですねぇ。私なんかは純喫茶を巡ったり、銭湯に通ったりしているくらい。コーヒーも豆から挽いて、ハンドドリップしていますね。

&GP …西園さんの暮らしが一番、レトロの王道のような気が(汗)。

&GP さて、ここ数年、時計シーンでもレトロがキーワードになっていますが、バイヤーのみなさんはどう思われますか?

竹内 たしかにレトロなデザインの腕時計はよく売れるんです。ここ数年流行しているシンプル&ベーシックなコーデにも、ヴィンテージライクな存在感のある腕時計がアクセントになりますし。

井田 意外かもしれませんが、20代くらいの若い人たちは、レトロなデザインを新鮮に感じているようです。たしかに、彼らは'90年代のトレンドなんて知らないし、スマートウォッチに見慣れていますから。こうしたレトロ顔の腕時計を見ると、“懐かしい”というより、むしろ斬新な印象を受けるんでしょう。

野﨑 僕は、レトロ=古いではなくて、“その時代の最先端デザイン”として捉えるようにしています。復刻モデルの別注を手がける際も、当時のデザインに着想を得て、新しいモノを創造する、という考え方でデザインします。

竹内 レトロとはいっても、見た目は古ければ良いってもんじゃありません。デザインはレトロだけど、中身は進化したハイテク、というプロダクトが今の気分です。

青谷 僕はレトロなデザインって、すなわちスタンダードなデザインだと思うんです。ゆえに、合わせる服を選ばないし、飽きも感じにくい。勢いで買って後で後悔する、なんてことも少ないと思います。

西園 それにレトロなテイストを服に取り入れる場合、一歩間違うと、着こなしが野暮ったく見えることも。その点、腕時計ならちょうど良い塩梅でレトロなテイストをきかせられます。

今の気分にドンズバ。スポルテMSをモチーフにした「1984 chronograph」が登場!

▲左:「1984 chronograph AT2541-54A」右:「1984 chronograph AT2540-57E」(各3万3000円)、ケースサイズ38mm、厚さ9.5mm、エコ・ドライブ機能、フル充電時約5カ月稼働、SSケース、5気圧防水

&GP では、今回ご紹介するのはレコードレーベルからリリースされた「1984 chronograph」です。おさらいしておくと、レコードレーベルは、シチズンがこれまで生み出してきた、レトロなデザインやストーリー、歴史が込められたモデルを集めたラインです。

竹内 「1984 chronograph」のモチーフになっているのは「スポルテMS」。シチズン初の3モーター採用の多機能アナログクオーツとして、1984年にデビューしたモデルですね。

&GP ちなみに、グッドデザイン賞も受賞しています。次世代へ受け継がれる価値のある“ポスト・ヴィンテージ”と位置づけられた名機です。

野﨑 初めて見たとき、'80年代らしいレトロフューチャーな雰囲気を感じました。懐かしさも、新しさもあるという風な。

井田 ひと言でいえば、“今どきレトロ時計の模範解答”。やり過ぎ感のないレトロなテイストといい、クセのないモノトーンの配色といい、これは売れるモデルですよね。

竹内 デザインこそオリジナルに忠実ですが、定期的な電池を交換する必要がなく、わずかな光で動くエコ・ドライブで機能性がアップデートされている点も今っぽいなと。

メガネ:レスカ・ルネティエのBONE(4万6200円)/グローブスペックス エージェント、その他すべてスタイリスト私物

&GP カラーバリエーションは黒と白の2色。今シーズン注目のベージュのトーナルカラーのコーデに合わせてみました。

西園 白いダイヤルを黒いサブダイヤルが引き締めるパンダカラーは、モノトーンコーデだけでなく、こうした淡い色みのコーデにも合いますね。着こなしが洗練されて見えます。

井田 価格の割に細部まで作り込まれていて、高見えする点も本モデルの強みだと思います。カジュアルなコーデでも、この時計をプラスするだけで、大人っぽく見えます。

青谷 ラグからバンドにかけてのラインに惹かれました。この端正なラインのおかげで、キレイめのコーデにも合うと思います。

野﨑 たしかに。オリジナルモデルを彷彿とさせる黒ダイヤルのモデルは、トラッドなビジネススーツはもちろん、フォーマルスーツに合わせても良さそう。

井田 サイズ感もちょうど良くて、38mmのケースやスリムなケースのおかげで、スーツやセットアップの腕元にもすっきり収まります。

&GP 今回は「1984 chronograph」のモチーフとなった、1984年発売当時の「スポルテMS」(写真右端)もお借りしてきました。

竹内 ベゼルとりゅうずがゴールドカラーなんですよね。復刻モデルと比べて、いっそう昭和レトロなイメージを色濃く感じます。'60~'70年代の腕時計とはひと味違う、まさにポスト・ヴィンテージの趣です。

■有力ショップがこぞって「1984 chronograph」に熱視線! 大豊作の別注モデル、それぞれのこだわりとは

目の肥えたバイヤー陣にヒットを確信させた「1984 chronograph」。その注目度の高さを証明するように、今シーズンは有力ショップから、別注モデルが続々とリリースされます。

オリジナルを忠実に再現した正統デザインから、カラーリングでイメージを一新したモデルまで、個性派モデルが一堂に会します。バイヤーたちにそれぞれのこだわりを聞いてみました。

【BEAMS】一見シンプルながら、加工による質感の変化でメリハリをプラス

▲BEAMS別注1984 chronogaraph(左:36300円、右:3万3000円)、ケースサイズ38mm、厚さ9.5mm、エコ・ドライブ機能、フル充電時約5カ月稼働、SSケース、5気圧防水

&GP BEAMSの別注モデルは、今回紹介する中でもシンプルさが際立っています。

野﨑 いずれも、以前レコードレーベルを別注した際の人気カラーを踏襲しています。注目はシルバーで、全体をトーナルカラーでまとめつつ、サブダイヤルにはそれぞれ異なった仕上げを施しています。パーツごとに質感を変えることで、シンプルながらもメリハリのある表情を生み出しています。

&GP どちらもコーデに合わせやすそうなカラーリングですね。

野﨑 汎用性の高さは意識していて、オールブラックコーデからTシャツー枚のシンプルコーデ、フォーマルなスーツまで幅広く合わせられます。また、落ち着いた雰囲気に見えるので、幅広い年齢層の人に楽しんでいただけると思います。価格も3万円台とリーズナブル。とにかく1本持っておけば、何かと役立つオールマイティモデルです。

【Ontime/move】:ネタ元はアーカイブ。ディテールのモダンかつスポーティな配色に注目

▲Ontime/move別注「1984 chronograph」(左:3万6300円、右:3万3000円)、ケースサイズ38mm、厚さ9.5mm、エコ・ドライブ機能、フル充電時約5カ月稼働、SSケース、5気圧防水

&GP Ontime/moveの別注モデルは、オリジナルにも存在したカラーだとか?

竹内 そうなんです。シチズンさんにアーカイブの資料を見せていただいたとき、ビビッときたのがこちらの配色でした。コーディネートしやすいモノトーンを基調としつつ、ブラックモデルは色褪せたような白いインデックスが、シルバーモデルは黒ダイヤルに映えるオレンジ色の針とインデックスがポイントです。

メガネ:ネイティブ・サンズのRAYAN Explorer(5万1700円)/グローブスペックス ストア、その他すべてスタイリスト私物

&GP てっきり新たにデザインしたものかと。アーカイブの復刻とは思えないほどモダンな配色ですね。

竹内 ですよね。おそらくマットな質感のケースとバンドも現代的に見えるゆえんです。レトロなイメージが強すぎないのでさまざまな着こなしに取り入れやすいですし、パートナーとのシェア使いもおすすめです。

【Beauty&Youth】:レトロフューチャーと品の良さが融合した渾身のグレーダイヤル

▲Beauty&Youth別注「1984 chronograph」(3万3000円)、ケースサイズ38mm、厚さ9.5mm、エコ・ドライブ機能、フル充電時約5カ月稼働、SSケース、5気圧防水

青谷 ウチがこだわったのは、ずばりグレーの文字板です。ファッションシーンでもグレートーンのスタイリングが注目されているというのもありますが、最近、グレーダイヤルの時計って意外と少ないんですよね。そこを突きました。

&GP 色味も絶妙です。暗すぎず、かといって明るすぎない。

青谷 このトーンにはこだわりがあって、シチズンさんに何度か修正してもらったほど。さらに秒針などにオレンジカラーをあしらうことで、レトロフューチャーな雰囲気に仕上げました。

青谷 合わせる服は、ハイテク素材のセットアップとかがばっちりハマりそう。ちょっぴり淡いグレーなので、黒やグレーはもちろん、ベージュのセットアップにも相性が良いでしょう。週末など、子供の行事でキチンとした服装をしなければならないとき、高級機械式時計だとちょっとキメ過ぎかな…というときにちょうど良い1本です。

【TiCTAC】:人気カラーを再復刻。精悍なブラックウオッチにひとさじの遊び心をプラス

▲TiCTAC別注「1984 chronograph」(3万6300円)、ケースサイズ38mm、厚さ9.5mm、エコ・ドライブ機能、フル充電時約5カ月稼働、SSケース、5気圧防水

&GP TiCTACの別注モデルはグリーンが印象的ですね。

西園 実は2011年に一度、「スポルテMS」は復刻されているのですが、そのときにラインナップされていたのがこのカラーなんです。黒い文字板に青みがかったグリーンのインデックス、そしてイエローの針が映えます。'80年代風のモデルとはひと味違う現代的な雰囲気に惹かれて、今回はこのカラーを選びました。

西園 ケースも文字板もブラックで統一された重厚感がある腕時計なので、白の無地Tシャツとか、カットソーとか、シンプルなコーデのアクセントにぴったりかなと。一点投入すれば、ぼんやりとしたコーデにメリハリをつけてくれるでしょう。また、ビビッドカラーの面積がそれほど大きくないので、コーディネートもしやすいと思います。

【JOURNAL STANDARD】:レトロスポーティな顔つきにオレンジの差し色が映える

▲JOURNAL STANDARD別注「1984 chronograph」(3万3000円)、ケースサイズ38mm、厚さ9.5mm、エコ・ドライブ機能、フル充電時約5カ月稼働、SSケース、5気圧防水

&GP 今回の別注モデルの中で、とりわけ個性が際立っていたのがJOURNAL STANDARDでした。

井田 光沢のあるシルバーケースに白いダイヤル、サブダイヤルは黒で締めて、秒針などにオレンジをあしらいました。'70年代のレーシングウオッチをイメージしています。

井田 光沢のあるシルバーケースに白ダイヤルとくれば、スーツやセットアップとの相性のよさはいわずもがな。また、ダイヤルが普通の白ではなく、日に焼けたようなオフホワイトになっているのもポイント。ヴィンテージライクなこのダイヤルのおかげで、アメカジや古着のMIXコーデにもハマります。

■懐かしさと新鮮さが同居する「1984 chronograph」はレトロウオッチの新定番だ

いかがでしたか? 「1984 chronograph」が単なる“レトロ風”の腕時計ではないことは十分おわかりいただけたはず。それだけでなく、精度の高いクオーツムーブメントや5気圧防水など実用性に優れ、加えて3万円台という手の届きやすい価格設定もうれしいところ。

そして最大の魅力は、インラインから別注モデルまで、個性豊かなデザインバリエーションが大充実している点。自分のスタイリングや好みにジャストフィットする運命のレトロウオッチが、きっと見つかるはずです。

>> CITIZEN「レコードレーベル」

<取材・文/押条良太 写真/五十嵐真 スタイリング/宇田川雄一>

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